日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM10] Space Weather and Space Climate

2025年5月27日(火) 13:45 〜 15:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:片岡 龍峰(国立極地研究所)、Pulkkinen Antti(NASA Goddard Space Flight Center)、Aronne Mary(NASA GSFC/CUA)、伴場 由美(国立研究開発法人 情報通信研究機構)、Chairperson:Mary Aronne(NASA GSFC/CUA)、Antti Pulkkinen(NASA Goddard Space Flight Center)

14:30 〜 14:45

[PEM10-16] 銀河宇宙線変動の多点比較で迫る太陽プラズマ噴出物の時空間発展に関する研究

*木下 岳1吉岡 和夫2村上 豪3斎藤 義文3,1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻、3.宇宙航空研究開発機構)


キーワード:惑星間空間コロナ質量放出、銀河宇宙線、フォーブッシュ減少

内部太陽圏における惑星間空間コロナ質量放出物(ICME:Interplanetary Coronal Mass Ejection)(Kilpa et al., 2017)の伝搬過程の理解は、地上・宇宙インフラ保護の観点から非常に重要なトピックである。精度の高い宇宙天気予報実現のためには、探査機によるICMEその場観測データを用いた伝搬モデルの改良が必要とされている(e.g., JLF von Forstner et al., 2020)。ICMEが観測者を通過する際に、バックグラウンドの銀河宇宙線を遮蔽する“Forbush Decrease (FD)”(Forbush, 1937)という現象は、ICMEの変化を追跡する有力な手段である。FDは簡易な粒子観測器さえあれば検出できる現象ながら、その深さや形状、傾きは、伝搬するICMEの磁場・幾何構造変化を反映する。そこでICMEとFDの物理的な関係を明らかにし、その低い観測参入障壁を活かして抽出した多数のFDデータからICMEの情報を逆算し、将来的にはICME伝搬モデル改良につなげたい。
 本研究ではFDとICME進化の対応関係に迫るべく、2022/3の多点ICME観測イベントを解析する。水星探査機BepiColombo と太陽観測機Solar Orbiter (SolO) は太陽からほぼ等距離で方位角方向に 50 度ほど異なる場所に位置しており、一方で月探査機LRO と SolO は動径方向に 0.5 AU 離れてほぼ直線的に並んでいたため、単一の ICMEの大規模構造に迫るために最適であった。そこで各探査機の高エネルギー粒子観測器データから本研究で確立した較正手法 (e.g., Kinoshita et al., 2025)などを用いて FD を抽出し、磁場・太陽風データとともに比較した。
まず動径方向の比較において、ICMEの拡大、減衰を反映したFDの深さ、傾きの減少が見られた。またICMEのShock Sheath領域、Magnetic Cloud領域に対応してFDの二段階の傾きの違い(Two-steps:Cane, 2000)が生じることが知られているが、両探査機ともに磁場・太陽風データでは明瞭に2つのICME領域を捉えているにも関わらず、FDはSolar OrbiterではTwo-stepsだったが、LROにおいてはOne-stepしか見られなかった。これは動径方向のShock Sheathの拡大による通過時間増加とMagnetic Cloudの減衰による遮蔽効果低下によって、Sheath領域でしかカウントが落ちなかったことに起因すると考えられる。水星探査機MESSENGERを用いた先行研究(e.g., Davies et al., 2023; Winslow et al., 2018)においては、内部太陽圏におけるFDはTwo-stepsになりがちである可能性が示唆されていたが、MESSENGERが太陽風の直接観測能力を持たずICME構造との対応付けが困難であったことから、この傾向の妥当性は不明瞭であった。ICME拡大・減衰に起因してStep数が減少するという本研究の仮説は、この状況に一石を投じるものであり、今後サンプル数を増やして検討していきたい。
 続いて経度方向の比較を試みたが、先行して別のICMEがBepiColomboを通過していたために当初もくろんでいた直接比較はできなかった。しかし本研究で着目している後続のICMEをSolar Orbiterと協調観測していて、磁場や太陽風観測にも表れているにも関わらず、1つめのICMEで起きたBepiColomboのFDの回復に何ら影響がないという興味深い結果を得た。ICMEの中心を通過して比較的等方的に遮蔽効果が働いたSolar Orbiterにおいて30%程の減少が見られた一方で、端を通過したBepiColomboは遮蔽効果が一定方向しか働かず不十分であり、1つ目のFDが起こした10%の減少を超えられなかったと考えられる。これはICMEの遮蔽効果に方位角方向の差があることを示唆する。
 内部太陽圏における FD の観測例はまだ少なく、太陽から噴出して間もないプラズマによって FD がいかに発生し、どのような特徴を持つか、という点の理解は十分でない。そのため BepiColombo、Solar Orbiter、Parker Solar Probe の内部太陽圏におけるFD 観測データセットの活用には複数の論文(e.g., Belov et al., 2023; Davies et al., 2023)で期待が寄せられている。FD の研究に必要なのはカウントデータであることから、データ活用手法が確立されていない場合が多く、未だ多くのデータが使われないままになっている。本研究では、粒子観測器の較正などの比較手法を確立し、さらにイベントスタディを通じてFDがICMEの減衰・拡大、さらにはICMEと観測者の経度方向の位置関係を示す指標となりうることを示した。さらなるサンプルを解析し、これらの特徴の統計的な裏付けにつなげたい。