日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2025年5月25日(日) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:冨永 遼佑(東京科学大学 理学院地球惑星科学系)、田畑 陽久(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、小林 真輝人(東京大学)、辰馬 未沙子(理化学研究所)、座長:冨永 遼佑(東京科学大学 理学院地球惑星科学系)、田畑 陽久(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

16:00 〜 16:15

[PPS06-03] 地球風による月面への40Ar供給

*阿部 広也1中山 陽史2坂田 遼弥3関 華奈子4堺 正太朗3品川 裕之5寺田 直樹3橋爪 光6玄田 英典1 (1.東京工業大学 地球生命研究所、2.立教大学理学研究科物理学専攻、3.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻 、4.東京大学大学院理学系研究科 、5.九州大学国際宇宙惑星環境研究センター 、6.茨城大学理学部 )

キーワード:月、レゴリス、大気散逸、太古代

宇宙空間から月面に降り注ぐ揮発性元素は、月地殻の形成から現在に至るまでレゴリス中に蓄えられ続けている。30~40億年前に地表に出て暴露したアポロサンプルは40Ar/36Ar比が12程度でまとまっている。一方、同じ時期に暴露した月隕石は2から18の間でバラついた40Ar/36Ar比をもっている。これはアポロサンプルと一部の月隕石がどこからか40Arを多く受け取っていたことを意味する。
本研究では40Arが豊富な地球大気の宇宙空間への流出(地球風)、そしてそれの月への打ち込みが表面のレゴリスにおける40Ar/36Ar比を高くすると提案する。月は潮汐固定によって常に同じ面を地球に向けており、月の表面が地球風に晒されることとなる。そのため地球風に含まれる40Arは月の表面に優先的に供給され、裏面にはあまり届かないことが予想される。一方、36Arは太陽風が主な供給源であり、月全球に渡って届けられる。アポロサンプルは月の表面から採取されたのに対して、月隕石は表面と裏面どちらからも飛来してくる可能性がある。地球風がもたらす40Ar供給の異方性によって、アポロサンプルと一部の月隕石が高い40Ar/36Ar比をもつことが自然と説明できるかもしれない。
本仮説を検証するため、30から40億年前の太古代地球大気と太陽XUV放射条件において地球風が40Arを月面へどれくらい供給するかをシミュレーションした。太古代大気のCO2分圧、渦拡散、太陽からのXUV放射をパラメータにとり、大気構造を1-D熱圏モデルと外気圏気体運動論モデルによって求めた。そしてexobaseまたはionopauseより高い高度で生成 された40Arイオンが太陽風によって剥ぎ取られ散逸したという仮定の下、月面へ供給される40Arフラックスを調べた。
その結果、渦拡散係数が現在地球の5倍の場合において地球風は月の表面における 40Ar/36Ar 比を裏面よりも 5 高くすることが分かった。これによってアポロサンプルと一部の月隕石がもつ高い40Ar/36Ar比を説明することが出来る。また今回の結果からは、 40から35億年前においてはCO2が大気の50%以上を占め、35から30億年前にかけて減少したことが示唆された。地球風による40Ar供給を観測的に検証するためには、月の裏面からの古い暴露年代をもつサンプルの解析が必要である。中国の月裏面からのサンプルリターンミッション、Chang’e-6の持ち帰ったレゴリスには検証に相応しいサンプルが含まれているかもしれない。将来的に月レゴリスのデータが十分に集まれば、より詳細な太古代の大気組成を推定することも可能になるだろう。