日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:冨永 遼佑(東京科学大学 理学院地球惑星科学系)、田畑 陽久(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、小林 真輝人(東京大学)、辰馬 未沙子(理化学研究所)

17:15 〜 19:15

[PPS06-P23] 分子雲における固体微粒子の混合:乱流による拡散係数

*山田 祥悟1 (1.東京科学大学)

キーワード:乱流分子雲、拡散係数、同位体異常、数値計算

現在の太陽系に存在する惑星や隕石に含まれる物質は、太陽系の起源を探る上で貴重な情報を提供する。その代表的な例として、元素の同位体比が挙げられる。クロムには質量数50, 51, 52, 54の安定同位体が存在し、これらの存在比は惑星や隕石ごとにわずかに異なることが明らかになっている。このような同位体異常はクロムに限らず、チタンなど他の元素においても確認されている。
太陽系に取り込まれた物質の中で安定核種の数は変化しないため、異なる同位体比を持つ天体の存在は、それらが異なる同位体比を持つ起源物質を含むことを示唆する。惑星は、原始惑星系円盤内で形成される。さらに時間を遡ると、原始惑星系円盤は分子雲コアの重力収縮によって形成され、分子雲コアは分子雲内の高密度領域で生成される。そして、固体微粒子は分子雲から分子雲コア、原始惑星系円盤、そして惑星へと至る各過程で拡散・混合される。それにも関わらず、最終的に惑星や小惑星の間に同位体的不均質が存在しているということは、各段階の混合が不十分であったことを示している。
超新星爆発や漸近巨星分枝(AGB星)の進化過程で生成される物質は、条件に応じてそれぞれ異なる同位体比を持つ。これらの物質から形成された固体微粒子も異なる同位体比を持つと考えられるため、分子雲の初期段階においてすでに同位体的不均質が存在したと推測される。分子雲内では乱流による混合が進行する中、分子雲コアが形成されるが、分子雲コア形成時にどの程度同位体的不均質が残っているかは、乱流による混合の速度と分子雲コア形成の速度の比に依存する。しかし、分子雲内の乱流による拡散・混合に関する理解は不十分である。
本研究では、乱流分子雲内での固体微粒子の運動を解析し、これを乱流による拡散現象として捉えた場合の拡散係数を導出することを目的とする。これにより、乱流による拡散・混合の速度が明らかとなり、現在の太陽系を形成した分子雲コアがどのような条件で形成されたかを解明する手がかりが得られると期待される。本研究では、乱流強度を変化させて流体数値シミュレーションを行い、乱流の強度に応じた拡散係数を求める。また、実際の分子雲の観測結果に基づき、超音速乱流が存在する条件下での拡散係数も導出する。一方で、本研究では磁場およびガスの自己重力の影響は無視するが、これらの効果については将来の研究で考慮すべきである。
固体微粒子の運動については、粒子のサイズが0.1μm以下と小さくガス抵抗による制動時間が極めて短いため、ガスと固体微粒子が一体となって運動するものと仮定する。この仮定のもと、流体計算と並行して固体微粒子の運動を計算する。計算領域内の複数地点を起点として微粒子の運動を追跡し、その結果を基に時間の関数として粒子の平均移動距離を求め、拡散係数を算出する。
流体計算にはAthena++コードを使用する。本研究では磁場および自己重力の影響を考慮せず、境界条件として周期境界を設定する。一様な分子雲を仮定し、その一部を切り取った領域を計算領域とする。乱流はAthena++で提供される乱流生成手法を用いて生成し、適切な強度の力を加えることで全空間の運動エネルギーが一定となる定常乱流を作る。力の強度を調整することで、異なる強度の定常乱流を生成する。
いろいろなパラメータで数値シミュレーションを実施した結果、乱流の平均速度が亜音速の場合から超音速の場合までに対し、拡散係数を求めることができた。拡散係数は、乱流の平均速度や系の空間スケールなどのパラメータを用いて表現できそうである。
今後は、分子雲の観測データから実際の分子雲内の乱流強度を求め、その分子雲内の拡散係数を推定することを目指す。そしてその拡散係数を用いることで、現在の太陽系における同位体不均質を作るために必要な分子雲の初期条件や分子雲コア形成条件を明らかにしたい。