13:45 〜 15:15
[O11-P86] Riemann多様体上の大気力学とprimitive方程式に至る近似の考察
キーワード:大気力学、primitive方程式、Riemann多様体
目的
大気力学は通常、球体上の完全流体として記述されるが、本研究では、球のように一様な曲率を持たない惑星上での完全流体の大気力学を対象とする。例えば、小惑星などは、大きいサイズでもシルヴィアなどのようにいびつな形をしていることが多く、また、惑星でも自転により完全な球体ではなく、曲率が一定ではない回転楕円体になっている。そして、大気力学においては地球が円柱であるという近似を行って擾乱の構造解析をすることがある。本研究ではこのように"いびつな"天体をRiemann多様体とみなし、その上の大気の方程式を数学的に示す。また、primitive方程式に至るには曲率項を捨てる必要があるが、"いびつな"天体においてそのような近似が成り立つ条件を示す。そして紙面上ここには載せられないが、そのように求めた方程式を回転楕円体、円柱、円錐をはじめとした様々な天体に適用し、その方程式を求める。
手法
球でない惑星Planetを3次元Euclid空間内の部分多様体とみなし、その境界∂Planetに計量を入れて2次元Riemann多様体とする。各点において、接束T∂Planetの基底から(T∂Planet)^⊥を構成し、大気座標系を定める。また、コンパクトRiemann多様体上の流体力学の定式化を用いて、大気力学の方程式系を構築できる。自転は計量と向きを保つ線形写像とし、慣性力を導入する。
計算方法
Planet上に座標系を設定する。∂Planetは2次元多様体で、各点pで接束T∂Planetに基底∂/∂x^1, ∂/∂x^2を入れ、その外積∂/∂x^1 × ∂/∂x^2を∂/∂x^3とすることで、3次元空間{∂/∂x^i}_{i=1,2,3}が張られ、大気静止座標系E_Planetを定義できる。
この座標系に対して自転を与え、大気動座標系を構成する。自転を線形写像とし、速度場X_t、角速度Ω、共変微分∇、密度ρ、圧力p、重力と遠心力の合力Gを用いて、方程式1を導出する。しかし、方程式1の解釈は困難であるため、Gが(T∂Planet)^⊥に属し、∂/∂x^1と∂/∂x^2の計量がゼロ、かつ∂/∂x^1が経度方向を向くという仮定を加え、成分表示を上付き添字で表記すると方程式2が得られる。
この方程式2の左辺2項目は、気象学における曲率項と一致しており、これはChristoffel記号を用いた共変微分に由来する。
結果
方程式2を用いて、primitive方程式への近似を検討する。スケールとして、水平風速U、水平スケールLを設定し、座標成分を長さ[L]とした場合、曲率項u^j u^kの係数は次元[L^-1]を持ち、スケール1/A(Aは曲率半径)と一致する。加速度のスケールはU^2/L、曲率項はU^2/Aである。通常の地球スケールではA≫Lであるため、曲率項は無視できるが、LがAと同程度またはそれ以上になると無視できなくなる。
例えば、捨てる項のスケールが加速度の1/10以下としたければ、10L > A が必要となる。つまり、曲率半径Aが十分大きくないとprimitive方程式は成り立たない。局所的には成り立つが、大局的には破綻することが明らかとなった。
結論
多様体上に基底を張り、回転を導入して方程式1を構成でき、仮定を加えることで、方程式2に帰着し、これが大気力学での曲率項の一般化に相当することがわかった。
さらに、水平スケールLと曲率半径Aについて、primitive方程式を用いる条件を示した。これにより、紙面の都合上載せられないが、多様体上での大気力学がChristoffel記号を用いて体系的に導出できることを楕円体、円柱などの様々な具体例を通して確認した。
謝辞
閉コンパクトRiemann多様体上の流体力学について私の色々な質問に答えてくださった中央大学の三松佳彦先生に深く感謝します。
参考文献
三松佳彦「多様体上の流体力学への幾何学的アプローチ」東北大学・春の学校「流体力学の幾何学的方法」,2006
北畠 尚子『総観気象学 理論編』気象庁,2022
新井朝雄『相対性理論の数理』日本評論社,2021
巽友正『流体力学(新物理学シリーズ)』培風館,1982
