14:30 〜 14:45
[PPS08-16] 月の衝突盆地放出物厚さ分布と表面組成の関係

直径300 kmを超える月の衝突盆地は、その形成時にマントル・地殻物質を掘削し、放出物が広範に月面を覆ったと考えられる [e.g., Melosh, 1989]。このような衝突盆地は月に50以上存在し [Wilhelms, 1987]、複数の衝突盆地の影響により、月面の表層物質は大規模に混合されている。このため、衝突盆地は惑星の表層進化を理解する上で重要な地形である。
一方で、月の表と裏では表面組成が大きく異なる。例えばThの分布は表側のImbrium盆地周辺に強く濃集しているのに対し、裏側ではSPA盆地内に中程度の濃集が確認されるのみである [Kobayashi et al., 2012]。Thは液相濃集元素の一つであるため、この分布から、マグマオーシャンの固化は表側で最後に進行したと推測される。また、月高地地殻に含まれる苦鉄質ケイ酸塩中のMgと鉄のモル比(Mg#)は、裏側の値が高く、表にかけて低下する傾向がある [Ohtake et al., 2012]。斜長岩は先に固化するほどMg#が高くなるため、マグマオーシャンの固化が月の裏側から表に向かって進行した可能性が示唆されている。
しかし、衝突盆地によって表層物質が大規模に混合されるため、現在の組成分布と放出物の影響を考慮する必要がある。そのため衝突盆地放出物厚さの全球分布を決定する必要があるが、現在衝突盆地ごく近傍の距離~1000 km以内でしか計測されておらず [Fassett et al., 2011; Yue et al., 2020]、全球分布が決定できていない。そこで本研究では、現在の表層組成からマグマオーシャン固化過程を推定する上で不可欠な衝突盆地放出物の全球的な分布を決定することを目的とし、構造がよく保存されているOrientale盆地およびImbrium盆地に注目した。
本研究ではクレーターサイズ頻度分布を用いて放出物厚さを計測した。まず、Orientale盆地およびImbrium盆地周辺のクレーター・衝突盆地上の領域でクレーターカウントを実施し、その領域のクレーターサイズ頻度分布を作成した。放出物の堆積によって消去されたクレーターの直径を分布の折れ曲がりから特定し、放出物厚さを求めた。また、消去されたクレーターよりも小さい直径のクレーター分布がOrientale盆地およびImbrium盆地のアイソクロンに沿うかどうかを確認することで、どの盆地の放出物が堆積したのかを判断した。
図はこの方法で得られた放出物厚さを、横軸にOrientale盆地からの距離をとってプロットしたものである。距離2000 km以内の領域の厚さは距離とともに減少する傾向を示した。一方で、本研究で特に注目すべき点として、距離4000 km以遠の放出物厚さが急増することが確認された。特に、対蹠点周辺に放出物が集中して堆積していることが実測された。月が球形であるため、放出物は対蹠点に集中しやすいと予測されるが、Wakita et al. [2021]による直径1000 kmの盆地形成の数値シミュレーションでは、対蹠点への放出物堆積は衝突角度に強く依存することが示されている。衝突角が傾斜すると、放出物は低い放出角で放出され、対蹠点に到達しやすいと考えられる。Orientale盆地は二次クレーター鎖の分布などから45°の斜め衝突によって形成されたと推定されており [e.g., Melosh et al., 2018]、本研究で得られた対蹠点への放出物集中の結果は、これらの推定を裏付けるものである。
