日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:松本 徹(京都大学白眉センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)

17:15 〜 19:15

[PPS07-P05] 小天体内部の水熱条件を模擬したカンラン石の変成実験
―溶液中の有機物がカンラン石の初期変成段階に及ぼす影響の検討―

*齊藤 大晃1平川 尚毅1、神鳥 和彦1、成田 一人1、井奥 加奈1 (1.国立大学法人大阪教育大学)


キーワード:カンラン石、蛇紋石、pH

背景と目的
星間塵はケイ酸塩などからなる鉱物コアの周囲が,有機物を含んだH2O氷によって覆われている構造を持つ(Greenberg, 1998)。そのため,太陽系形成の初期段階において,スノーライン以遠の小天体では,鉱物とともに有機物を含んだH2O氷が集積している。炭素質コンドライトにはカンラン石の水熱変成により生じる蛇紋石の存在が認められており,起源となった小天体の内部で液体の水が存在したことが示唆される。
Vinogradoff et al. (2024) は小天体の内部の水熱を模擬してホルムアルデヒド液にカンラン石を加えた加熱実験を行い,カンラン石がホルモース反応を触媒することを示した。しかし先行研究において,カンラン石の形態や化学組成の変化については明らかにされていない。本研究では,小天体内部を模擬した水熱実験に有機物の存在する水溶液を用いて,有機物がカンラン石の初期変成段階に及ぼす影響を調査した。

実験方法
有機物を含む水溶液として,ホルムアルデヒド液,アンモニア水,純水の混合溶液(HCHO:NH₃:CH₃OH:H₂O=5:1:0.83:100(モル比),FAWと表記)を用意し,サンカルロス産カンラン石(45-63 μm,0.20 g)とともにPTFE分解容器に窒素雰囲気下で封入(10:1(w/w))した。電気炉を用い130 ℃で0, 1, 2, 3, 5, 7, 10, 30日間の加熱を行った。加熱後の溶液についてはpH測定を行い,加熱後のカンラン石については,X線回折(XRD)分析による蛇紋石形成の確認,走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による表面形態の観察,エネルギー分散型X線分光器(EDS)による化学組成分析を行った。

結果
pH測定:FAW(初期pH9)では,加熱開始後pHが低下し,3日にpH6程度に達した。3日以降は,pH9程度まで上昇した場合や,pH6程度を示した場合があった。
XRD:いずれの溶液条件でもカンラン石のX線回折パターンを示し,蛇紋石によるピークは確認されなかった。
SEM:加熱後の混合溶液のpHが酸性に変化した場合,カンラン石表面が溶解したことを示すetch pit (Pokrovsky et al. 2000)が観察された(Fig. 1a)が,蛇紋石の析出は認められなかった。一方,加熱後の溶液のpHが塩基性の場合,カンラン石表面にetch pitに加えて,蛇紋石と考えられる鱗状の物質(Escario et al. 2018)がカンラン石表面の一部に析出した(Fig. 1b)。
EDS:いずれの試料も化学組成に変化は見られなかった。
TEM:30日加熱した試料について,蛇紋石への変成の最初期段階と考えられる板状の物質(Lafay et al. 2016)が確認された。

考察
XRD,SEM/EDS,TEMの結果から,析出物が粒子の最表面にのみ存在し,カンラン石から蛇紋石への変成の最初期段階にあると考えられる。
FAW中での加熱について,加熱初期にpHが低下したことから,Cannizzaro反応によりギ酸が生成したと考えられる。カンラン石の溶出はカンラン石表面のMg²⁺が溶液中のH⁺との置換により進行するため,ギ酸の生成がカンラン石の溶出を促進したと考えられる。また,pH低下後の上昇は,カンラン石の溶出により生じる2Mg2SiO4 + 4H2O + 4H+ 4Mg2+ + 2H4SiO4 + 4OH- の反応(Lafay et al. 2014)による水素イオンの消費と水酸化物イオンの生成に起因することが示唆される。また,蛇紋石の析出は,4Mg2+ + 2H4SiO4 + 4OH- Mg3Si2O5(OH)4 + Mg(OH)2 + H2O + 4H+の反応(Lafay et al. 2014)によって生じ, pH上昇後に,pH8-9付近で維持されるのは,カンラン石の溶解と蛇紋石の析出の両方の反応が生じることによると考えられるが,有機物同士の反応が影響を及ぼしている可能性もあり,さらなる考察が必要である。以上より,ホルムアルデヒドの反応による溶液のpH変化がカンラン石の溶出と蛇紋石の析出をコントロールしていることが分かる。一方で,カンラン石の粒径が異なればカンラン石の溶出速度も変化し,鉱物-有機物間の異なる反応経路が生じる可能性がある。