14:30 〜 14:45
[PCG20-16] TOF-MSを用いた火星待機中のネオン同位体比高精度測定の可能性
キーワード:火星大気、ネオン同位体比、飛行時間型質量分析器、感度評価、残留ガス分析
火星大気のNeの残留時間は火星の歴史(~ 45億年)よりもずっと短く(~ 0.6–1億年)、現在の火星大気のNeはマントルから供給されたものであると考えられる(Kurokawa et al., 2021)。火星大気のNe同位体比(20Ne/22Ne)を計測できると、火星マントルのNe同位体比が推定できることが期待される。これにより、火星マントルのNeの起源物質を制約することができ、原始星雲中のダストの環境や集積に要した時間などの火星の形成史の推定に必須の情報を得ることができる。ただし、火星マントルのNe同位体比が、太陽型(~ 13)であるか、コンドライト型(~ 7–11)かを決定するには、火星大気のNe同位体比を10%以下の精度で計測することが求められる。火星大気中にはArがNeの1万倍程度存在しているため(Ar:1.9%、Ne:2.5 ppm)、質量分析装置におけるNe同位体測定においては40Ar++が20Ne+に同重体干渉する。そのため、VikingやCuriosityでは、火星大気20Ne測定は困難であった。そこで本研究グループは、Neに対するArの比率を下げるため透過膜を用いる分離法の提案・開発を進めてきた(Miura et al., 2020; Cho et al., 2024)。また、JAXAでは過去の惑星探査において飛行時間型質量分析器(TOF-MS)を用いた計測の実績がある。同装置をNe計測に用いることを計画しているが、Ne同位体比を精密に測定するのに十分な感度やバックグラウンドであるかはまだ検証されていない。TOF-MSは10-2 Pa以下の低圧力下でのみ動作できるが、静作動(static)分析で使用する場合に分析管からの脱ガスが十分に低いか、残留ガス中のArやNeが同位体比の計測を妨げないか、確認する必要がある。また、火星大気から透過膜を透過する微量のNe(想定分圧2×10-8 Pa)を検出できるほど、TOF-MSの感度が高いかについても、確認が必要である。そこで本研究では、新たにTOF-MSを製作し、以下の実験を行った。(1)TOF-MSでのNeの検出が可能か判断するためTOF-MSの感度を推定すること、および(2)計測ラインでの残留ガスの種類・量を明らかにすること。
まず、TOF-MSを大型の真空槽に入れて真空引きを行い、Arガスを導入した。Ar導入前後に、圧力と質量スペクトルを計測した。そのデータから、全圧 1.0×10-4 Pa におけるTOF-MSの40Ar+に対する感度は、6×106 counts/min/Pa と推定された。また、地球大気から分離膜により透過するNe分圧の計算から、地球大気圧下では信号/バックグラウンド = 4 程度でNeの検出が可能であると推定された。Neの分圧が地球大気よりも3桁ほど低い火星環境でのNeの検出については、透過膜の大面積化やチャンバの小型化により、透過Neの分圧を2桁程度上げることで改善する可能性がある。
次に、宇宙仕様に準じた小型チャンバにTOF-MSを入れて、真空引きを行った。圧力は 2.51×10-3 Pa に到達し、TOF-MSが動作可能な真空度を作り出した。TOF-MSを起動し、残留ガスの質量スペクトルを計測したところ、残留ガスの主要成分は水であった。残留ガス中のNe・Arは、質量電荷比20(20Ne+・40Ar++)および40(40Ar+)において、3 counts/min 程度検出された。このことから、現状では透過Neの検出に対するバックグラウンド寄与は大きいが、今後ベーキングにより残留ガス全体の圧力を下げることによりNeのバックグラウンドも下がるものと考えている。
以上の結果から、TOF-MSを用いた火星大気Ne同位体比の可能性が示された。今後、火星マントルのNe同位体比が太陽型であるかコンドライト型であるかを特定するための技術的基盤の確立を目指して検証実験を進める。
まず、TOF-MSを大型の真空槽に入れて真空引きを行い、Arガスを導入した。Ar導入前後に、圧力と質量スペクトルを計測した。そのデータから、全圧 1.0×10-4 Pa におけるTOF-MSの40Ar+に対する感度は、6×106 counts/min/Pa と推定された。また、地球大気から分離膜により透過するNe分圧の計算から、地球大気圧下では信号/バックグラウンド = 4 程度でNeの検出が可能であると推定された。Neの分圧が地球大気よりも3桁ほど低い火星環境でのNeの検出については、透過膜の大面積化やチャンバの小型化により、透過Neの分圧を2桁程度上げることで改善する可能性がある。
次に、宇宙仕様に準じた小型チャンバにTOF-MSを入れて、真空引きを行った。圧力は 2.51×10-3 Pa に到達し、TOF-MSが動作可能な真空度を作り出した。TOF-MSを起動し、残留ガスの質量スペクトルを計測したところ、残留ガスの主要成分は水であった。残留ガス中のNe・Arは、質量電荷比20(20Ne+・40Ar++)および40(40Ar+)において、3 counts/min 程度検出された。このことから、現状では透過Neの検出に対するバックグラウンド寄与は大きいが、今後ベーキングにより残留ガス全体の圧力を下げることによりNeのバックグラウンドも下がるものと考えている。
以上の結果から、TOF-MSを用いた火星大気Ne同位体比の可能性が示された。今後、火星マントルのNe同位体比が太陽型であるかコンドライト型であるかを特定するための技術的基盤の確立を目指して検証実験を進める。
