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[PPS03-05] 氷の昇華に伴う収縮を考慮した多孔質彗星核の長期熱進化モデル
キーワード:彗星、小惑星、彗星–小惑星遷移天体、長期熱進化、氷の昇華
太陽系には,惑星や準惑星,それらの衛星以外にも,様々な小天体が存在している。彗星と小惑星も小天体の一種である。古典的な分類において,彗星は海王星軌道の外側で形成され,主に揮発性物質(以下,水氷を想定する)からなり,太陽に近づくとそれを構成する氷の昇華によってコマや尾の発生(彗星活動)を示す天体だとされていた。一方,小惑星は太陽系の木星軌道よりも内側で形成され,主に不揮発性の物質(以下,岩石とよぶ)からなり,彗星活動を示さない天体だとされていた。しかし,近年,彗星と小惑星の両者の特性を併せ持つ天体が発見され始めたことにより,この両者の区別は非常に曖昧なものであると考えられるようになってきた[1]。両者の区別が曖昧になる要因のひとつに,太陽光加熱による彗星から小惑星への進化が挙げられる。彗星が太陽に接近し加熱されると,彗星核内部の氷は昇華して宇宙空間に放出されていく。このとき,彗星核に含まれる一部の岩石は水蒸気流に巻き込まれてともに宇宙空間に放出されるが,ある程度大きな岩石は彗星核の重力によって引き止められ,その表面に降り積もる。その結果,彗星核の表層付近には岩石のみからなる層(ダストマントル)が形成される。ダストマントルは多孔質であるため,その内側で発生した水蒸気はダストマントル内部を浸透して宇宙空間に流出していく。内部氷が昇華し,支えを失った彗星核は,ダストマントルごと中心に向かって崩落・収縮する。最終的には内部氷が完全に枯渇し,主に岩石のみからなる小惑星へと至る。このような進化段階の途中にある小天体は,comet–asteroid transition (CAT) objectsと呼ばれる[2]。彗星核の長期熱進化は,多くの理論モデルによって検討されてきた。特に,彗星核が小惑星へと至るタイムスケールを評価することは,太陽系小天体の形成や進化を検討する上で重要である。Schörghofer and Hsieh [3]とYuら[4]は,内部氷が枯渇するのに要する時間を公転軌道要素の関数として解析的に導出した。しかし,これらのモデルでは氷の昇華に伴う彗星核の収縮は考慮されていなかった。Miuraら[5]は,氷の昇華に伴う彗星核の収縮を考慮した理論モデルを検討し,半径約440 mの小惑星リュウグウが,半径1.2 kmの彗星核からおよそ数万年で進化した可能性を示した。しかし,このモデルでは彗星核内部温度が一様かつ一定と仮定しており,熱進化は考慮されていなかった。本研究では,氷の昇華に伴う彗星核全体の収縮を考慮した上で,彗星核から氷が完全に枯渇するのに要する時間(乾燥時間)を公転軌道要素の関数として評価するための新しい長期熱進化モデルを提案した。
まず,彗星核が楕円軌道を描く場合について,太陽光加熱率の季節変動を考慮した熱進化の数値計算を行ない,様々な公転軌道要素に対して乾燥時間の数値解を得た。次に,季節平均を取った太陽光加熱率を考慮した解析的モデルに基づき,公転軌道要素の関数として乾燥時間を解析的に導出した。乾燥時間の数値解と解析解を比較し,解析的モデルが適用できる条件を明らかにした。また,解析的モデルに基づき,彗星核内部に残された氷の量を仮定することで,彗星核表面における水蒸気やダストの放出率,放出されるダストの最大サイズや放出速度を推定するための解析解を導出した。これらの解析解を用いて,これまでに発見・観測されている代表的なCAT天体の内部構造や進化過程について考察した。我々の解析的モデルは,これらの天体に対する従来の観測結果とおおむね整合的であった。我々の理論モデルは,彗星核の進化や小惑星の内部氷の保持可能性を議論する上で,ひとつの理論的な指針を与える。
参考文献:[1] H. H. Hsieh (2017), Philos. Trans. R. Soc. A 375, 20160259. [2] H. H. Hsieh et al. (2004), Astron. J. 127:2997. [3] N. Schörghofer and H. H. Hsieh (2018), J. Geophys. Res: Planets 123, 2322. [4] L. L. Yu et al. (2019), Mon. Not. R. Astron. Soc. 482, 4243. [5] H. Miura et al. (2022), Astrophys. J. Lett. 925:L15.
まず,彗星核が楕円軌道を描く場合について,太陽光加熱率の季節変動を考慮した熱進化の数値計算を行ない,様々な公転軌道要素に対して乾燥時間の数値解を得た。次に,季節平均を取った太陽光加熱率を考慮した解析的モデルに基づき,公転軌道要素の関数として乾燥時間を解析的に導出した。乾燥時間の数値解と解析解を比較し,解析的モデルが適用できる条件を明らかにした。また,解析的モデルに基づき,彗星核内部に残された氷の量を仮定することで,彗星核表面における水蒸気やダストの放出率,放出されるダストの最大サイズや放出速度を推定するための解析解を導出した。これらの解析解を用いて,これまでに発見・観測されている代表的なCAT天体の内部構造や進化過程について考察した。我々の解析的モデルは,これらの天体に対する従来の観測結果とおおむね整合的であった。我々の理論モデルは,彗星核の進化や小惑星の内部氷の保持可能性を議論する上で,ひとつの理論的な指針を与える。
参考文献:[1] H. H. Hsieh (2017), Philos. Trans. R. Soc. A 375, 20160259. [2] H. H. Hsieh et al. (2004), Astron. J. 127:2997. [3] N. Schörghofer and H. H. Hsieh (2018), J. Geophys. Res: Planets 123, 2322. [4] L. L. Yu et al. (2019), Mon. Not. R. Astron. Soc. 482, 4243. [5] H. Miura et al. (2022), Astrophys. J. Lett. 925:L15.
