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[O11-P38] 地球温暖化に伴う琵琶湖の環境の変化~水温および溶存酸素濃度の湖底定点観測データを用いた全循環判定の試み~
キーワード:全循環、ビワオオウズムシ、琵琶湖
1. はじめに
琵琶湖は約420万年の歴史を持つ湖で、世界的にも希少な古代湖の一つである。60種以上の固有種が生息しており多様な生態系を育んできた。中でもビワオオウズムシ(Bdellocephala annandalei)は、日本最大の淡水プラナリアであり冷水環境を好む生物である。深水域(40m以深)の水温6~8℃、溶存酸素(DO)5%以上という狭い生息条件を持ち、環境変化に対して非常に脆弱な固有種である。
本研究は、近年問題になっている地球温暖化と、”びわ湖の深呼吸”と呼ばれる"全循環"の不全による影響が、湖底生物の生息環境に与える影響を明らかにすることを目的とする。
2. 研究背景と目的
びわ湖トラストジュニアドクター育成塾では、温暖化の影響を解明するため、6年前から琵琶湖北湖で定点観測を継続している。2019-20年には温暖化により、全循環が停止し湖底水温上昇および湖底DOの減少が確認された。2021年以降、2度の全循環によって一時的に湖底DOの回復が見られたが、ビワオオウズムシの生息に必要な湖底水温(6~8℃)には回復せず、観測個体数の減少が続いていた。
そこで本研究では、定点観測を通じて琵琶湖の環境のバロメーターの一つとなるビワオオウズムシの生息状況を確認すると共に、全循環の構成要素である”混合”と”循環”に着目し、湖底水温とDOによるパターン判別によって全循環の判定を試みた。
3. 調査方法
琵琶湖北湖(北緯35.4°、東経136.1°、水深約93m)にて、2023年3月から2025年3月にかけて計17回、生物トラップとCTD機器を用い、湖底の生態と水質を同時にモニタリングした。生物トラップ調査では、古い漁網を用いてビワオオウズムシやアナンデールヨコエビなど複数の底生生物を捕獲・観察し、CTDを用いて湖底水温、DOを測定した。
4. 調査結果
生物トラップ調査では2024年7月に約3年ぶりにビワオオウズムシが観察されたが、個体は衰弱状態にあった。また直近の研究報告*7)では5年連続で全循環の確認が示されたが、我々の観測点では依然として全循環の時期や湖底水温、湖底DOが不規則な状態が続いており、以前のように全循環を明瞭に判定することが困難になった。一方で湖底DOについては一定の回
復を示していた。
この矛盾を説明するため、全循環を構成するプロセスである"混合"と"循環"に着目して、パターン判別による全循環の判定を試みた。
5. 考察
今回の考察では、永田ら*8)の湖底水温、DOの散布図を用いることによって、全循環の判定を"混合"と"循環"という2段階のプロセスで判定することの有効性が示された。そして過去6年の観測期間のうち2023、2024年の観測では、全循環は不全であり
ながらもDOが回復していたことから、”混合”の影響が強く働いたと考えた。
6. 結論と今後の課題
琵琶湖では、温暖化の影響により全循環が不全化することで、冷水性の固有種ビワオオウズムシの生息環境は悪化する可能性がある。我々のグループでは今後も稀有な琵琶湖の生物多様性を見守るため、定点調査の活動を継続して行きたい。
7.参考文献
1)琵琶湖は呼吸する/熊谷道夫・浜端悦治・奥田昇/海鳴社, 2015
2)琵琶湖の低酸素化の実態把握および北湖生態系に与える影響の把握に関する解析モニタリング
-琵琶湖の低酸素化の実態およびその生態系に与える影響-焦 春萌・青木眞一・奥村陽子・南 真紀・矢田 稔 ・石川可奈子・中島拓男・石川俊之・ 辻村茂男 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター研究報告書 第7号,2009
3)北湖深水層での溶存酸素濃度の低下について/環境・農水常任委員会資料平成24年10月5日/琵琶湖環境部琵琶湖政策課,2012
4)プラナリアたちの巧みな生殖戦略/小林一也・関井清乃/幻冬舎ルネッサンス,2017
5)びわ湖とビワオオウズムシについて/佐藤瑠乃・佐藤爽音/琵琶湖トラストジュニアドクター育成塾生
https://sato-shimai.love/index.html,2021
6)北湖深水層と湖底環境の把握/焦 春萌、桐山徳也、田中 稔、岡本高弘、七里将一、青木眞一 、 石川可奈子、井上栄壮・永田貴丸、西野麻知子 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター研究報告書 第10号,2009
7)https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20250304/2000092149.html
