日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM16] 太陽圏・惑星間空間

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:岩井 一正(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、成行 泰裕(富山大学学術研究部教育学系)、西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、坪内 健(電気通信大学)

17:15 〜 19:15

[PEM16-P02] 次世代太陽風観測装置におけるアナログ信号受信系の開発

渡部 温1、*岩井 一正1藤木 謙一1加賀尾 勇典1 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

キーワード:太陽風、コロナ質量放出、惑星間空間シンチレーション、フェーズドアレイ

現在,宇宙地球環境研究所では,太陽風の物理メカニズムの解明・宇宙天気予報システムの高度化を目指して,次世代太陽風観測装置の開発が進められている。この装置は,2次元フェーズドアレイとデジタルビームフォーマという新しい2つの技術を搭載し,惑星間空間シンチレーション(IPS)観測を行う。しかし,アンテナ系とデジタルバックエンドの間に位置するアナログ信号受信系 (以下RX系) の具体的な仕様は,いまだ確立していない。RX系が抱える課題は主に2点ある。1つ目は,サブアレイの実装に伴う信号合成系の検討である。サブアレイとは,2次元フェーズドアレイを構成する多数のダイポールアンテナを16本ごとに束ねた構成単位を指す。これら16本の受信信号を合成する系は,低雑音増幅器より前段に位置し,受信器全体の雑音性能に大きく影響する。そのため,信号合成系の雑音指数を抑える設計が求められている。2つ目は,RX系の入出力仕様の検討である。アンテナ系から入力される信号とディジタルバックエンドに向けて出力する信号の電力やノイズレベルの要件を明確にすることは,RX系の設計に不可欠である。このような課題を受け,新技術を導入する次世代太陽風観測装置に適合したRX系を開発することが本研究の目的である。

本研究ではまず,RX系の受信器雑音温度とゲインの2点の要求性能を推定した。周波数帯域幅 20 MHz,積分時間 20 msec を条件とし,IPS 観測に求められる最小検出フラックス密度 0.3 Jy を実現するためのRX系を想定した。受信器雑音温度の計算には,有効開口面積とアンテナ雑音温度の2つのパラメータを決定する必要があった。そのため,有効開口面積は電磁界シミュレーションを利用して推定を行なった。また,アンテナ雑音温度は銀河放射強度分布モデル Global Sky Model 2016 を利用して推定を行なった。推定された有効開口面積は 2.8 × 103 m2,アンテナ雑音温度は 78 K となった。最終的に,要求される受信器雑音温度は 97 K 以下であることがわかった。ゲインは,アンテナの受信電力とディジタルバックエンドのダイナミックレンジから決定される。計算結果として,46 dB 以上のゲインが必要であることがわかった。次に,既存の高周波回路技術で安価に量産可能であることを目標に,既製品に準ずる性能のモジュールを組み合わせてモデルの構築を試みた。結果,可能な限り挿入損失の少ない合成系,50 dB 以上のゲインを実現する低雑音な増幅系を実現し,ゲイン 68 dB, 受信器雑音温度 128 K の性能のモデル構築することができた。しかし,前段に合成系を置くことによる受信器雑音温度の増加は避けることができず,要求仕様の受信器雑音温度 97 K を満たすモデルを構築することは難しいことが判明した。最後に,手元にあるモジュールを用いて,提案したモデルと同じ構成の RX 系プロトタイプを作成し,評価測定を実施した。プロトタイプの評価測定としてYファクター法を実施した結果,プロトタイプのゲインは 83 dB,受信機雑音温度は 302 K となった。これは要求仕様を満たさない一方,改善点は合成系の一部である同軸ケーブルにあることが判明した。プロトタイプで使用した同軸ケーブルは挿入損失 1.4 dB と非常に大きく,雑音温度の換算で 110 K である。Square Kilometer Array プロジェクトでも使用例のある LMR400 に代替すれば,受信機雑音として 80 K 以上の改善を見込むことができる。今後は,実験を積極的に実施し,その結果を仕様にフィードバックすることで,次世代太陽風観測装置に最適化されたRX系が実現すると期待される。