日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM14] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2025年5月28日(水) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

17:15 〜 19:15

[PEM14-P02] トロムソNaライダー性能向上のための時間遅延マルチビーム法の基礎開発

*佐藤 洸太1津田 卓雄1、青木 猛1、斎藤 徳人2野澤 悟徳3、川端 哲也3川原 琢也4高橋 透5 (1.電気通信大学、2.理化学研究所、3.名古屋大学、4.信州大学、5.国立開発研究法人 海上・港湾・航空技術研究所)


キーワード: ナトリウムライダー、技術開発、トロムソ、EISCAT

地球の超高層大気は部分的に電離しており, ion-neutral couplingは重要なテーマとである. ion-neutral couplingを調査するには, 中性大気と電離大気の同時観測が効果的である. この目的のために, 大気観測用のトロムソNaライダーが2010年に, 欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダーがあるノルウェーのトロムソ(69.6ºN, 19.2ºE)に設置された. EISCATレーダーは電離層観測の強力なツールとして知られており, 近年は次世代EISCATプロジェクトであるEISCAT_3Dが進められている. トロムソNaライダーは, 1kHzのレーザーダイオード(LD)励起レーザーシステムを搭載しており, 寿命が長く, 非常に安定したシステムである. これらの利点により, トロムソNaライダーは現在のEISCATレーダーと連携して長年運用されてきた. そして近年, EISCAT_3Dとの今後の連携に向けて, トロムソNaライダーのアップグレードが強く期待される.

本研究では, トロムソNaライダーのアップグレードとして, 時間遅延マルチビーム法を提案し, そのキーとなる技術を開発する. 現在のトロムソNaライダーは, 同時マルチビーム法を適用した5方向(鉛直, 北, 南, 東, 西)の観測が可能である. この従来法では, レーザーパルスを5つに分割し, 5つのパルスを同時に5方向に送信する. その結果, 各パルスのエネルギーは, 分割前のレーザーパルスの5分の1になる. レーザーの繰り返し周波数は1kHzで, パルス間隔(IPP)は1 ms であるため, 観測可能な高度の範囲は150 kmまでに制限される. 一方, 提案されている時間遅延マルチビーム方式では, レーザーパルスは異なる方向に時間遅延して送信される. そのため, レーザーパルスを分割する必要がなく, 観測における信号対雑音比(SNR)が改善される. さらに, 各方向に対してより長いIPPが得られるため, 観測における高度範囲が広がることとなる.

時間遅延マルチビーム法では, 2つの重要な技術の基礎開発に取り組んでいる.(1)時間遅延マルチチャネル計測, (2)パルス方向の高速切り替え.(1)については, 時間遅延マルチチャネル計測機能を含む, FPGAベースの自社開発システムの開発を進めている. 初期段階では, シンプルなFPGAベースのデータ収集システムを開発した. その性能試験として, 2023年2月にトロムソのNaライダーを用いて試験観測を実施した. その結果, 開発したシステムは従来のシステムと同等の性能(あるいは少し良い性能)を示した. その後, 時間遅延2チャネルシステムを開発し, 日本での性能試験では問題はなかった. 現在は, 時間遅延5チャネルシステムの開発に取り組んでいる. (2)のキーとなる技術については, 高いポインティング精度で高速に切り替え可能なガルバノスキャナ方式のシステムを開発している. 初期段階では, 市販のガルバノスキャナを応用した実験システムを開発し, 国内で性能評価を行った. 実験の結果, ビーム位置の切替時間は0.80 ms以下であり, IPPの1 msと比較しても十分高速であることがわかった. また, ポインティング精度は1σで約10μradであることがわかった. ポインティング精度の限界を推定できるシミュレーションにより, 決定された1σのポインティング精度はトロムソNaライダー観測に十分であることがわかった. 現在, 長期運用実験を進めている. 発表では, これらの実験について紹介する. さらに, 現状を踏まえたトロムソNaライダーの将来のアップグレード計画についても議論する.