日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM10] Space Weather and Space Climate

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:片岡 龍峰(国立極地研究所)、Pulkkinen Antti(NASA Goddard Space Flight Center)、Aronne Mary(NASA GSFC/CUA)、伴場 由美(国立研究開発法人 情報通信研究機構)

17:15 〜 19:15

[PEM10-P21] 高エネルギー粒子降下による南極昭和基地上空での中間圏オゾン濃度変動

鈴木 ひかる1、*土屋 史紀1水野 亮2村田 功1笠羽 康正1長浜 智生2、後藤 宏文2堤 雅基3冨川 喜弘3佐藤 薫4新堀 淳樹2 (1.東北大学、2.名古屋大学、3.国立極地研究所、4.東京大学)

キーワード:オゾン、中間圏、高エネルギー粒子降下

南極昭和基地上空で観測された中間圏オゾン(O₃)濃度変動について、2024年5月に発生した巨大磁気嵐に伴う高エネルギー粒子降込み(EPP)の事例解析結果と、2022年7月から10月及び2024年5月の合計5ヶ月間の統計解析による地磁気活動度との間の相関関係を報告する。
 地球極域では、太陽フレアやコロナ質量放出に伴う太陽高エネルギー粒子の発生や、磁気嵐に伴う磁気圏内の高エネルギー電子の散乱などによって、EPPが起こる。これらの粒子は、エネルギーが高いほど地球大気の低い高度まで降下する。EPPが引き起こす大気分子のイオン化反応の結果、窒素酸化物や水素酸化物が生成され、それらが触媒として働き中間圏O₃を破壊すると言われている。O₃は広い高度領域にわたり分布する成分であり、気候や大気輸送に影響を与える非常に重要な物質であるため、EPPによる影響を調べる必要がある。
 観測装置は、名古屋大学が南極昭和基地に設置しているミリ波分光放射計である。2011年から一酸化窒素(NO)とO₃スペクトルの長期観測が開始され、2021年からはNOスペクトル、2つのO₃スペクトル、二酸化窒素(NO₂)スペクトル、一酸化炭素スペクトルに関して多輝線同時観測を行えるようになった。この装置が観測するスペクトルは、地表から熱圏下部の高度にわたるO₃放射の積分である。このため、リトリーバルと呼ばれる、放射スペクトルから高度分布の導出する処理を行い、中間圏でのO₃体積混合比(VMR)を定量的に推定する。
 2024年5月の巨大磁気嵐時の事例解析では、中間圏O₃量と高エネルギー粒子の降込みや中間圏NOとの比較を行なった。5月10日の磁気嵐発生後、5月10日から20日にかけて10MeVから100MeV以上の太陽プロトンフラックスの増大が発生しており、PANSYレーダーでは高エネルギー粒子の降込みの様相が観測されていた。この期間の夜間の中間圏O₃カラム量に、夕方から朝方にかけて単調減少の傾向が確認された。この傾向は特に5月10日から11日に顕著であった。中間圏NOとの比較では、全体的な傾向としては、夜間中間圏O₃カラム量と中間圏NOカラム量には逆相関が確認された。一方で、5月10日から11日にかけて中間圏O₃カラム量が大きく減少している期間に、中間圏NOカラム量はほぼ増加が見られず、これはNOの触媒作用によりO₃の破壊反応が進むことから予想される変動とは異なる特徴であった。夜間O₃カラム量の減少が顕著であった2024年5月10日から11日の変化に着目し、中間圏O₃カラム量の減少の原因について詳細な解析を行なった。GOES衛星のデータでは、プロトンフラックスが5月9日LT 12:00頃から緩やかに増大を開始し、5月10日LT 13:30頃から増大が加速した後、5月10日LT 20:50頃に最大となった。リオメーターのデータでは、5月10日LT 20:10に昭和基地上空への高エネルギー粒子の強い降込みがあり、その後、LT 21:40頃まで弱い降込みが確認できた。したがって、5月10日から11日に昭和基地上空に高エネルギー粒子が降込んでいたと考えることができ、それに起因して中間圏O₃カラム量の減少が引き起こされたと考えられる。この変動を引き起こした高エネルギー粒子の起源を探るために、昭和基地の磁気共役点付近に近いノルウェー・トルムソ上空におけるrTECケオグラムデータを確認した。トルムソ上空では、磁気嵐開始後の5月10日LT 20:00頃にオーロラオーバルが現れ、その後低緯度側に移動していくのが確認できた。その後、5月11日 LT 3:00過ぎ頃に、低緯度側からトルムソ上空にオーロラオーバルが移動していた。したがって、5月10日 LT 19:30からLT 22:30に中間圏O₃量に減少が起きた時、昭和基地は極冠域に位置していたと考えられる。つまり、5月10日から11日にかけての中間圏O₃量減少は高エネルギープロトンによって起こされたと結論した。
2022年7月から10月、及び2024年5月の合計5ヶ月間の統計解析では、昭和基地上空の中間圏O₃カラム量と地磁気活動度との間の相関関係を調べた。地磁気活動度の指標として昭和基地K指数を使用した。その結果、中間圏O₃カラム量と地磁気活動度との間には、統計的には有意な結果は得られなかった。
統計解析では、EPPと中間圏O₃カラム量との関連を統計的に示すことはできなかったが、2024年5月の巨大磁気嵐時に中間圏の夜間O₃ 濃度減少が発生した事例の解析より、高エネルギープロトンの降り込みによって中間圏O₃が破壊されていることが示された。