日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松本 徹(京都大学白眉センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、竹之内 惇志(京都大学)

10:45 〜 11:00

[PPS07-07] 微惑星での水質変成における有機物と鉱物の共進化:非晶質エンスタタイトを用いた熱水実験

*松本 有香子1橘 省吾1,2平川 祐太3古賀 俊貴3高野 淑識3 (1.東京大学、2.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、3.海洋研究開発機構)


キーワード:水質変成、非晶質ケイ酸塩、有機物、リュウグウ

地球外有機物は,太陽系の形成・進化および生命材料物質の形成の観点から注目される物質である.炭素質コンドライトやリュウグウサンプルには,生命関連物質を含む可溶性有機物(SOM)や,不溶性有機物(IOM)などが含まれる(e.g., Koga and Naraoka, 2017; Furukawa et al., 2019; Naraoka et al., 2023; Oba et al., 2023; Yabuta et al., 2023; Takano et al., 2024; Glavin, Dworkin et al., 2025).炭素質コンドライトやC型小惑星サンプルは,母天体での水質変成を経験しており,そこに含まれる有機物は水質変成を経た最終生成物と考えられる.

水質変成での有機物合成を再現した実験がこれまでに行われており,ホルムアルデヒドやアンモニアを用いた熱水合成では,隕石中のIOM類似物やアミノ酸が生成されることが明らかになった (Cody et al., 2011; Kebukawa et al., 2017; Koga and Naraoka, 2017).微惑星での変成において,有機物は鉱物とも相互作用すると考えられ (De Gregorio and Engrand, 2024),層状ケイ酸塩やカンラン石を含めた系での実験から,共存する鉱物によって有機物の進化傾向が変化することが示されている (Vinogradoff et al., 2020; Hirakawa et al., 2021).一方で,層状ケイ酸塩やカンラン石はそれぞれ,水質変成によって形成された鉱物 (e.g., Nakamura et al., 2022),水質変成を免れた鉱物 (e.g., Kawasaki et al., 2022) と考えられ,微惑星における有機物と鉱物の共進化をより包括的に理解するためには,異なる初生物質を用いた検討も必要である.

原始惑星系円盤の観測,および始原的隕石やリターンサンプルの分析から,原始惑星系円盤の初生ダストは非晶質ケイ酸塩であった可能性が示唆されている.本研究では,より現実的な微惑星材料物質の熱水反応でおこる鉱物, 有機物の共進化を明らかにするために,非晶質ケイ酸塩を出発物質に用いた熱水合成実験を行った.

出発物質として,非晶質エンスタタイト(誘導熱プラズマ法; Yamamoto et al., 2020),ホルムアルデヒド,グリコールアルデヒド,ヘキサメチレンテトラミン (HMT),超純水を用い (e.g., Cody et al., 2011; Kebukawa et al., 2017; Isono et al., 2019),これらをリュウグウサンプルの有機炭素量 (Yokoyama et al., 2022),窒素量 (Naraoka et al., 2023; Oba et al., 2023),および,推定される母天体での水/岩石比 (Nakamura et al., 2022) に合わせて混合した.混合した出発物質をガラス管に封入し,オーブンで90°C, 2–3週間加熱した.実験生成物について,粉末X線回折法と赤外分光法を用いた固相分析,高分解能質量分析計 (Q Exactive Orbitrap)での可溶性有機物分析,真空での熱分解実験による固体有機物からの放出ガス分析を行った.

固相分析から,水/岩石比1, 4の試料では非晶質エンスタタイトからMgシリケート水和物への鉱物相の変化が確認された.生成物中の可溶性有機物はCHO,CHNO化合物が優占し,窒素源となるHMTを含む試料ではCHNO化合物の割合が増加した.(CH2O)n分子も複数検出され,ホルモース反応によって糖が合成されたと考えられる.水/岩石比1の試料では水/岩石比0(出発物質に水を含まない)の試料よりも糖関連分子の検出強度が小さく,水の存在によってホルモース反応が促進され,可溶性有機物を通り越して,より複雑な不溶性有機物が形成された可能性がある.またHMTを含む試料では,含まない試料と比較して糖関連分子の強度が小さく,HMT分解生成物と出発有機物やホルモース反応生成物のメイラード反応が起きたと考えられる.固体有機物からの放出ガス分析からも,水によるホルモース反応の促進や,HMTを材料とした新しい窒素化合物の形成傾向がみられた.

また,実験生成物とリュウグウサンプルの比較から,今回の実験条件ではリュウグウに見られる層状ケイ酸塩や酸素に乏しい可溶性有機物,熱分解しにくい複雑固体有機物は再現されなかった.これらを再現するには,より高温・長時間の加熱,およびホルムアルデヒドより還元的な有機材料が必要であることが示唆された.

今後,加熱条件を変更した実験により,水やHMTが有機物合成に与える影響を検証する.また,アルデヒドよりも還元的な有機物を出発物質として用いるなどして,リュウグウを再現する条件を探索する.