日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松本 徹(京都大学白眉センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:竹之内 惇志(京都大学)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

14:15 〜 14:30

[PPS07-15] 太陽風由来の希ガス組成の深さ方向分布

*大槻 悠太1馬上 謙一2小長谷 智哉2,3、Wieler Rainer4圦本 尚義2 (1.北海道大学大学院理学院、2.北海道大学大学院理学研究院、3.東京科学大学、4.ETHチューリッヒ)


キーワード:太陽風、希ガス、月レゴリス、TOF-SNMS

Introduction
従来,地球外物質に含まれる太陽風起源希ガスには,表面からの深度<100 nmに注入される定常的な太陽風(SW)と深度数µmに注入される太陽高エネルギー粒子(SEP)由来の二成分が存在すると考えられていた[1].しかし,その後のNASA/Genesisミッションによる太陽風が照射された物質の分析によって,“SEP成分”はSEP由来ではなく,同位体質量分別を受けたSWによるものであると判明した[2].この誤解釈の要因の一つは,希ガスの深さ方向分析をしていた主な方法が試料を段階的にエッチングする方法であったため,“SEP成分”が存在する深度を定量的に決定できなかったためであろう.
本研究では,月試料中の“SEP成分”が存在する深度を直接決定するために,4He/20Ne比と20Ne/22Ne比の深さ方向分布をnm分解能で測定した.
Materials and Methods
アポロ計画により採取された月試料71501ソイル中から選別した~80 µm大のイルメナイト粒子を分析した(71501#6).粒子の平坦な面を露出させてIn金属中に埋め込み,試料表面に金薄膜(~10 nm厚)を真空蒸着した.4He/20Ne比と20Ne/22Ne比を定量するために,イオン注入した南アフリカ産イルメナイトの研磨片をリファレンス試料として用いた(4He: 20 keV, 2 × 1015 cm−2; 20Ne: 60 keV, 1 × 1014 cm−2; 22Ne: 60 keV, 1 × 1013 cm−2).
北海道大学設置の二次中性粒子質量分析装置であるLIMAS[3]を用い,5種類の希ガス核種(4He,20,22Ne,36,40Ar)とイルメナイトの主要核種(16O2+56Fe2+48Ti4+)を同時分析するため分析条件の再チューニングを行った[4].深さ方向分析の分析領域は~11 × 9 µm2であり,要求される測定精度を確保するための深さ方向分解能は検出イオン信号強度に依存し,5–25 nmであった (Fig. 1).
月イルメナイト71501#6に打ち込まれた4He,20Ne,22Neの深さ方向プロファイルを,SRIM [5]を使って計算した.計算に用いた太陽風の速度分布は,1998年から2011年までの13.5年間の観測値(ACE SWICS 2.0 Level 2 Data)の平均を用いた.また,4He/20Ne比と20Ne/22Ne比は現在の太陽風の値[6]を用いた.月面71501ソイル地点における太陽風の入射角を再現するために,幾何学的補正と地磁気による太陽風の遮蔽補正を行なった.
Results
Fig. 1は測定した月試料とシミュレーションのNe同位体比と4He/20Ne比の深さ方向分布である.測定した20Ne/22Ne比は最表層で最大値15.5を示した後,深度~40 nmにおいて11に至るまで単調に減衰した.この深度40nmにおける値が“SEP成分”の値に対応する.一方,4He/20Neは,最表層で~250を示し,深度30–40 nmで650に増加し,その後,深度80 nmのところで450まで減衰した.これらの深さ方向分布の減少や増加の傾向とy軸の数値は段階エッチング法による先行研究と調和的である[1].ただし,本研究により初めて深さ方向の深度数字が決定された.
Discussion
20Ne/22Ne比の測定プロファイルは表層10 nmではシミュレーションと一致し,その後シミュレーションよりも急峻に減衰する.この差異はシミュレーションと実際の入射角等の差によるものだと考えられる.いずれにせよ,深度40 nm程度のところで“SEP成分”の20Ne/22Ne比に達していることは,従来考えられていた“SEP成分”の値が太陽高エネルギー粒子に対応する値ではなく,定常的な太陽風の注入時に起こる深さ方向の質量分別の結果である事を証明している.
4He/20Neの測定プロファイルは,深度30–40 nmを除いて,シミュレーションよりも低い値を示す. 深度40 nm以深の領域の低い値は,20Ne/22Ne比の場合と同様に,シミュレーションと実際との注入の入射角等の差によるものだと考えられる.一方,深度30 nm以浅の領域では,4He濃度が~1022 cm−3に達しており,この濃度はイルメナイト構成原子の体積濃度(~2 × 1022 cm3)に近い.従って,深度30 nm以浅の低い値は,ヘリウムの脱ガス[7]がNeの脱ガスより大きいことが差異の主要因であると考えられる.
References
[1] Benkert J. P. et al. (1993) JGR, 98, 13147. [2] Grimberg A. et al. (2006) Science, 314, 1133. [3] Bajo K. and Yurimoto H. (2024) J. Anal. Sci. Technol., 15, 19. [4] Otsuki Y. et al. under review. [5] Ziegler J. F. et al. (2010) Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. B, 268, 1818. [6] Heber V. S. et al. (2009) GCA, 73, 7417. [7] Yurimoto H. et al. (2016) SIA, 48, 1181.