8)温暖化の湖沼学/永田俊・吉山浩平・熊谷道夫/京都大学出版会,2013
琵琶湖は約420万年の歴史を持つ湖で、世界的にも希少な古代湖の一つである。60種以上の固有種が生息しており多様な生態系を育んできた。中でもビワオオウズムシ(Bdellocephala annandalei)は、日本最大の淡水プラナリアであり冷水環境を好む生物である。深水域(40m以深)の水温6~8℃、溶存酸素(DO)5%以上という狭い生息条件を持ち、環境変化に対して非常に脆弱な固有種である。
本研究は、近年問題になっている地球温暖化と、”びわ湖の深呼吸”と呼ばれる"全循環"の不全による影響が、湖底生物の生息環境に与える影響を明らかにすることを目的とする。
2. 研究背景と目的
びわ湖トラストジュニアドクター育成塾では、温暖化の影響を解明するため、6年前から琵琶湖北湖で定点観測を継続している。2019-20年には温暖化により、全循環が停止し湖底水温上昇および湖底DOの減少が確認された。2021年以降、2度の全循環によって一時的に湖底DOの回復が見られたが、ビワオオウズムシの生息に必要な湖底水温(6~8℃)には回復せず、観測個体数の減少が続いていた。
そこで本研究では、定点観測を通じて琵琶湖の環境のバロメーターの一つとなるビワオオウズムシの生息状況を確認すると共に、全循環の構成要素である”混合”と”循環”に着目し、湖底水温とDOによるパターン判別によって全循環の判定を試みた。
3. 調査方法
琵琶湖北湖(北緯35.4°、東経136.1°、水深約93m)にて、2023年3月から2025年3月にかけて計17回、生物トラップとCTD機器を用い、湖底の生態と水質を同時にモニタリングした。生物トラップ調査では、古い漁網を用いてビワオオウズムシやアナンデールヨコエビなど複数の底生生物を捕獲・観察し、CTDを用いて湖底水温、DOを測定した。
4. 調査結果
生物トラップ調査では2024年7月に約3年ぶりにビワオオウズムシが観察されたが、個体は衰弱状態にあった。また直近の研究報告*7)では5年連続で全循環の確認が示されたが、我々の観測点では依然として全循環の時期や湖底水温、湖底DOが不規則な状態が続いており、以前のように全循環を明瞭に判定することが困難になった。一方で湖底DOについては一定の回
復を示していた。
この矛盾を説明するため、全循環を構成するプロセスである"混合"と"循環"に着目して、パターン判別による全循環の判定を試みた。
5. 考察
今回の考察では、永田ら*8)の湖底水温、DOの散布図を用いることによって、全循環の判定を"混合"と"循環"という2段階のプロセスで判定することの有効性が示された。そして過去6年の観測期間のうち2023、2024年の観測では、全循環は不全であり
ながらもDOが回復していたことから、”混合”の影響が強く働いたと考えた。
6. 結論と今後の課題
琵琶湖では、温暖化の影響により全循環が不全化することで、冷水性の固有種ビワオオウズムシの生息環境は悪化する可能性がある。我々のグループでは今後も稀有な琵琶湖の生物多様性を見守るため、定点調査の活動を継続して行きたい。
7.参考文献
1)琵琶湖は呼吸する/熊谷道夫・浜端悦治・奥田昇/海鳴社, 2015
2)琵琶湖の低酸素化の実態把握および北湖生態系に与える影響の把握に関する解析モニタリング
-琵琶湖の低酸素化の実態およびその生態系に与える影響-焦 春萌・青木眞一・奥村陽子・南 真紀・矢田 稔 ・石川可奈子・中島拓男・石川俊之・ 辻村茂男 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター研究報告書 第7号,2009
3)北湖深水層での溶存酸素濃度の低下について/環境・農水常任委員会資料平成24年10月5日/琵琶湖環境部琵琶湖政策課,2012
4)プラナリアたちの巧みな生殖戦略/小林一也・関井清乃/幻冬舎ルネッサンス,2017
5)びわ湖とビワオオウズムシについて/佐藤瑠乃・佐藤爽音/琵琶湖トラストジュニアドクター育成塾生
https://sato-shimai.love/index.html,2021
6)北湖深水層と湖底環境の把握/焦 春萌、桐山徳也、田中 稔、岡本高弘、七里将一、青木眞一 、 石川可奈子、井上栄壮・永田貴丸、西野麻知子 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター研究報告書 第10号,2009
7)https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20250304/2000092149.html
8)温暖化の湖沼学/永田俊・吉山浩平・熊谷道夫/京都大学出版会,2013
