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[PCG21-P02] 輻射輸送モデルによるAGB星周ダストシェルの化学的多様性の解明
漸近巨星分枝(AGB)星は宇宙空間における主要なダスト供給源である[1]. 隕石中に稀に見つかるプレソーラー粒子の多くがAGB星に由来し [2],AGB星周ダストは太陽系の原材料の一つでもある.星周ダストの赤外スペクトルは様々なダストの組み合わせにより解釈が試みられてきたが,先行研究において仮定されているダスト種の数はスペクトルの形状の多様性を説明するには不十分である[3].これに対し,非化学量論的組成の非晶質ダストが観測スペクトルをよく説明し,生成酸化物の組成におけるFeの割合が増加するに伴いそれらの赤外スペクトルのピークが長波長へシフトすることが示されている [4].しかし,これらの赤外スペクトルは測定時に用いられるKBrの媒質効果を受けており,観測スペクトルとの直接比較には適さない.また観測スペクトルに見られる20 µmフィーチャーが,非晶質マグネシオウスタイトによるものであると提案されているが[5],星周環境において2価鉄がシリケイトではなく,非晶質マグネシオウスタイトとして凝縮することに対する合理的な説明はなされていない.本研究は,様々な非化学量論的組成のCa-Al-Fe-Si系酸化物の真空中における赤外スペクトルを用いて,星周ダストの化学組成に制約をかけることを目的とした.20 µmのフィーチャーを再現するため,よりFeに富んだ組成で凝縮実験を行い,先行研究と本研究で得られた5つの非化学量論的ダストの光学定数を計算して,輻射輸送モデルを用いて観測スペクトルとの比較を行った.
凝縮実験は誘導熱プラズマ(ITP)装置を用いて行った[6].出発物質の組成はCa:Al:Fe:Si=2:10:47:1である.先行研究と本研究の凝縮実験により得られた5種のダスト(Al90Si10Ox, Ca0.75Al5.4SiOx, Ca1.7Al9.57Fe1.97SiOx, Ca2.3Al11.2Fe13SiOx, Ca2Al10Fe47SiOx)に対して,ローレンツ振動子モデル[7]を用いて光学定数を決定した.輻射輸送モデルはDUSTY[8]を用い, AGB星周ダストシェルのISOによる観測結果を比較した.本モデルで仮定したダスト種は10種で,本研究で光学定数を決定したダスト5種,非晶質オリビン,パイロキシン,メリライト,マグネシオウスタイト,結晶質スピネルである.
決定した光学定数から非化学量論的ダスト5種の真空中における赤外スペクトルを得た.生成物中のFeの割合を増加させるにつれ,ピーク波長は長波長へ移動したが,本研究で得たよりFeに富んだ組成の酸化物は20 µmにピークを持たず,ピーク位置は15.5 µmであった.酸素に富むAGB星周ダストの観測スペクトルに見られる10–15 µmのブロードなピークはCa-Al-Fe-Si系の非化学量論的組成の酸化物でよりよく説明された.したがって,観測スペクトルの12 µm周辺のブロードなピークはCaやSiを含むAl, Fe酸化物である可能性がある.しかし,我々のモデルでは観測の30 µmのブロードなピークは説明できておらず,低温ダストの寄与の可能性を考慮する必要がある.20 µmと13 µmフィーチャーの強度に相関がみられ,20 µmフィーチャーのキャリアが13 µmのフィーチャーのキャリア[9]と同様に難揮発性ダストである可能性がある.さらに,モデル結果におけるダスト組成と光学的厚みの関係は,AGB星大気のC/O比によって,ダストの化学的多様性が変化することで説明できることを示唆する結果となった.
引用文献:[1] Henning, T. (2010). Ann. Rev. A&A, 48, 21. [2] Zinner E. (2014). Treatise on Geo chemistry 2nd Edition 181.[3] Heras, A. M. & Hony, S. (2005). A&A, 439, 171. [4] Takigawa, A. et al. (2023), LPS LVI, #2136. [5] Henning, T. et al. (1995). A&A, 112, 143. [6] Kim, T. H. et al., 2021, A&A 656, A42. [7] Enomoto,H & Takigawa, A. (2024). LPI, #3036 [8] Ivezic, Z. et al. (1999). User Manual for DUSTY (http://www.pa.uky.edu/ moshe/dusty). [9] Takigawa, A. et al. (2015). ApJS, 218
凝縮実験は誘導熱プラズマ(ITP)装置を用いて行った[6].出発物質の組成はCa:Al:Fe:Si=2:10:47:1である.先行研究と本研究の凝縮実験により得られた5種のダスト(Al90Si10Ox, Ca0.75Al5.4SiOx, Ca1.7Al9.57Fe1.97SiOx, Ca2.3Al11.2Fe13SiOx, Ca2Al10Fe47SiOx)に対して,ローレンツ振動子モデル[7]を用いて光学定数を決定した.輻射輸送モデルはDUSTY[8]を用い, AGB星周ダストシェルのISOによる観測結果を比較した.本モデルで仮定したダスト種は10種で,本研究で光学定数を決定したダスト5種,非晶質オリビン,パイロキシン,メリライト,マグネシオウスタイト,結晶質スピネルである.
決定した光学定数から非化学量論的ダスト5種の真空中における赤外スペクトルを得た.生成物中のFeの割合を増加させるにつれ,ピーク波長は長波長へ移動したが,本研究で得たよりFeに富んだ組成の酸化物は20 µmにピークを持たず,ピーク位置は15.5 µmであった.酸素に富むAGB星周ダストの観測スペクトルに見られる10–15 µmのブロードなピークはCa-Al-Fe-Si系の非化学量論的組成の酸化物でよりよく説明された.したがって,観測スペクトルの12 µm周辺のブロードなピークはCaやSiを含むAl, Fe酸化物である可能性がある.しかし,我々のモデルでは観測の30 µmのブロードなピークは説明できておらず,低温ダストの寄与の可能性を考慮する必要がある.20 µmと13 µmフィーチャーの強度に相関がみられ,20 µmフィーチャーのキャリアが13 µmのフィーチャーのキャリア[9]と同様に難揮発性ダストである可能性がある.さらに,モデル結果におけるダスト組成と光学的厚みの関係は,AGB星大気のC/O比によって,ダストの化学的多様性が変化することで説明できることを示唆する結果となった.
引用文献:[1] Henning, T. (2010). Ann. Rev. A&A, 48, 21. [2] Zinner E. (2014). Treatise on Geo chemistry 2nd Edition 181.[3] Heras, A. M. & Hony, S. (2005). A&A, 439, 171. [4] Takigawa, A. et al. (2023), LPS LVI, #2136. [5] Henning, T. et al. (1995). A&A, 112, 143. [6] Kim, T. H. et al., 2021, A&A 656, A42. [7] Enomoto,H & Takigawa, A. (2024). LPI, #3036 [8] Ivezic, Z. et al. (1999). User Manual for DUSTY (http://www.pa.uky.edu/ moshe/dusty). [9] Takigawa, A. et al. (2015). ApJS, 218