日本地球惑星科学連合2025年大会

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[O-11] 高校生ポスター発表

2025年5月25日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)、鈴木 智恵子(海洋研究開発機構)、中西 諒(国立研究開発法人産業技術総合研究所)


13:45 〜 15:15

[O11-P111] 日本の古記録から推定する122P/de Vicoの過去の回帰時期

*鈴木 璃子1 (1.市川高等学校)

キーワード:彗星、回帰時期、122P/de Vico

1.背景と目的
彗星の公転は惑星による重力摂動や自身の非重力効果の影響を受け易く,公転にかかる時間が不安定である(Yeomans & Kiang,1981).そのため,特定の彗星が過去に出現した時期を推定するのは難しく,日本の古記録にあるほとんどの彗星の出現記録がどの彗星の記録か判明していない.彗星の過去の回帰時期を推定する従来の方法は,①軌道を出来るだけ精度良く計算し,古記録と照らし合わせる,②古記録から軌道要素を導き,同様の軌道要素を持つ彗星を探すの2つが挙げられる(Carusi et al.,1991).ただし,①は観測データが少ない場合,正確な計算ができず,②は軌道要素を導けるような古記録がほとんど存在しない.そのため,従来の方法では観測データの少ない彗星の過去の回帰を推定することは難しい.本研究では,大まかに計算した過去の回帰時期から前後に誤差範囲を設定し,範囲内の記録から矛盾するものを除くことで,観測データの少ない彗星でも過去の回帰を推定できるのではないかと考えた.そこで,過去に見かけの等級が6等級より明るく観測され,過去の回帰時期が不明で観測データの少ない122P/de Vico を対象として(表1),日本の古記録から過去の回帰時期を推定することを目的とした.

2.手法
2-1 軌道計算
軌道計算は惑星の重力摂動を考慮して計算できる天文ソフトのsolexを用いた.まず,122Pのデータを抽出し,全ての惑星の摂動を考慮して計算した.そして,西暦600年までの122Pの位置を計算し,122Pと太陽間の距離の値から近日点通過日(以下,計算日)を抜き出すことで過去の回帰時期を求めた.
2-2 誤差範囲の設定
計算日の前後に,誤差範囲として研究対象の年数の幅を設定した.時代が古くなるにつれて,1回帰ごとに前後それぞれ1年ずつ範囲が広がるように設定した(図1).
2-3 矛盾する記録の除外
設定した範囲内の全ての記録を検証し,矛盾する記録を取り除く.古記録は神田(1935)と大崎(1994)を用いた.まず,122P以外の既に過去の回帰時期が判明している彗星や超新星,惑星の会合などの記録を取り除いた.そして,記録された時期における地球と122Pの近日点付近の位置関係から,矛盾した方角・時間帯・付近の星座・彗星の推移が記録された古記録を取り除いた.例えば,9月の記録であれば122Pが近日点付近にある場合,日の出前の東方に観測されるはずだとわかるので矛盾していると判断出来る.

3.結果
3-1 122Pの可能性がある古記録数
明らかに122Pと矛盾する記録を取り除いた結果,日本の古記録中には122Pである可能性のある記録が33個あることが明らかとなった(表2).
3-2 122Pの可能性が高い記録
122Pの可能性がある記録の中で,より可能性の高いものを考えるために,2-3で検証した要素に加えて,付近の観測された方角の推移・尾の特徴・明るさの3つの要素を検証した(表3).なお,各要素には重み付けをして評価している(表4).その結果,33個の古記録のうち,3つの記録がより可能性の高い記録であると判断できた(表2,3).
3-3 回帰の組み合わせ
一度の回帰で大幅な軌道や周期のズレが無いと仮定し,①計算日から常に早まっていく.②計算日から常に遅まっていく.③計算日とほとんど同じになる(①,②が混在する).という3つの傾向を考慮し,3-2で設定した3つの可能性の高い記録を基準に①〜③の傾向に当てはまる記録が存在するか調べた.このとき,1回帰ごとに1年以内で早まるか遅まるという条件下で検証し,傾向ごとに当てはまる記録を組み合わせた結果,6つの組み合わせが考えられた(表5).

4.考察(回帰の組み合わせの合理性)
組み合わせ1は,傾向に当てはまる記録が多く存在しているが,その他の組み合わせは当てはまる記録が少ない(図1,表5).また,組み合わせ1以外の記録は1300年代以前に当てはまる記録が1つしかなく(表5),彗星が衰退する前で明るく観測できた古い時代において,該当する記録が殆ど無い.さらに,明るさにおいて,最近の122Pの見かけの等級は最大5等程度で,暗めの彗星であるが,組み合わせ1の記録された日における月齢と彗星の見える方角を考慮したところ,記録は殆どが月明かりの光害を受けず,比較的暗い彗星でも観測が可能であったことも明らかとなった.
加えて,最近の観測によって得られた122Pの非重力効果は,軌道収縮へ働いている.近年122Pが軌道収縮したと考えると,収縮後の軌道からの計算結果では実際の軌道と段々と誤差が生じると思われる.

5.結論
記録の合理性・該当する記録の個数・非重力効果の影響を考慮すると,傾向①・組み合わせ1が最も合理的であると考えられる.この結論は,中国・韓国の記録による研究(Hasegawa,1979)で1391年の記録が122Pであるとした結果とも整合性がある(図1).

引用文献
Carusi, A. et al., 1991, Astron. Astrophys., 252, 377-384.; Hasegawa, I., 1979, PASJ, 31, 257-270.;神田茂, 1935, 日本天文史料.; 大崎正次, 1994, 近世日本天文史料.; Yeomans, D.・Kiang, T. 1981, Mon.Not.R. astr.Soc., 197, 633-646.