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[O11-P13] 古文書を使った「歴史時代」の天候復元の独自手法の開発
キーワード:詳細率、降水量閾値、独自の復元方法
1.研究の動機
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第6次評価報告書 (2021-23)で、「現代の気候変動は圧倒的に人間の影響によるもの」であると結論づけた。そこで、地球温暖化の人為的影響が少ない江戸時代の日本の天候を知るために、古文書に着目し、日々の天気記録をデータベースにして定量的な分析をしている。
2022年は「稲束家日記」(大阪池田市・1758-1912)の降水出現率を「重回帰分析」で復元し、2023年は「稲束家日記」と「伊居太神社日記」(大阪池田市・1715-1850)をつないで「ピアニの方法」で復元した。
2024年は本校独自の降水出現率の復元方法を考案し、その検証に、「石川日記」 (東京八王子市・1720-1912) を使った。石川日記は現在の東京都八王子市東浅川町の石川家で、享保5年(1720)から代々書き続けられている農事日記である(Fig.1)。
2.研究の目的
2022年に日本地球惑星科学連合で庄が発表した「日記の降水量閾値」をヒントにして、「日記の降水出現率」や「日記の詳細率」や「気象台の降水出現率(0.0㎜≦)」などの数値同士の近似式を使って降水出現率(実測値)を復元する本校独自の復元方法を検証する。
3.研究の方法(本校独自の復元方法の考案)
⑴天気は現在の気象庁の「出現率の4分類」に近づけて、雪→雨→曇→晴と悪いほうの天気を優先して採用した。「晴」と「曇」が併記されている日は、1日のうち、8.5割以上曇っていれば「曇」、8.5割(20.4時間)未満であれば「晴」と、空間分布を時間分布に換算して判断した。
⑵和暦を西暦に変換しつつ、日々の天気概況をエクセルに入力した。さらに、すべての記述の詳細さの有無を判別して、日記の年ごとの「詳細率」も計算した。
4.詳細率と降水量閾値、およびデータ処理
詳細率とは庄による独自の関数で、❶複数種類の天気が併記、❷時間変化に関する記述、❸大雨などの降水規模の記述がある日数の年比率を表し、「(❶日数+❷日数+❸日数)/年間の全記録日数」で求める。詳細率が高くなると、天気の見落としが減り、降水出現率が高くなるとされる。石川日記の詳細率は先行研究に比べて高い(Fig.2)。
取得したデータは、「石川日記」が177年間の70,071日であった。
「詳細率」以外の天気の出現率の集計においては、1年の1/3の欠測のある年は1つのシーズンが欠けていると判断して集計から削除した。気象庁の集計を参考に2月29日は削除した。
5.データと考察
⑴データ①と考察:東京気象台と八王子の距離の検討
石川日記が書かれた八王子市と東京気象台 (港区虎ノ門)の直線距離は約39㎞である。「気象台の降水出現率(0.0㎜≦)」と「日記の降水出現率」の相関係数は0.85で強い相関があることがわかり、2つの地点の降水出現率を比較できると考えた(気象庁は無降水の表記を「-」とし、微量の降水は「0.0㎜≦」とする)。(Fig.3)
⑵データ②と考察:近似式による降水出現率の手順
庄の発表した降水量閾値を使った降水出現率の復元をヒントに「古文書等から得られる数値同士の近似式を使った気象台の降水出現率(0.0㎜≦)を復元する独自の復元方法を検討した。手順はTable.1の❶-❹による。
❶1720-1875年の間の日記の降水量閾値は、詳細率と日記の降水量閾値のべき乗近似式
y=0.5356x-0.993で復元する (決定係数は0.86)(Fig.4)
❷1876-1912年までの気象台の降水量閾値と気象台の降水出現率との関係は対数近似式
y=-1561ln(x)+0.6153で復元する(決定係数は0.99) (Fig.5)
❸1720-1875年の間の気象台の降水量閾値を日記の降水量閾値とのべき乗近似式
y=1.3392x0.6484で復元する(決定係数は0.55) (Fig.6)
❹1720-1875年の間の気象台の降水出現率を気象台降水量閾値との対数近似式
y=-0.147ln(x)+0.6297で復元する(決定係数は0.99) (Fig.7)
この復元方法で注意をしたのは、次の3点である。
・決定係数が高くあてはまりが良い
・復元して異常値が出ない
・復元に多項式は使わない(決定係数はよくなるが、数値のないところに近似曲線がひかれる)
⑶データ③と考察:降水出現率の復元値の比較(Fig.8-10)
「日記の降水出現率」x₁と「詳細率」x₂を説明変数、「気象台の降水出現率」yを目的変数として重回帰分析で復元したところ、決定係数は0.81であった。
近似式を使った独自の復元は、重回帰分析と傾向が似ている。復元した実測値を比較すると、1818-1852年は「重回帰分析」による値が低く、1720-1790年の間は「近似式による降水出現率の復元」が一番低い値となる。
重回帰分析は説明変数に使った詳細率の影響がみられ、近似式による復元は各々の近似式のあてはまりの誤差が影響していると考える。ピアニの方法を使った復元した実測値が一番高い値となったのは、日記の降水出現率に合わせるという補正方法が影響したと考える。
3通りの復元値のいずれも、ダルトン極小期(1790-1830)に次第に降水出現率の低下がみられる。これは大気中の水蒸気量低下があったことを示唆している。
6.今後の展望
