日本地球惑星科学連合2025年大会

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[O-06] 新島誕生11年:ダイナミックな変化を続ける西之島の現在と未来

2025年5月25日(日) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:吉田 健太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、多田 訓子(海洋研究開発機構)、森 英章(一般財団法人自然環境研究センター)、座長:吉田 健太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、多田 訓子(海洋研究開発機構)

14:05 〜 14:25

[O06-02] 海洋島では捕食者が一次遷移を始動させる:西之島における海鳥駆動型生態系の誕生

★招待講演

*川上 和人1森 英章2 (1.森林総合研究所、2.自然環境研究センター)

キーワード:西之島、海鳥駆動型生態系、カツオドリ、アジサシ、生態系機能、ハサミムシ

小笠原諸島の西之島は孤立した海洋島で、最も近い島までの距離が130kmある。この島には8種の海鳥と6種の植物、30種以上の節足動物が分布していた。しかし、2013年から2020年の噴火によって全ての大地が溶岩と火山灰に覆われ、以前の生態系が失われた。これは、海洋のただ中に新たな島が生じた状態を再現している。新たに生まれた島にいかにして陸上生態系が生じるかを解明することは、島嶼生物学の重要なテーマの一つだ。歴史的には、これまでにもインドネシアのクラカタウ島やアイスランドのスルツェイ島において新たな島が生まれたことがあり、生物相の遷移のモニタリングが行われてきた。しかし、これらは隣の島から20km以下しか離れていない大陸島である。一方で西之島ほど孤立した場所に新島が生じるのは、人類の歴史上初めてのことである。このため、この島における初期の一次遷移を解明することは、ハワイ諸島やガラパゴス諸島、小笠原諸島のような海洋島における陸上生態系の一次遷移の解明につながる。
 2019年から2020年の大規模な噴火(第4期噴火)の後、西之島では環境省により生物相のモニタリングが行われている。その結果、2021年には多数のカツオドリ類やアジサシ類などの海鳥が営巣を再開したことが確認された。一般に一次遷移ではまず植物が定着し、その後に植物を食べる昆虫などの動物が定着するというボトムアップ型の遷移が生じると考えられている。なぜならば、陸棲動物は陸上に食物がないと生息できないためである。一方で海鳥は海で魚などを採食し、陸上に食物がなくとも営巣したり休息したりすることができる。このため、陸上に他の生物がいない不毛の地であってもいち早く陸地に進出することが可能である。海鳥は、海から陸への栄養塩の供給、羽毛への付着による種子散布、巣を作ることにより節足動物の生息地を創出する生態系エンジニア、吐き戻しや死体を介した分解者への食物供給など、さまざまな生態系機能を持つ。彼らはコロニーを形成して高密度で繁殖するため、集団全体で非常に大きな生態系機能を発揮する。西之島ではまず海洋生態系の上位捕食者である海鳥が定着することで陸上に栄養塩が供給され、その死体等により分解者となる節足動物の定着を促し、その後に植物が定着することが予想されるが、これは前述のボトムアップ型の遷移とは逆の順番である。ここでは、このような生態系を海鳥駆動型生態系と名付け、海鳥の分布変化とこれに伴う他の生物の分布変化に注目して調査を進めている。なお、海鳥はキツネやネコなどの地上性捕食者がいると繁殖が難しいため、肉食哺乳類が分布しない海洋島にのみ成立できるユニークな生態系である。
 2021年に海鳥の営巣がいち早く再開したのは、地形の変化によるものと考えられる。第4期噴火の前には島は広くアア溶岩に覆われ営巣しやすい平坦な生息地は少なかった。しかし、島全体が厚く火山灰に覆われたことで、島全域にカツオドリ類の営巣に適した平坦な地形が広がった。また、侵食により生じたガリーの内部にはアジサシ類が好む砂礫質の平坦地ができた。ただし、営巣を開始した海鳥の繁殖成功度は非常に低かった。火山灰は水はけが悪いため雨が降ると巣が水没しやすく、またガリー内では濁流や噴気の発生で繁殖が阻害されたことが原因と考えられた。つまり、西之島は地形的には営巣しやすいものの繁殖は失敗しやすいエコロジカルトラップとなっていた。このような状況の中で、最近は海鳥が異なる営巣環境や島内分布を変化させており、行動的な適応が生じつつあることが示唆された。また、海鳥の分布拡大に伴って、分解者となる節足動物の分布も拡大してきている。
 島は面積が小さいという特徴があるため絶滅が生じやすい。島の生物相は移入と絶滅の繰り返しにより形成されるが、西之島はそのプロセスを直接観察できる世界的に稀有な自然の実験場となっている。ここでは火山の噴火や地形の変化など、地球科学的なイベントが海鳥の分布に影響を与えており、それは生態系の成立プロセスに影響を与えることを意味する。この島の陸上生物相変化のモニタリングを継続することで、海鳥駆動型生態系の存在を証明することが期待される。