吉田善章『数学と物理の交差点2 電磁気学とベクトル解析』共立出版,2019
大気力学は通常、球体上の完全流体として記述されるが、本研究では、球のように一様な曲率を持たない惑星上での完全流体の大気力学を対象とする。例えば、小惑星などは、大きいサイズでもシルヴィアなどのようにいびつな形をしていることが多く、また、惑星でも自転により完全な球体ではなく、曲率が一定ではない回転楕円体になっている。そして、大気力学においては地球が円柱であるという近似を行って擾乱の構造解析をすることがある。本研究ではこのように"いびつな"天体をRiemann多様体とみなし、その上の大気の方程式を数学的に示す。また、primitive方程式に至るには曲率項を捨てる必要があるが、"いびつな"天体においてそのような近似が成り立つ条件を示す。そして紙面上ここには載せられないが、そのように求めた方程式を回転楕円体、円柱、円錐をはじめとした様々な天体に適用し、その方程式を求める。
手法
球でない惑星Planetを3次元Euclid空間内の部分多様体とみなし、その境界∂Planetに計量を入れて2次元Riemann多様体とする。各点において、接束T∂Planetの基底から(T∂Planet)^⊥を構成し、大気座標系を定める。また、コンパクトRiemann多様体上の流体力学の定式化を用いて、大気力学の方程式系を構築できる。自転は計量と向きを保つ線形写像とし、慣性力を導入する。
計算方法
Planet上に座標系を設定する。∂Planetは2次元多様体で、各点pで接束T∂Planetに基底∂/∂x^1, ∂/∂x^2を入れ、その外積∂/∂x^1 × ∂/∂x^2を∂/∂x^3とすることで、3次元空間{∂/∂x^i}_{i=1,2,3}が張られ、大気静止座標系E_Planetを定義できる。
この座標系に対して自転を与え、大気動座標系を構成する。自転を線形写像とし、速度場X_t、角速度Ω、共変微分∇、密度ρ、圧力p、重力と遠心力の合力Gを用いて、方程式1を導出する。しかし、方程式1の解釈は困難であるため、Gが(T∂Planet)^⊥に属し、∂/∂x^1と∂/∂x^2の計量がゼロ、かつ∂/∂x^1が経度方向を向くという仮定を加え、成分表示を上付き添字で表記すると方程式2が得られる。
この方程式2の左辺2項目は、気象学における曲率項と一致しており、これはChristoffel記号を用いた共変微分に由来する。
結果
方程式2を用いて、primitive方程式への近似を検討する。スケールとして、水平風速U、水平スケールLを設定し、座標成分を長さ[L]とした場合、曲率項u^j u^kの係数は次元[L^-1]を持ち、スケール1/A(Aは曲率半径)と一致する。加速度のスケールはU^2/L、曲率項はU^2/Aである。通常の地球スケールではA≫Lであるため、曲率項は無視できるが、LがAと同程度またはそれ以上になると無視できなくなる。
例えば、捨てる項のスケールが加速度の1/10以下としたければ、10L > A が必要となる。つまり、曲率半径Aが十分大きくないとprimitive方程式は成り立たない。局所的には成り立つが、大局的には破綻することが明らかとなった。
結論
多様体上に基底を張り、回転を導入して方程式1を構成でき、仮定を加えることで、方程式2に帰着し、これが大気力学での曲率項の一般化に相当することがわかった。
さらに、水平スケールLと曲率半径Aについて、primitive方程式を用いる条件を示した。これにより、紙面の都合上載せられないが、多様体上での大気力学がChristoffel記号を用いて体系的に導出できることを楕円体、円柱などの様々な具体例を通して確認した。
謝辞
閉コンパクトRiemann多様体上の流体力学について私の色々な質問に答えてくださった中央大学の三松佳彦先生に深く感謝します。
参考文献
三松佳彦「多様体上の流体力学への幾何学的アプローチ」東北大学・春の学校「流体力学の幾何学的方法」,2006
北畠 尚子『総観気象学 理論編』気象庁,2022
新井朝雄『相対性理論の数理』日本評論社,2021
巽友正『流体力学(新物理学シリーズ)』培風館,1982
吉田善章『数学と物理の交差点2 電磁気学とベクトル解析』共立出版,2019