実測値を含む期間で書かれた古文書を探して、独自の復元方法の精度を確かめるとともに、降水出現率(実測値)の新たな復元方法を考える。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第6次評価報告書 (2021-23)で、「現代の気候変動は圧倒的に人間の影響によるもの」であると結論づけた。そこで、地球温暖化の人為的影響が少ない江戸時代の日本の天候を知るために、古文書に着目し、日々の天気記録をデータベースにして定量的な分析をしている。
2022年は「稲束家日記」(大阪池田市・1758-1912)の降水出現率を「重回帰分析」で復元し、2023年は「稲束家日記」と「伊居太神社日記」(大阪池田市・1715-1850)をつないで「ピアニの方法」で復元した。
2024年は本校独自の降水出現率の復元方法を考案し、その検証に、「石川日記」 (東京八王子市・1720-1912) を使った。石川日記は現在の東京都八王子市東浅川町の石川家で、享保5年(1720)から代々書き続けられている農事日記である(Fig.1)。
2.研究の目的
2022年に日本地球惑星科学連合で庄が発表した「日記の降水量閾値」をヒントにして、「日記の降水出現率」や「日記の詳細率」や「気象台の降水出現率(0.0㎜≦)」などの数値同士の近似式を使って降水出現率(実測値)を復元する本校独自の復元方法を検証する。
3.研究の方法(本校独自の復元方法の考案)
⑴天気は現在の気象庁の「出現率の4分類」に近づけて、雪→雨→曇→晴と悪いほうの天気を優先して採用した。「晴」と「曇」が併記されている日は、1日のうち、8.5割以上曇っていれば「曇」、8.5割(20.4時間)未満であれば「晴」と、空間分布を時間分布に換算して判断した。
⑵和暦を西暦に変換しつつ、日々の天気概況をエクセルに入力した。さらに、すべての記述の詳細さの有無を判別して、日記の年ごとの「詳細率」も計算した。
4.詳細率と降水量閾値、およびデータ処理
詳細率とは庄による独自の関数で、❶複数種類の天気が併記、❷時間変化に関する記述、❸大雨などの降水規模の記述がある日数の年比率を表し、「(❶日数+❷日数+❸日数)/年間の全記録日数」で求める。詳細率が高くなると、天気の見落としが減り、降水出現率が高くなるとされる。石川日記の詳細率は先行研究に比べて高い(Fig.2)。
取得したデータは、「石川日記」が177年間の70,071日であった。
「詳細率」以外の天気の出現率の集計においては、1年の1/3の欠測のある年は1つのシーズンが欠けていると判断して集計から削除した。気象庁の集計を参考に2月29日は削除した。
5.データと考察
⑴データ①と考察:東京気象台と八王子の距離の検討
石川日記が書かれた八王子市と東京気象台 (港区虎ノ門)の直線距離は約39㎞である。「気象台の降水出現率(0.0㎜≦)」と「日記の降水出現率」の相関係数は0.85で強い相関があることがわかり、2つの地点の降水出現率を比較できると考えた(気象庁は無降水の表記を「-」とし、微量の降水は「0.0㎜≦」とする)。(Fig.3)
⑵データ②と考察:近似式による降水出現率の手順
庄の発表した降水量閾値を使った降水出現率の復元をヒントに「古文書等から得られる数値同士の近似式を使った気象台の降水出現率(0.0㎜≦)を復元する独自の復元方法を検討した。手順はTable.1の❶-❹による。
❶1720-1875年の間の日記の降水量閾値は、詳細率と日記の降水量閾値のべき乗近似式
y=0.5356x-0.993で復元する (決定係数は0.86)(Fig.4)
❷1876-1912年までの気象台の降水量閾値と気象台の降水出現率との関係は対数近似式
y=-1561ln(x)+0.6153で復元する(決定係数は0.99) (Fig.5)
❸1720-1875年の間の気象台の降水量閾値を日記の降水量閾値とのべき乗近似式
y=1.3392x0.6484で復元する(決定係数は0.55) (Fig.6)
❹1720-1875年の間の気象台の降水出現率を気象台降水量閾値との対数近似式
y=-0.147ln(x)+0.6297で復元する(決定係数は0.99) (Fig.7)
この復元方法で注意をしたのは、次の3点である。
・決定係数が高くあてはまりが良い
・復元して異常値が出ない
・復元に多項式は使わない(決定係数はよくなるが、数値のないところに近似曲線がひかれる)
⑶データ③と考察:降水出現率の復元値の比較(Fig.8-10)
「日記の降水出現率」x₁と「詳細率」x₂を説明変数、「気象台の降水出現率」yを目的変数として重回帰分析で復元したところ、決定係数は0.81であった。
近似式を使った独自の復元は、重回帰分析と傾向が似ている。復元した実測値を比較すると、1818-1852年は「重回帰分析」による値が低く、1720-1790年の間は「近似式による降水出現率の復元」が一番低い値となる。
重回帰分析は説明変数に使った詳細率の影響がみられ、近似式による復元は各々の近似式のあてはまりの誤差が影響していると考える。ピアニの方法を使った復元した実測値が一番高い値となったのは、日記の降水出現率に合わせるという補正方法が影響したと考える。
3通りの復元値のいずれも、ダルトン極小期(1790-1830)に次第に降水出現率の低下がみられる。これは大気中の水蒸気量低下があったことを示唆している。
6.今後の展望
実測値を含む期間で書かれた古文書を探して、独自の復元方法の精度を確かめるとともに、降水出現率(実測値)の新たな復元方法を考える。
