日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2025年5月29日(木) 09:00 〜 10:30 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松本 徹(京都大学白眉センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:橋口 未奈子(名古屋大学)、松本 徹(京都大学白眉センター)

10:00 〜 10:15

[PPS07-05] 炭素質隕石中のMgを含む有機化合物の空間分布

*橋口 未奈子1奈良岡 浩2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.九州大学大学院理学研究院)

キーワード:炭素質隕石、マグネシウム、金属を含む有機化合物、分子イメージング

[はじめに] 炭素質隕石の可溶性有機化合物 (SOM)は,アミノ酸,核酸塩基など生命関連物質を含み,生命の起源や初期太陽系における有機物の化学進化過程を明らかにするために重要である.炭素質隕石のSOMからは,高質量分解能質量分析によって,CHO,CHNO,CHOS,CHNOS,さらにCHN化合物が多数同定されている [Schmitt-Kopplin et al. (2010), Naraoka et al. (2017)].一方,炭素質隕石を含む様々な隕石において,Mgを含む有機化合物 (Mg-metal containing organic compounds: 以下Mg-MOC)も同定されている [Ruf et al. (2017), Hashiguchi and Naraoka (2019) LPSC].Mg-MOCは,水質変質により形成された可能性が示唆され [Ruf et al. (2017), Hashiguchi and Naraoka (2019) LPSC], 微惑星上での水―鉱物―有機物の相互作用を解明するために重要な物質と考えられる.本研究では,炭素質隕石中のMg-MOCの形成過程を明らかにするため,分子イメージングにより,Mg-MOCの空間分布・鉱物との関連を調査した.
[試料と分析手法] 試料は,Tagish Lake (C2 ung), Nogoya (CM2), Murchison (CM2),Allende (CV3)の4種類の炭素質隕石のフラグメントを用いた.チッピングにより汚染が少ない粒子内部の表面が平らな粒子 (~ 1 mm)を選別し,インジウムまたは低融点合金に固定した.これらの試料に対し,脱離エレクトロンスプレーイオン化 (DESI) (Omni Spray 2D, Prosolia)とオービトラップ質量分析装置 (Q-Exactive Plus, Thermo Scientific) を利用したイメージング質量分析を実施した.スプレー溶媒は100%メタノール (2〜3 μL/ min),スプレー電圧 3 kV,質量分解能140,000(@ m/z 200)の条件下で陽イオン (m/z 50–500)を分析した.イメージング質量分析後,FE-SEM/EDSを用いた元素マッピングを行い,有機化合物の空間分布との比較を行った.
[結果と考察] DESIイメージングにより,全ての隕石試料からMg-MOCのアルキル同族体 (合計21系列, CHOMg組成13系列, CHNOMg組成9系列)が同定された.これらは全て高質量精度(<2 ppm)で同定され,Mg同位体異性体のイオン強度比からMgを含む化合物であると判断した.同定されたMg-MOC分子種と相対イオン強度の総和はどちらもTagish Lake>Nogoya>Murchisonの順に大きく,Tagish Lakeからは64種の最も多い分子種が同定され最もイオン強度が大きかった.AllendeとMurchisonは同等であった.
Mg-MOCは,全ての隕石においてマトリックス領域に分布しており,Tagish LakeとNogoya隕石では特に,Mgを含むphyllosilicateやcarbonateに富む領域に集中していた.Murchison隕石では,鉱物の空間分布との明確な相関は見られなかったが,carbonateの豊富なフラグメントではMg-MOCの相対イオン強度が大きい傾向があった.Tagish Lake, Nogoya, Murchison隕石について,同定された分子種の数や相対イオン強度が隕石の水質変質の程度の大きさ[e.g. Velbel et al. (2015)] と正の相関を示し,さらに,phyllosilicateやcarbonateの空間分布との相関が見られたことから,Mg-MOCは隕石母天体での水質変質時に形成し,変質鉱物の表面や層間などに保存された物質であると考えられる.また,Allende隕石のMg-MOCは,母天体での熱水変質 [e.g., Krot et al. (2000)]あるいは熱変成で形成した可能性があり,熱耐性をもった分子であると示唆される.本研究結果から,炭素質隕石のSOMは,Mgと相互作用してMg-MOCを形成することで母天体における水質変質や熱変成の間も安定に存在し,隕石中に保存されたと考えられる.