11:15 〜 11:30
[PCG21-09] 原始惑星系円盤条件下でのトロイライト(FeS)の分解蒸発
キーワード:トロイライト、蒸発、元素分別、原始惑星系円盤、速度論
背景
多くの始原隕石コンドライトにおいて, 主要元素のひとつである硫黄の存在度が, 太陽系元素存在度に近い化学組成をもつCIコンドライトに比べ, 小さいことが知られている[1]. これは, 硫黄の揮発性の高さに起因するものだと考えられている. コンドライト中の硫黄の主たるホストとなる鉱物はトロイライト(FeS)であり, トロイライトの分解蒸発(硫黄の選択的蒸発)は固体物質からの硫黄の欠損を生み出す. コンドライト母天体集積以前の原始惑星系円盤原始惑星系円盤でのトロイライトの分解蒸発によって,コンドライトの硫黄分別がおこった可能性もある.トロイライトからの硫黄の選択的蒸発の速度論的解析は,Tachibana and Tsuchiyama (1998) [2] によっておこなわれたが,実験条件が実際に原始惑星系円盤での蒸発よりもかなり高温(1173 K以上)であり,それらの実験データを外挿して議論に用いることには不確定性が大きい. 本研究では先行研究よりも低い温度(<1173 K)・水素圧力(<5 Pa)条件でのトロイライト蒸発反応実験をおこない,原始惑星系円盤でのトロイライトの分解蒸発速度ならびにその温度依存性・水素圧依存性を理解することを目的とする.
方法
出発物質には, Canyon Diablo鉄隕石(IAB)中のトロイライトを用いた.トロイライトをめのう乳鉢で粉末化し,一回の実験には約1 mg (0.7-1.5 mg)を用いた.石英ガラス管真空チャンバーにサンプルを設置し,ターボ分子ポンプで10-4 Pa程度まで真空引きをおこなったのち,水素ガスをチャンバー内に流し,チャンバー内の水素圧を1または5 Paとした後,ガラス管外部から,カンタルA-1コイルでサンプル加熱をおこなった(1123 K,加熱時間3-50時間).出発物質と生成物はSEM-EDS (JEOL JCM-7000)により,表面および研磨断面の観察,組成分析をおこなった.また,XRD (Rigaku MiniFlex600-C)による実験生成物の相の同定をおこなった.蒸発残渣は金属鉄(α-鉄)であったため,FeS (114)面の面間隔,α-Fe (110)面の面間隔強度を用いた検量線を作成し,実験生成物におけるα-Fe量を求め,蒸発量を定量評価した.蒸発量は,硫黄だけが蒸発したとする仮定のもとに,加熱前後の重量変化からも求めた.
結果・考察
先行研究[2]より低温条件でも,トロイライトから硫黄が選択的に蒸発し, 金属鉄が蒸発残渣物として形成されることがわかった.残渣の金属鉄はトロイライト全体を覆うことはなく,部分的に覆う構造を示した,[2]の観察と調和的であり,蒸発がFeS表面での分解反応律速である可能性が示唆された.XRDおよび重量計測から推定される蒸発量の時間変化も,表面反応律速による蒸発で説明可能であり,水素圧1 Paの条件で得られた蒸発速度は[2]の結果の低温への外挿値とよく合うことがわかった.水素圧5 Paで得られた蒸発速度は,水素圧1 Paの蒸発速度の2倍程度であり,反応式から予測される蒸発速度の水素圧依存性(水素圧に比例)に比べて,弱い依存性を示した.先行研究でも同様の弱い水素圧依存性が示されており[2],本実験条件でも,熱力学的に予測される蒸発種であるH2Sだけではなく,S2としての蒸発も起こっている可能性が考えられる.
[1] Lodders K. (2021) Space Sci. Rev. 217, 44. [2] Tachibana S. and Tsuchiyama A. (1998) GCA 62, 2005.
多くの始原隕石コンドライトにおいて, 主要元素のひとつである硫黄の存在度が, 太陽系元素存在度に近い化学組成をもつCIコンドライトに比べ, 小さいことが知られている[1]. これは, 硫黄の揮発性の高さに起因するものだと考えられている. コンドライト中の硫黄の主たるホストとなる鉱物はトロイライト(FeS)であり, トロイライトの分解蒸発(硫黄の選択的蒸発)は固体物質からの硫黄の欠損を生み出す. コンドライト母天体集積以前の原始惑星系円盤原始惑星系円盤でのトロイライトの分解蒸発によって,コンドライトの硫黄分別がおこった可能性もある.トロイライトからの硫黄の選択的蒸発の速度論的解析は,Tachibana and Tsuchiyama (1998) [2] によっておこなわれたが,実験条件が実際に原始惑星系円盤での蒸発よりもかなり高温(1173 K以上)であり,それらの実験データを外挿して議論に用いることには不確定性が大きい. 本研究では先行研究よりも低い温度(<1173 K)・水素圧力(<5 Pa)条件でのトロイライト蒸発反応実験をおこない,原始惑星系円盤でのトロイライトの分解蒸発速度ならびにその温度依存性・水素圧依存性を理解することを目的とする.
方法
出発物質には, Canyon Diablo鉄隕石(IAB)中のトロイライトを用いた.トロイライトをめのう乳鉢で粉末化し,一回の実験には約1 mg (0.7-1.5 mg)を用いた.石英ガラス管真空チャンバーにサンプルを設置し,ターボ分子ポンプで10-4 Pa程度まで真空引きをおこなったのち,水素ガスをチャンバー内に流し,チャンバー内の水素圧を1または5 Paとした後,ガラス管外部から,カンタルA-1コイルでサンプル加熱をおこなった(1123 K,加熱時間3-50時間).出発物質と生成物はSEM-EDS (JEOL JCM-7000)により,表面および研磨断面の観察,組成分析をおこなった.また,XRD (Rigaku MiniFlex600-C)による実験生成物の相の同定をおこなった.蒸発残渣は金属鉄(α-鉄)であったため,FeS (114)面の面間隔,α-Fe (110)面の面間隔強度を用いた検量線を作成し,実験生成物におけるα-Fe量を求め,蒸発量を定量評価した.蒸発量は,硫黄だけが蒸発したとする仮定のもとに,加熱前後の重量変化からも求めた.
結果・考察
先行研究[2]より低温条件でも,トロイライトから硫黄が選択的に蒸発し, 金属鉄が蒸発残渣物として形成されることがわかった.残渣の金属鉄はトロイライト全体を覆うことはなく,部分的に覆う構造を示した,[2]の観察と調和的であり,蒸発がFeS表面での分解反応律速である可能性が示唆された.XRDおよび重量計測から推定される蒸発量の時間変化も,表面反応律速による蒸発で説明可能であり,水素圧1 Paの条件で得られた蒸発速度は[2]の結果の低温への外挿値とよく合うことがわかった.水素圧5 Paで得られた蒸発速度は,水素圧1 Paの蒸発速度の2倍程度であり,反応式から予測される蒸発速度の水素圧依存性(水素圧に比例)に比べて,弱い依存性を示した.先行研究でも同様の弱い水素圧依存性が示されており[2],本実験条件でも,熱力学的に予測される蒸発種であるH2Sだけではなく,S2としての蒸発も起こっている可能性が考えられる.
[1] Lodders K. (2021) Space Sci. Rev. 217, 44. [2] Tachibana S. and Tsuchiyama A. (1998) GCA 62, 2005.