日本地球惑星科学連合2025年大会

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[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系の形成と進化における最新成果と今後の展望

2025年5月30日(金) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、吉田 二美(産業医科大学)、深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)、座長:荒川 創太(海洋研究開発機構)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、吉田 二美(産業医科大学)、深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)


09:30 〜 09:45

[PPS03-03] 小惑星帯内帯におけるVesta族との衝突確率:小惑星BennuにおけるV型岩石の供給過程への示唆

*安藤 太一1諸田 智克1金丸 仁明1,2杉田 精司1 (1.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻、2.コートダジュール天文台)


キーワード:ベヌー、衝突進化、ベスタ族、外来岩石

OSIRIS-RExが探査した地球近傍小惑星Bennuには周囲より反射率が高いBright bouldersが観測されているが、その中にはメインベルト小惑星Vestaと似たスペクトルを持つ岩石が含まれている (DellaGiustina+ 2021, Tatsumi+ 2021)。一方で、小惑星RyuguにはV型のスペクトルを持つ岩石はみつかっていない (Tatsumi+ 2021, Sugimoto+2022ab)。これらはVestaから放出された小惑星、すなわちVesta族との衝突によって供給されたと考えられているが、Bennuの母天体からの衝突進化過程の中でいつ供給されたのかについては議論の余地がある。これはメインベルトにおける物質混合を理解する上で重要であり、我々はこのような岩石がどのようにBennuへ供給されたのかを明らかにしようと試みた。
V型岩石の供給過程については、(1)Bennuの母天体とVesta族の天体の破滅的衝突 (catastrophic disruption impact) によって供給された可能性と(2)非破滅衝突によって供給された可能性の2つが考えられている。DellaGiustina+ (2021) はVesta族の天体数が少ない (約1%) ため、破滅的衝突を起こす確率も低くなることを根拠に(1)より(2)の可能性が高いと考察した。しかし、一般に小惑星族の形成直後は<1kmの小天体が大量に生成されるため、一時的に<1kmのVesta族がメインベルト内で支配的になることが予想される。これによってVesta族天体との衝突頻度が高くなれば、(1)のシナリオは必ずしも否定される必要はなくなる。そこで、本研究ではBennuがVesta族天体と衝突破壊を経験した確率を求め、このシナリオの妥当性を検証した。
まず、Vesta族天体と衝突破壊を経験した確率を以下のように求めた。
1. Bennuがメインベルト内帯のNew Polana族由来であると仮定し、族中心からν6共鳴まで軌道長半径を移動させる。
2. 各時点でVesta族やその他の天体との固有衝突確率 (Wetherill 1967) を計算する。
3. Vesta族等のサイズ頻度分布を仮定し、Bennuの前世代天体と破滅的衝突を起こすような直径の天体との衝突頻度、即ち衝突破壊の頻度を計算する。
4. 各時点で乱数を用いて衝突破壊が起きるかを判別し、破壊が起きる場合は新たに破片の集団を生成する。
5. これらを繰り返し、最終的に直径がBennuと同程度となったものを抽出する。
6. 各天体がVesta族と衝突破壊を経験した回数を集計し、1回以上の割合、つまりBennuがVesta族と衝突破壊を経験した確率を計算する。
3において、Vesta族形成時に生成された破片の累計サイズ頻度分布は直径1km以上で観測結果 (Nesvorny+ 2008) と合致すると仮定し、直径1km以下は傾き-3 (Tanga+ 1999) で外挿した。またVesta族のサイズ頻度分布は、小惑星帯の平衡サイズ分布に沿うように時間経過とともに直径の小さい天体から減少していくとモデル化した(Bottke+ 2005)。
以上の手法でVesta族との衝突破壊の確率を計算すると、Bennuの前世代天体がVesta族との衝突破壊を経験した確率は約30%の確率であるという結果が得られた。現在観測されているVesta族の天体数がメインベルト全体に占める割合は約1%と小さく (JPL Small-Body Database)、そのような天体と衝突破壊を経験する確率も同様に小さいと考えられていたが、この結果はそのような破滅的衝突が一定数起こりうるという事を示している。これはVesta族形成直後のサイズ頻度分布の傾きがメインベルト全体のサイズ頻度分布より大きいと仮定したことにより、直径数十m以下の領域においてVesta族の天体数が一時的に現在のメインベルトの天体数より多くなっているためである。
この結果はBennuのV型岩石が衝突破壊により供給されたという仮説と整合的であり、V型岩石の供給過程を議論する際にはその可能性も考慮すべきと言える。またRyuguとBennuの衝突進化を比較する上でも、2天体の違い (BennuではV型岩石が見つかっているがRyuguでは見つかっていないということ) はVesta族と衝突破壊を経験したか否かを反映している可能性がある。
以上のように、我々は衝突破壊によってBennuのV型岩石が供給された可能性を検証するために、Vesta族と衝突破壊を経験した確率を計算した。その結果、衝突破壊の確率は約30%と従来の予想より高いことが分かった。