日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG21] 宇宙における物質の形成と進化

2025年5月28日(水) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、大坪 貴文(産業医科大学)、野村 英子(国立天文台 科学研究部)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、座長:荒川 創太(海洋研究開発機構)、長谷川 健(東京大学大学院総合文化研究科)

11:00 〜 11:15

[PCG21-08] 木星衛星イオ表面の環境を模擬した二酸化硫黄固体の中間赤外線イメージング分光測定と変性実験

*根岸 昌平1古賀 亮一2、趙 彪1、李 源1、趙 宸淏1、平原 靖大1、伊藤 文之3,4笠羽 康正5 (1.名古屋大学、2.名古屋市立大学、3.産業技術総合研究所、4.東京電機大学、5.東北大学)


キーワード:模擬実験、赤外分光、低温固体、二酸化硫黄、木星衛星イオ

木星衛星イオは、太陽系内で最も火山活動が活発な天体であり、その主な熱源はイオの公転が偏心軌道であることに起因した潮汐加熱である。近年、イオ表面下には全球規模の浅いマグマオーシャンが存在しないことが示唆され、大部分が固体であるマントル中に溶融物が点在するモデルが提案されており(Park et al., 2024)、イオ内部のマグマの火成作用の理解が進みつつある。そのマグマは火山噴火によって表面に噴出するとともに、二酸化硫黄(SO2)のガスも副次的に噴出し、10-3 Pa程度の希薄な大気(SO2~90%)が形成される。
火山やホットスポットから離れたイオ表面は、夜や木星蝕中では約90 Kまで冷却され、大気中のSO2ガスが凝華(凝縮)することでSO2固体が表面に堆積する。一方で、昼になると太陽光によって表面が約120 Kまで加熱されることで表面のSO2固体の一部は昇華する。イオ表面のSO2固体は、イオの公転周期~42.5時間に応じ、昼夜の表面温度変化による昇降温を繰り返し経験している。また、宇宙空間から飛来する紫外線に曝されることにより、SO2固体表面では光化学反応が起きている可能性がある。これらの過程で進行する、SO2固体の変性メカニズムやスペクトルとの対応関係の詳細は、これまでに明らかにされていない。我々は、これまでに低温低圧の天体環境を再現可能な液体窒素冷却クライオスタットを開発し、固体微粒子の赤外分光撮像システムの構築を遂行してきた(Koga et al., 2024)。本研究ではこの装置を用い、イオ表面の低温低圧な環境を模擬してSO2固体を堆積し、イオ表面の昼夜の昇降温や紫外線照射を再現してin-situでの赤外分光イメージング測定によるSO2固体の変性メカニズムの解明を目指した。
本実験では、SO2分子の対称伸縮(ν1モード)および逆対称伸縮(ν3モード)基準振動にともなう高強度の吸収が現れる中間赤外線領域に注目した。分光器には、准共通光路波面分割型位相シフト干渉法(Qi et al., 2015)に基づく、イメージングフーリエ変換中間赤外線分光器(2D FT-MIR)を用いた。これを用い、波長域7 µm−14 µmを波長分解能~0.7 µmおよび空間分解能~36 µmで、SO2ガスを出発物質とした凝縮固体微粒子の2次元中間赤外透過吸収スペクトルを下記の実験手順により測定した。 (1) クライオスタットの真空チャンバー内を加熱脱水後、ドライポンプを用いて10-3 Pa程度まで減圧、(2) 液体窒素デュワー冷却の無酸素銅製サンプルホルダーに取り付けたセレン化亜鉛(ZnSe)赤外透過基板を90 K程度まで冷却、(3) 真空チャンバー内にSO2ガスをパルス噴出してZnSe基板上にSO2固体を堆積し、基板上の~3 mmφの領域を分光イメージング測定、(4) 基板上のSO2固体に対して~90 K−120 Kの昇降温(アニーリング)時の分光イメージング測定、(5) 重水素ランプの紫外線照射下(~115 nm−400 nm)での基板上のSO2固体の分光イメージング測定を行った。
実験(3)により、SO2固体に起因する、~7.5 µm(SO2 ν3領域)に強い吸収バンド、および~8.7 µm(SO2 ν1領域)に弱い吸収バンドが存在することが確認された(JpGU 2024年大会, PPS07-19)。今回、実験(4)において、サンプルホルダーに取り付けられたヒーターの精密な温度制御機構(精度≦1 K)を新たに用い、昇降温レートを調節して結晶構造を変化させた。実験(3)で得た結果との差スペクトルや、2つのバンドの強度比I1)/I3)などによって評価したところ、ν1領域のバンド強度が温度に対して不可逆的に増強する傾向がみられた。さらに、実験(5)によって7.2 µm付近に新たな吸収バンドの出現が確認され、三酸化硫黄(SO3)の縮退S=O伸縮振動(ν3モード)への帰属に成功した。本実験で照射した紫外線の波長帯では、固体表面のSO2分子が起こす、解離・再結合反応とB←X電子遷移に随伴する協奏反応(Ito et al., 2023)との競合でSO3が生じたものと解釈される。本講演においては、さらに紫外線バンドパスフィルターを用いて、照射紫外線の波長と、SO2固体表面での電荷移動にともなう不均化反応プロセスの進行度との関連について報告する予定である。