日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系の形成と進化における最新成果と今後の展望

2025年5月30日(金) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、吉田 二美(産業医科大学)、深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)、座長:荒川 創太(海洋研究開発機構)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、吉田 二美(産業医科大学)、深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)


09:45 〜 10:00

[PPS03-04] 蛇紋岩インパクターの脱水と放出された水のクレーター内部への残存

*松原 光佑1山口 祐香理1中村 昭子1長谷川 直2、和田 武彦3 (1.神戸大学大学院理学研究科、2.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、3.自然科学研究機構国立天文台)

キーワード:クレーター、水、小惑星

背景
 近年の分光観測により、分化した小惑星の表面から分子水や水酸基が検出されている [e.g., 1,2]。このような水和した物質の一部は、水和物質を含むインパクターの衝突によってもたらされたと考えられている。本研究では、水和したインパクターの衝突を模擬した高速度衝突実験を行い、インパクターの脱水や放出された水の挙動が衝突速度や衝突角度にどのように依存するのか調査した。

実験
 JAXA宇宙科学研究所の二段式軽ガス銃を用いて衝突実験を行った.衝突速度を約 3 ~ 7 km/sとし、岩石弾丸を鉄鋼キューブに衝突させた。弾丸には水酸基を含む蛇紋岩および比較のための無水物質としてカンラン岩を使用した。衝突角度は、ターゲット表面から30°、60°、90°とした。形成されたクレーターについて、フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)を用いて減圧下において近赤外領域で分光した.クレーター底面法線方向に対して30°の角度で光を入射させ,法線方向の反射スペクトルを測定した.また、顕微ラマン分光測定を行い、クレーター内部のラマンスペクトルを取得した。

結果
 垂直衝突によって形成されたクレーター内部の反射スペクトルは、弾丸物質にかかわらず水酸基と分子水の吸収が隣接する 3 µm帯に広い吸収を示した。水酸基のみが吸収を示す 1.4 µm付近には、いずれの衝突速度でも吸収が見られなかった。衝突圧力がおよそ 100 GPaを下回る衝突においては、カンラン石を衝突させたクレーターよりも 3 µm帯および子水のみに起因する 6 µm帯の吸収が顕著であった。ここから、3 µm帯の吸収は分子水の寄与が支配的であり、クレーター内部に水酸基はほとんど残存しないことが示唆された。軽石に対して蛇紋石を斜め衝突させた実験 [3]においても、形成されたガラスの内部には水酸基よりも分子水が支配的に存在することが示されている。これは、発生したメルトが固化してガラスになる際にエジェクタ中の水蒸気を捕獲するためであると考えられている。本研究においても、クレーター内部のメルトが水蒸気を捕獲した可能性がある。一方、斜め衝突においては水酸基による 2.7 µmの吸収が認められ、斜め衝突では蛇紋岩弾丸の脱水が抑制されることが示唆された。
 およそ 3 km/sの垂直衝突によって形成されたクレーターのラマンスペクトルからは、結晶構造の乱れた蛇紋石が検出された。一方、これよりも高速度の衝突によるクレーターからは蛇紋石は検出されなかった。ここから、およそ 40 GPaが蛇紋石が残存する上限の圧力であることが示唆された。これはコンドライトに対する衝突回収実験を行った研究 [4]と整合的である。
 岩石質小惑星と鉄質小惑星の組成をそれぞれ玄武岩、鉄と仮定し、小惑星帯における天体衝突と本研究結果と比較した。小惑星帯における天体衝突速度分布 [5]から、典型的な衝突速度を2.3-7.0 km/sとした。蛇紋岩インパクターが正面衝突する場合の発生圧力を計算すると、小惑星の組成に関わらず放出された水蒸気がメルトに捕獲される可能性が示唆される。実際に小惑星表面にメルトに捕獲された分子水が存在する場合、分光観測における 3 µm帯や 6 µmの吸収スペクトルとして検出される可能性がある。

謝辞
 本研究は,JAXA宇宙科学研究所の超高速度衝突実験施設および宇宙放射線装置の共同利用実験により行いました.

参考文献
[1] A. Arredondo et al. (2024) Planet. Sci. J., 5, 37.
[2] D. Takir et al. (2017), Astron. J., 153, 31.
[3] R. T. Daly and P. H. Schultz (2018) Sci. Adv., 4, eaar2632.
[4] W. F. Bottke et al. (1994) Icarus, 107, 255-268.
[5] N. Tomioka et al. (2007) Meteorit. Planet. Sci.,42, 19-30.