日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系の形成と進化における最新成果と今後の展望

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、吉田 二美(産業医科大学)、深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)


17:15 〜 19:15

[PPS03-P04] 高速自転コマ型小惑星上の衝突クレーターに関する数値シミュレーション

*宮村 尚典1渡邊 誠一郎1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

地球近傍小惑星(162173)リュウグウはコマ型形状をしており、この形は過去の高速自転によって形成されたと推定されているが(Watanabe et al. 2019)、現在までの自転減速過程は不明瞭である。一方、赤道で遠心力が引力と等しくなる時の臨界速度(自転角速度でωc)に近い高速自転をする小惑星上への天体衝突で形成されるクレーターには、エジェクタがコリオリ力で曲げられることによる東西非対称性(Hirata et al. 2021)と、実効的重力下(引力と遠心力の合力)での地滑りによる南北非対称性が生じる可能性がある。
そこで本研究は、数値シミュレーションから、高速自転する小惑星上で形成されるクレーター地形を計算し、リュウグウで観測されたクレーターの形成時の自転速度を推定することを目的とした。
リュウグウの形状モデルに基づく軸対称コマ型天体の様々な角速度で自転させ、サイズや中心緯度を変えたクレーターについて、単純球面掘削(天体に対する球面掘削)と、等ポテンシャル掘削(実効的重力場の等ポテンシャル座標における掘削)の2つの方法で掘削地形を計算した。掘削によって放出されたエジェクタの軌道と着地点を求め、堆積しつつあるトランジェント・リムの実効的重力下での地滑り緩和過程を計算した。さらに、形成時から現在まで天体が徐々にスピンダウンして実効的重力が変化することで起こる地滑りを経たクレーター最終地形を計算した。
単純球面掘削でクレーター最終地形を計算した結果、赤道では、自転角速度に関わらず南北より東西に長いクレーターになった。一方,ポテンシャル掘削では、赤道、北緯5°で自転角速度が速いほど南北が東西より長くなる傾向が見られた。両者とも、自転速度が臨界値の0.85倍以上(ω/ωc≧0.85)に形成されたクレーター地形には東西非対称が見られたが(Fig.1(a))、中心緯度5°10°に形成されると東西非対称は著しく弱まり、実効的重力方向に対する南北リムの内側斜面の傾斜が異なることによって、リム標高に地滑りによる南北非対称が卓越した(Fig.1(b))。その結果、ω/ωc<0.85ではリムの北側が南側よりも高くなり、ω/ωc>0.85では逆に南側が北側よりも高くなった(Fig.1(b))。
数値シミュレーションに対し、リュウグウの地形が明瞭で緯度±45°以内に位置する12個のクレーターのリム形状を解析した結果、低緯度のクレーターにも南北がやや長いクレーターが多かった。これには、等ポテンシャル掘削方法で高速自転時に形成されるクレーターのリム形状が整合する。
そこで、リュウグウ上の半径43 m、中心緯度5.5°Nの#16クレーター(Hirata et al. 2020)について、等ポテンシャル掘削方法での数値シミュレーションと比較した。#16のリム形状は南北に長く、数値シミュレーションにおいてω/ωc=0.9, 0.92の高速自転で形成されたクレーターのリム形状に類似した。また、リム標高の方位角方向の変化について、クレーター周囲のボルダーの影響を軽減するために、波数2までのフーリエ級数展開を行った結果、数値シミュレーション結果のうち、ω/ωc=0.9, 0.92でのリム標高分布と良い一致が見られた。以上のことから、#16クレーターは高速自転下で形成されて可能性が高い。今後様々なリュウグウのクレーターのリム形状と標高の非対称から、形成時の自転速度を推定することで、リュウグウの自転進化を議論する予定である。