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[PPS01-P07] タイタン模擬大気への水系イオン照射実験に向けたガス照射システムの開発

キーワード:タイタン、土星、大気、有機物エアロゾル、生命前駆物質
土星の氷衛星であるタイタンは、太陽系惑星の衛星の中で唯一豊富な大気(地表で約1.5気圧)を持つ。その大気は還元的で、組成は、酸素が増え始まる直前の過去地球の窒素大気に類似し、窒素:94%、メタン:5%、水素:1%[Magee et al., 2009]である。他にも微量のCOやCO2などの酸素化合物も含まれる。太陽紫外線、土星磁気圏プラズマなどのエネルギーの入射により、大気中の窒素とメタンから生じたと考えられる様々な炭化水素の高分子、ニトリル類から構成される靄、濃いエアロゾルを有している[Israel et al., 2005]。今まで入射エネルギー源ごとのエアロゾル生成過程を再現するため、タイタン模擬大気への照射実験が行われてきた[例:Peng et al., 2013; Liu et al., 2023]。その多くが、MeV帯の宇宙線や太陽高エネルギー粒子、太陽紫外線によるエネルギー入射を模擬しているものである[Cable et al., 2012]。タイタンは通常、土星磁気圏内に位置し、エンセラダスの内部海起源の水が電離したkeV帯の酸素や水素のイオンに吹き付けられている。しかし、タイタン模擬大気へのkeV帯の水素・酸素イオン照射実験は前例がなく、MeV帯の陽子や電子などの照射にとどまっている[Taniuchi et al., 2013; Liu et al., 2023]。そのため、土星磁気圏からのkeV帯の水素・酸素イオンをエネルギー源や物質的起源とする、タイタン大気内での化学過程は実験等でリアルに再現されておらず、大気中の有機物エアロゾルの生成・成長過程の詳細は未解明である。
そこで本研究は、タイタン模擬大気へのkeV帯の水素・酸素イオン照射装置を開発し、タイタン大気への水系イオン照射による炭化水素化合物エアロゾルの生成過程の再現を目指す。固体試料へのkeV帯荷電粒子照射装置Plasma Irradiation Emulator for Celestial Environments(PIECE, Kimura et al., 2023)に、ガスセルとガス混合システムを新たに実装し、加速器などを用いた先行研究では困難だったガス試料へのkeV帯イオン照射を実現する。まず、システム設計のための要求仕様の整理を行った。Particle TRansport In Planetary atmospheres(PTRIP, Nakamura et al., 2021)を用いた純窒素大気への10 keVの照射シミュレーションから、タイタン大気中でのkeVイオン阻止カラム数密度は、水素イオンでは1.E+18 /cm^2と求められた。また、Sillanpää et al. (2015)、MSTARより、酸素イオンでは1.9E+17〜2.4E+17 /cm^2と求められた。このカラム密度を再現するためには全長約0.4 m、内圧約100 Paのガスセルが必要であると見積もられた。また、照射エネルギーが低いため、ガスセルは封じきらずに微小孔を開けて荷電粒子ビームを貫通させる必要があるため、穴径を見積もった。その結果、イオン照射装置(運用圧力約0.01 Pa以下)とガスセル(運用圧力約100 Pa)の間に差動排気室を設けそれぞれ0.7-10 mm程度の微小孔が空いた板で仕切ることで、差圧を維持しながらビームをガスセル中のガスに照射できる事がわかった。実際に上記の設計で実装した結果、イオン照射装置4.1E-3 Pa、差動排気室約0.1 Pa、ガスセル100 Paで差圧を維持しながら照射できることがわかった。ガスセルに入射するイオンビームの電流を測定したところ、水素イオンでは1.34E+14 /cm^2/sのフラックス、電流量で168 nA、酸素イオンでは8.67E+13 /cm^2/sのフラックス、電流量で109 nAを得ることができ、タイタン大気上空の水素イオン入射フラックス(6.3E+5 /cm^2/s)、酸素イオン入射フラックス(1.E+6 /cm^2/s) [Cravens et al., 2008; Hartle et al., 2006; Horst et al., 2008]を充分再現できることがわかった。今後は、安定的に照射するための実験手順を確立して実際に気体試料への照射を行い、その後照射生成物の分析方法の確立に取り組む予定である。本発表では上記の現状を報告する。
そこで本研究は、タイタン模擬大気へのkeV帯の水素・酸素イオン照射装置を開発し、タイタン大気への水系イオン照射による炭化水素化合物エアロゾルの生成過程の再現を目指す。固体試料へのkeV帯荷電粒子照射装置Plasma Irradiation Emulator for Celestial Environments(PIECE, Kimura et al., 2023)に、ガスセルとガス混合システムを新たに実装し、加速器などを用いた先行研究では困難だったガス試料へのkeV帯イオン照射を実現する。まず、システム設計のための要求仕様の整理を行った。Particle TRansport In Planetary atmospheres(PTRIP, Nakamura et al., 2021)を用いた純窒素大気への10 keVの照射シミュレーションから、タイタン大気中でのkeVイオン阻止カラム数密度は、水素イオンでは1.E+18 /cm^2と求められた。また、Sillanpää et al. (2015)、MSTARより、酸素イオンでは1.9E+17〜2.4E+17 /cm^2と求められた。このカラム密度を再現するためには全長約0.4 m、内圧約100 Paのガスセルが必要であると見積もられた。また、照射エネルギーが低いため、ガスセルは封じきらずに微小孔を開けて荷電粒子ビームを貫通させる必要があるため、穴径を見積もった。その結果、イオン照射装置(運用圧力約0.01 Pa以下)とガスセル(運用圧力約100 Pa)の間に差動排気室を設けそれぞれ0.7-10 mm程度の微小孔が空いた板で仕切ることで、差圧を維持しながらビームをガスセル中のガスに照射できる事がわかった。実際に上記の設計で実装した結果、イオン照射装置4.1E-3 Pa、差動排気室約0.1 Pa、ガスセル100 Paで差圧を維持しながら照射できることがわかった。ガスセルに入射するイオンビームの電流を測定したところ、水素イオンでは1.34E+14 /cm^2/sのフラックス、電流量で168 nA、酸素イオンでは8.67E+13 /cm^2/sのフラックス、電流量で109 nAを得ることができ、タイタン大気上空の水素イオン入射フラックス(6.3E+5 /cm^2/s)、酸素イオン入射フラックス(1.E+6 /cm^2/s) [Cravens et al., 2008; Hartle et al., 2006; Horst et al., 2008]を充分再現できることがわかった。今後は、安定的に照射するための実験手順を確立して実際に気体試料への照射を行い、その後照射生成物の分析方法の確立に取り組む予定である。本発表では上記の現状を報告する。