日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG21] 宇宙における物質の形成と進化

2025年5月28日(水) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、大坪 貴文(産業医科大学)、野村 英子(国立天文台 科学研究部)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、座長:荒川 創太(海洋研究開発機構)、長谷川 健(東京大学大学院総合文化研究科)

11:45 〜 12:00

[PCG21-11] 星周非晶質ケイ酸塩ダストの実験的研究:化学組成の多様性とGEMS様組織の普遍性

*榎本 華子1瀧川 晶1 (1.東京大学)


キーワード:星周ダスト、非晶質ケイ酸塩、AGB星、赤外分光分析、光学定数、実験

背景:非晶質ケイ酸塩ダストは,漸近巨星分岐(AGB)星のアウトフローで形成される星周・星間の難揮発性ダストの主成分である[1].AGB星の赤外線スペクトルは様々な非晶質ケイ酸塩フィーチャーを示し,ダスト種が星によって異なる可能性を示唆する.従来,星周・星間ダストは,「アストロノミカルシリケイト」と総称される合成光学定数で解釈されてきた[2, 3].しかし,これらの光学定数は,複数の観測データと実験室での鉱物の測定データを組み合わせて恣意的に合成されたものであるため,ダストの化学組成の議論に用いることはできない.ダストの化学組成を厳密に制約するには,幅広い化学組成を持つ非晶質ケイ酸塩の光学定数が必要である.多くの室内実験によってダスト模擬物質が生成されてきたが[4, 5, 6],その化学組成は主に化学量論的であり,結晶と異なり非化学量論的組成をとり得る非晶質ケイ酸塩ダストの観測スペクトルの多様性を説明するには不十分である.さらに,これらの先行実験では金属包有物の存在を考慮せずに,非晶質ケイ酸塩粒子が純粋な酸化物として存在すると仮定している.鉄の化学的状態(酸化物か,金属か)と空間分布(非晶質ケイ酸塩粒子の内部か,独立した粒子か)は,ダストの触媒機能に影響を与える重要な要因である.非晶質ケイ酸塩が金属鉄粒子を内包する構造を持つGEMS(glass with embedded metal and sulfides)粒子の中には,星周・星間ダストに類似した赤外スペクトルを示すものがある[7].非晶質ケイ酸塩ダストの化学組成と組織を合わせて制約するには,金属鉄コアのスペクトル効果を実験的に調べる必要がある.
手法:Na, Al, Ca, Mg, Fe, Ni, Si, Oを含む系での凝縮実験を誘導熱プラズマ(ITP)装置(JEOL TP-40020NPS, [8])を用いて行い,(1)Fe,Niを含まないCIコンドライト組成,(2)金属Fe,Niを含むCIコンドライト組成,(3)CIコンドライト組成からAl/Si,Ca/Mg比を系統的に変化させたダスト模擬物質を生成した.生成物は,XRD (Rigaku RINT-2100),EPMA (JEOL JXA-8530F),ラマン分光 (BX-51, Olympus; 500is-sm, Bruker),TEM (JEOL JEM-2800)で分析した.赤外透過率測定(JASCO FT/IR-4200)に加え,基準試料を工夫することで,粉体試料の圧密ペレットを用いて凝縮物の反射率スペクトルを測定した(Thermo NICOLET6700).ローレンツ振動子モデルを仮定し,透過率と反射率スペクトルから生成物の光学定数を求めた.
結果・議論:生成物は非晶質ケイ酸塩ナノ粒子(直径10-200 nm)であった.Fe-Niを含む系では,ケイ酸塩粒子はカマサイト(Fe0.9Ni0.1)粒子を内包していた.粒子全体に対する金属コアのサイズ割合は0から0.87の範囲で,平均は0.50であった.金属鉄コアを含む生成物のスペクトルピーク位置は,鉄の存在量(Fe/Si~0.83)が太陽系平均(Fe/Si~0.85)[9]とほぼ等しいほど豊富であるにもかかわらず,金属コアを含まない生成物と変わらなかった.赤外スペクトルは金属コアのサイズ分布と数密度に支配され,金属鉄が大きなコアに凝縮しほとんどの粒子が小さなコアを持つ場合,観測からコアの存在を識別できないことが示唆される.従来純粋なケイ酸塩と考えられていた星周ダストもGEMSのような金属鉄コアを持つ可能性が考えられる.Mg-Ca-Al-Si-O系では,Al/Siが0.07から0.53に増加すると9.4 μmから9.6 μmに,Ca/Mgが0から1に増加すると9.4 μmから9.7 μm、17.7 μmから19.1 μmにピークがシフトした.本研究で決定した光学定数を用いて様々な粒子サイズとダスト温度を仮定したダストスペクトルを計算し,いくつかのAGB星で観測されたダストスペクトルについて化学組成を制約した結果,ダスト化学組成が星ごとに多様である可能性が示唆された.
参考文献 [1] Henning, 2020, A&A 48, 21. [2] Draine & Lee, 1984, ApJ 285, 89. [3] Ossenkopf et al., 1992, A&A 261, 567. [4] Dorschner et al., 1995, A&A 300, 503. [5] Rietmeijer et al., 1986, Icarus 66(2), 211. [6] Mutschke et al., 1998, A&A 333, 188. [7] Bradley et al., 1999, Science 285, 5434. [8] Kim et al., 2021, A&A 656, A42. [9] Lodders et al., 2009, Solar System, 712-770.