日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG20] 宇宙・惑星探査の将来計画および関連する機器開発の展望

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:三谷 烈史(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、桑原 正輝(立教大学)、横田 勝一郎(大阪大学・理学研究科)、長 勇一郎(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:桑原 正輝(立教大学)、三谷 烈史(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)


11:15 〜 11:30

[PCG20-09] Comet Interceptor Mission搭載の彗星水素コロナ撮像器の光学性能評価

*御任 勇成1吉岡 和夫2山崎 朝1鈴木 雄大3 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科、3.宇宙航空研究開発機構)


キーワード:惑星探査、Comet Interceptor、極端紫外

水素コロナ撮像器(Hydrogen Imager: HI)はESA主導の長周期彗星探査ミッションComet Interceptorに搭載される紫外線撮像装置である。本研究ではHIの光学性能、特に結像性能の環境耐性・紫外線の検出効率に焦点を当て、実験的にこれを評価する。
 本ミッションの探査対象である彗星は氷とダストでできた小天体で、大きな軌道離心率を持ち、ほとんどの場合公転軌道は雪線と交差する。地球は雪線の内側のため、海を形成している大量の水は小惑星や彗星が有機物とともにもたらしたと考えられている(O’Brien et al. 2018)。しかし、地球の水起源に対する彗星の寄与の程度はいまだ理解されておらず、彗星の氷の性質(特にD/H比)と彗星の形成場所を対応付けることが地球水起源理解への重要な一歩となる(Mandt et al. 2024)。
彗星の起源は近日点前後での水生成率変化から分類可能である。彗星は雪線の内側に入ると水や二酸化炭素などの揮発性物質が核から昇華・放出され、「活動的」になる。太陽に近づくにつれて放出率は高くなるが、水生成率(放出率)は冪乗則に従う太陽-彗星間距離の関数として表すことができ、この冪乗指数と彗星起源の関係が示されている(Combi et al. 2005)。水生成率を同定する手段としてはLy-α撮像による水素原子空間分布の測定があり、Combi et al. (2005)でも水素が発したLy-αを全天観測するSOHO/SWANのデータを用いている。
 彗星周囲の水素原子の空間分布と水生成率を繋げるためにはモデル計算が必要となる。彗星の核から放出された水分子は光解離反応によってHとOH、さらにOHからOとHに分かれ、この2回の反応で生成した水素はそれぞれ異なる初速度で核から広がる。また、彗星核からの水放出はアウトバーストなどの局所的・経時的現象によって起こることが知られている(Kaneda et al. 1986)。そのため、水素の空間分布は水素の広がり方をシミュレーションするモデルによって計算され、境界条件として核から供給される水の量すなわち彗星の水生成率が定められている。逆にこれは、彗星周囲の水素原子空間分布の観測から彗星核の水生成率を同定可能であることを意味している。
 一般に光学的に薄い状況では視線方向の水素柱密度はg-factorでLy-αの輝度に変換されるため、Ly-αで撮像した画像の輝度分布から水生成率が計算可能である。しかし、彗星核近傍では水素柱密度が高く光学的に厚いために輝度と水素柱密度は比例関係ではなくなる。このような領域は”多重散乱”領域と呼ばれ、太陽から来たLy-αが複数回共鳴散乱したのちに観測者へ到達するために輝度と水素密度が比例しなくなると考えられている(Suzuki 2022)。同研究によれば比較的活動度の高い彗星において多重散乱領域は核から~104 kmの距離まで広がっており、より正確な水生成率推定のためには光学的に厚い領域と薄い領域を分別可能な空間解像度が必要である。
 HIはComet Interceptor Missionに搭載され、目標の彗星から107 kmの距離で観測を行う。本ミッションは史上初の詳細な長周期彗星のその場観測であり、HIによる始原的な長周期彗星の水生成率測定は彗星起源を同定する上で重要な情報となる。このような要求からHIは核から106-107 kmまで広がるコマを視野に収め、かつ104 km以下の構造を解像する光学性能を有する必要がある。
 HIの開発はEM(試作品)を用いた性能評価の段階にある。光学性能としては、彗星から107 kmの観測地点から光学的に厚い104 kmの領域を解像するだけの結像性能をもち、107 km以上離れたコマの暗い領域も捉えられるような紫外線検出性能を持っていることを確認しなければならない。HIは彗星コロナをLy-α(121.6 nm)で撮像し2次元画像を得るためにカセグレン式の反射望遠鏡を持ち、その後段にはHとDの存在比を測定するためのガラスセルフィルター2つ・水素原子以外の種由来の光をカットするためのバンドパスフィルター(BPF)が続き、ディテクターに至る。そのため本研究では、まず望遠鏡部の結像性能評価のために点光源の撮影から点像サイズを測定し、振動や衝撃・熱などの環境試験前後での結像性能も比較することで宇宙環境に対する頑強さを評価した。紫外線検出性能については望遠鏡での2回の反射と5枚のMgF2の透過による減衰を評価するため、Ly-αに対する鏡の反射率およびMgF2の透過率を実験的に測定した。本発表ではこれらの結果について示し、HIの光学性能について結像性能・Ly-α検出効率を評価・議論する。