日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:冨永 遼佑(東京科学大学 理学院地球惑星科学系)、田畑 陽久(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、小林 真輝人(東京大学)、辰馬 未沙子(理化学研究所)

17:15 〜 19:15

[PPS06-P16] 雪・岩石混合物からなる多孔質天体上のクレーター形成に関する実験的研究

*野口 琴海1荒川 政彦1笹井 遥1豊嶋 遥名1 (1.神戸大学)

キーワード:彗星、クレーター、衝突物理学、衝突過程

はじめに
 彗星核は、カイパーベルトやオールトの雲由来の小氷天体で、主に非晶質の水氷、岩石、有機物から構成されている.また、彗星核の密度が小さいことが明らかになっており、高い空隙率を持つと言われる[1]。そのため彗星核は氷微惑星の生き残りであり、太陽系天体の始原的な情報を保持していると考えられている。また、惑星探査により、彗星核表面にはさまざまなくぼ地が存在することが明らかになっており、それらのくぼ地はジェット噴出後の陥没穴、または小天体の衝突による衝突クレーターであると考えられている[2]。本研究では、この彗星核表面に観測される円形地形が衝突起源であるかどうかを明らかにするため、多孔質氷に加えて岩石も含んだ混合試料に対して衝突実験を実施する。これまでの研究では多孔質氷を用いた実験がほとんどであったが[3]、この研究ではより実際の彗星核に近い組成である雪・岩石混合物を用いた多孔質標的を準備して衝突実験を行った。
クレーターサイズと衝突条件の関係はπスケーリング則、πR=H1π41-3ν/3πY-μ/2を用いて整理した。なお、πR=(ρt/mp)1/3R、πY=Y/(ρtvi2)、π4t/σとする。H1μは標的物質に依存する定数、Rはクレーター半径、ρtは標的の体積密度、mは弾丸の質量、viは衝突速度、Yは標的の強度である。

実験手法
実験に用いた標的の準備と実験後の解析は-15℃の低温室内で行った。彗星表面の模擬標的として使用した氷・岩石混合試料は、直径100mm、高さ60mmの円柱形である。この標的は、710μm以下の氷粒子と岩石粉末を均一に混ぜ、円筒形アクリル容器に詰めて油圧式ポンプで圧縮して用意した.また、岩石粉末としてモンモリロナイト粉末を使用した.なお、試料の空隙率は40%、岩石含有率は40%とした.衝突実験は神戸大学の横型二段式軽ガス銃を用いて行った。用いた弾丸は2mmのアルミニウム球であり、その衝突速度は1.04km/s~6.02km/sまでの範囲で1km/sずつ変化させ、弾丸を円柱の上平面に正面衝突させた。標的を低温室内の実験チャンバーに設置し、200Paまで真空引きした後に衝突実験を行った。衝突実験の様子は2台の高速カメラ(10万コマ毎秒)でチャンバーの真横と上部から撮影し、クレーター形成過程を観測した。また、実験後の標的を回収してスポール半径、ピット半径及び深さを測定した。さらに、標的の圧縮強度試験を実施して、その圧縮強度を調べた。この圧縮強度を用いてπスケーリング則に適応した.

実験結果
 実験の結果、弾丸の運動エネルギーの増加とともにスポール半径,ピット半径がべき関数的に増大することが分かった.ピットの形状は、速度の増加とともに縦長の細長い穴から球状に近い形となった.さらに、高速度(4km/s~)では弾丸の破片によると思われる突起がクレーター底部に現れた.これらの結果は多孔質雪試料で見られた形状と一致する[3].一方でスポールの形状は速度に依存せず円形だった.この形状は多孔質雪試料で見られるスポール形状と似ていたが、より対称性の高い円形だった.また、衝突速度5km/sの試料を切断すると、一度融解して凍結した思われる氷の白い層が見られた.
衝突の様子を高速カメラで観測すると、クレーター形成後期にピラー型エジェクタが放出されたことが分かった.高速度(>4km/s)ではエジェクタとして大型のスポール破片も見られた.
また、圧縮強度試験により、氷・岩石混合試料の圧縮強度が0.172MPaと求められた.蛇紋岩の含有率が50%、空隙率が40%の試料の圧縮強度が0.36MPa程度[4]、空隙率40%の多孔質氷試料の圧縮強度が0.59MPa程度[3]であることを考慮すると、矛盾のない値だと言える.以上で得られたクレーターサイズと圧縮強度から、ピット半径Rのπスケーリング則を求めると次のようになった. πR4-0.067=10-0.77±0.18πY-0.28±0.04、なお、μ=0.56±0.07となった。これは、多孔質雪試料のスケーリング則[3] πR4-0.067=10-0.43±0.15πY-0.20±0.03に近い経験式だと言える.

[1] Patzold et al. 2016, Nature 530, 63-65
[2] El-Maarry et al. 2015, OSIRIS images. A&A 583, A26
[3] Sasai et al. 2024, Icarus 411 115929
[4] Arakawa et al. 2004 Icarus 170 193–201