日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松本 徹(京都大学白眉センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:竹之内 惇志(京都大学)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

14:00 〜 14:15

[PPS07-14] 火星隕石中Cr-Tiスピネルの衝撃変成組織

*竹之内 惇志1伊神 洋平1三宅 亮1、三河内 岳2山口 亮3 (1.京都大学、2.東京大学、3.国立極地研究所)

キーワード:火星隕石、クロマイト、衝撃変成作用

火星隕石は火星から脱出する際に、様々な度合いの衝撃変成作用を経験している。本研究では火星隕石の衝撃変成条件を制約するためCr-Tiスピネルの衝撃変成組織に注目している。我々はこれまでAsuka 12325 (A 12325)隕石において、溶融脈から離れた場所のスピネル中にもchenmingiteからなるラメラが存在することを見出し、その形成条件がホストの化学組成と衝撃圧力に依存している可能性を報告した。本研究では、いくつかの衝撃変成度合いの異なる火星隕石中のCr-Tiスピネルを比較観察することで、ラメラの形成条件のさらなる検討を試みた。
 試料はA 12325に加え、4つの火星隕石Northwest Africa (NWA) 1110, NWA 12241, NWA 13366, Amgala 001の薄片試料を用いた。各試料は偏光顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM JEOL JSM-7001F 京都大学)により観察した後、集束イオンビーム(FIB Helios NanoLab G3 CX 京都大学)による微小領域の切り出しと透過型電子顕微鏡(TEM JEM-2100F 京都大学)によるTEM-STEM観察を行った。
 NWA 13366の衝撃溶融脈では高圧鉱物が見られず、カンラン石が全体的に黒色化するなど、強い衝撃残留熱の影響が見られた。NWA 13366以外の4つの隕石では、衝撃溶融脈周囲にringwooditeやgarnetといった高圧鉱物が見られた。A 12325とNWA 12241には結晶質の斜長石が残っており、他の隕石はすべて完全なマスケリナイトとなっていた。これらの結果から衝撃変成度合い[e.g., Hu and Sharp 2022]は、NWA 13366が最も強く(約50 GPa程度)、NWA 1110とAmgala 001が中程度(~30 GPa)、A 12325とNWA 12241が弱め(~17-22 GPa)であると推定された。
 Cr-Tiスピネルの衝撃変成組織について以下に示す。A 12325と同程度の衝撃変成度のNWA 12241では、A 12325と同じくTi-richな領域でラメラ状組織がわずかに確認された。TEMで観察するとラメラの制限視野回折(SAED)パターンはchenmingiteと一致し、STEM-EDSマッピングではホストとの明瞭な組成差は検出されなかった。chromiteとは[-111]chr//[-101]chen及び[0-11]chr//[010]chenの方位関係が見られた。またNWA 12241のラメラではchenmingiteのb軸方向に二倍周期の超構造を持つことを示唆する回折パターンも得られた。NWA 1110とAmgala 001ではTiに乏しくCrに富む領域においてもラメラが広範に観察された。ラメラのSTEM-EDS分析では、ホストとの組成差は検出されず、chenmingiteと一致するSAEDパターンを示した。また、Amgala 001のchromite粒子はFeに富むリムを持ち、そこにはTiに富む細い離溶ラメラが存在していた。TEMによる観察では、Feに富むリム部のSAEDパターンはspinel構造のままであり、chenmingiteに相当する回折スポットは見られなかった。NWA 13366ではCr-Tiスピネルの組成にかかわらずラメラ状組織は全く見られなかった。
 今回の結果はchromiteの低温高圧相であるchenmingiteが火星隕石中に広く存在する可能性を改めて示唆している。特に衝撃溶融脈から離れた場所でも広く見つかることは従来の高圧鉱物と大きく異なる特徴で、衝撃波による変形によって低温で直ちに相転移する可能性が高い。全岩の到達温度圧力から制約される相転移の必要条件は、Tiに富む領域では~17-22 GPa, <250°C程度、Crに富む領域では~30 GPa, <500 °C程度である(ここでの到達温度はユゴニオから見積もられる概算の温度)。また、Fe成分が多くなると相転移しにくくなるなど、相転移にはTi-Cr-Feの組成依存性があることも明らかとなった。一方、残留熱の大きい隕石(NWA 13366)にはchenmingiteラメラが全く見られないことから、ラメラ部は熱により容易に逆相転移すると考えられる。
 本研究で見つかったchromiteの高圧相は相転移の速度論的な制約が弱く、マスケリナイトのようにピーク圧力からの減衰が少ない衝撃変成条件を、隕石中で広く反映できる可能性がある。火星隕石をはじめとする試料量の少ない地球外物質の衝撃変成度を見積もる指標として非常に有用である。今後、より定量的に化学組成とラメラ形成の温度圧力条件との関係を明らかにしていきたい。