日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 月の科学と探査

2025年5月30日(金) 10:45 〜 12:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:仲内 悠祐(立命館大学)、小野寺 圭祐(岡山大学惑星物質研究所)、石原 吉明(宇宙航空研究開発機構)、池田 あやめ(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、座長:仲内 悠祐(立命館大学)、豊川 広晴(総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻)

11:15 〜 11:30

[PPS08-09] 月高緯度日照域における水捕獲機構 – ガーデニング効果の与える影響

*橋爪 光1 (1.茨城大学理学部)

キーワード:月、水、ガーデニング効果、ポンピング効果

月極域表土の表面あるいは内部に水が捕獲されていることが中性子分光法などのリモートセンシングにより示唆されている(Miller et al., 2012; Sanin et al., 2017)。この月面水の起源と月面における濃集・捕獲機構の理解は、月のみならず広く一般の重力天体表面における揮発性元素の挙動や分布を理解するための重要な手がかりを与える。また、このような理学的要請だけではなく、月面水は近い将来における重要な宇宙資源として目されており、詳細な水分布ならびに極域における水総量の推定を現在求められている。
 月極域水の捕獲機構として2つの異なるタイプのものが現在提案されている。一つは、日照がない永久影に上空から水分子が飛来し蓄積するタイプである。恒常的に110Kを下回る温度が維持された場合、氷の昇華に要する時間が月の年齢を上回る程長くなり水の蓄積が永続的に続く。LCROSSミッションにおいては、そのような永久影にロケットが打ち込まれ発生したエジェクタプルームにおいて大量の水蒸気が検出され(Colaporate et al., 2010)、このタイプの捕獲形態の存在が確認された。 ただし、永久影は高緯度地域の中でも特殊な地形条件の中で形成するため、その存在度は決して高くはなく(Hayne et al., 2021)、月極域水総量に対するこのタイプの寄与については今後精査を要する。本講演の主題はもう一つのタイプの捕獲機構である。月極域の大部分は少なからず日照を受ける。日照が繰り返される通常の月面においては、日照に伴い表面温度が上昇し、夜間に蓄積した氷が蒸発する。そのようにして発生した水蒸気の大部分は月面に解放されるが、一部は逆方向、すなわち、月面内部に向かって拡散する。多孔質媒体である表土は、熱拡散が遅く、蒸気拡散は速い性質をもつ。月面から日照熱と水蒸気が同時に拡散を開始すると、内部には水蒸気の方が早く到達するため、そこで水蒸気は再び凝縮することになる。このプロセスを繰り返しながら、水は表土内部に運ばれ、やがて、日照熱が届きにくいため恒常的に寒冷な深度において水が最終的に凝縮・捕獲される。これは、ポンピング効果と呼ばれる機構である(Schorghofer et al., 2014)。
 ポンピング効果が続くと、月面から降着した水分子の一部が運ばれ、やがて表土内部の特定深度に水が集中的に蓄積する。数値計算によると、この蓄積は、水蒸気の流路である表土内の空隙を氷が塞ぐほど大量の氷が蓄積しない限りは、時間に伴い同じ効率で継続する。ところが、現実の月面水捕獲を再現するためには、ポンピング効果の他に、少なくとももう一つ、月固有の要因を考慮に入れる必要がある。それは、小天体爆撃である。あらゆる月面は小天体の爆撃に晒されており、小規模なものほど高頻度に発生する(Costello et al., 2018) 。小天体爆撃により、月面にクレータが作られ、クレータが作られた場所に元々あった表土はクレータの周囲の表土の上に堆積する。これをガーデニング効果と言う。小天体爆撃は表土物質の発熱を伴うため、それまで表土中に蓄積されたポンピング水の蒸発を促進する。一方、クレータの周囲では、元の表土の上に新たにエジェクタが加わるため、元の表土の内部にあった含水層は、新たな月面から見てより深い、つまり、爆撃と日照の影響を受け難い場所に埋蔵されることになる。
 本研究では、ポンピング効果による特徴的な捕獲水の分布や濃度が、ガーデニング効果によりどのような影響を受けるのかを、簡易数値計算モデルを構築した上で評価した。講演では、その概略を紹介の上、月極域における水分布の、緯度や地形などの様々なパラメータに対する依存性について考察する。