本研究により、盆地からの距離に対する放出物厚さの関係を決定することができた。これを基に、現在の表層組成との関係を議論する。まず、Th濃度とImbrium・Serenitatis盆地放出物厚さの関係を比較した。月裏側のSPA盆地内で中程度のTh濃集がみられる領域は、表側のTh濃集の中心であるImbrium・Serenitatis盆地の対蹠点付近である。そこでこの領域付近の放出物厚さを計測した結果、Th異常がない領域でもImbrium放出物厚さが100 m以上あり、中程度のTh異常が見られる領域ではSerenitatis放出物が200 m以上堆積していることが確認された。したがって、表側のTh異常が見られる領域の盆地放出物が裏側のTh異常領域に堆積していることが示唆された。しかし、Imbrium放出物にThが含まれず、Serenitatis放出物にのみThが含まれる可能性は低いため、現在の裏側のTh異常は放出物起源ではなく、SPA盆地地下のTh層の掘削で露出した可能性が高い。この結果から、マグマオーシャン残留液は裏側にも存在し、その固化過程は単純に裏から表へと進行したわけではないことが示された。
一方で、月の表と裏では表面組成が大きく異なる。例えばThの分布は表側のImbrium盆地周辺に強く濃集しているのに対し、裏側ではSPA盆地内に中程度の濃集が確認されるのみである [Kobayashi et al., 2012]。Thは液相濃集元素の一つであるため、この分布から、マグマオーシャンの固化は表側で最後に進行したと推測される。また、月高地地殻に含まれる苦鉄質ケイ酸塩中のMgと鉄のモル比(Mg#)は、裏側の値が高く、表にかけて低下する傾向がある [Ohtake et al., 2012]。斜長岩は先に固化するほどMg#が高くなるため、マグマオーシャンの固化が月の裏側から表に向かって進行した可能性が示唆されている。
しかし、衝突盆地によって表層物質が大規模に混合されるため、現在の組成分布と放出物の影響を考慮する必要がある。そのため衝突盆地放出物厚さの全球分布を決定する必要があるが、現在衝突盆地ごく近傍の距離~1000 km以内でしか計測されておらず [Fassett et al., 2011; Yue et al., 2020]、全球分布が決定できていない。そこで本研究では、現在の表層組成からマグマオーシャン固化過程を推定する上で不可欠な衝突盆地放出物の全球的な分布を決定することを目的とし、構造がよく保存されているOrientale盆地およびImbrium盆地に注目した。
本研究ではクレーターサイズ頻度分布を用いて放出物厚さを計測した。まず、Orientale盆地およびImbrium盆地周辺のクレーター・衝突盆地上の領域でクレーターカウントを実施し、その領域のクレーターサイズ頻度分布を作成した。放出物の堆積によって消去されたクレーターの直径を分布の折れ曲がりから特定し、放出物厚さを求めた。また、消去されたクレーターよりも小さい直径のクレーター分布がOrientale盆地およびImbrium盆地のアイソクロンに沿うかどうかを確認することで、どの盆地の放出物が堆積したのかを判断した。
図はこの方法で得られた放出物厚さを、横軸にOrientale盆地からの距離をとってプロットしたものである。距離2000 km以内の領域の厚さは距離とともに減少する傾向を示した。一方で、本研究で特に注目すべき点として、距離4000 km以遠の放出物厚さが急増することが確認された。特に、対蹠点周辺に放出物が集中して堆積していることが実測された。月が球形であるため、放出物は対蹠点に集中しやすいと予測されるが、Wakita et al. [2021]による直径1000 kmの盆地形成の数値シミュレーションでは、対蹠点への放出物堆積は衝突角度に強く依存することが示されている。衝突角が傾斜すると、放出物は低い放出角で放出され、対蹠点に到達しやすいと考えられる。Orientale盆地は二次クレーター鎖の分布などから45°の斜め衝突によって形成されたと推定されており [e.g., Melosh et al., 2018]、本研究で得られた対蹠点への放出物集中の結果は、これらの推定を裏付けるものである。
本研究により、盆地からの距離に対する放出物厚さの関係を決定することができた。これを基に、現在の表層組成との関係を議論する。まず、Th濃度とImbrium・Serenitatis盆地放出物厚さの関係を比較した。月裏側のSPA盆地内で中程度のTh濃集がみられる領域は、表側のTh濃集の中心であるImbrium・Serenitatis盆地の対蹠点付近である。そこでこの領域付近の放出物厚さを計測した結果、Th異常がない領域でもImbrium放出物厚さが100 m以上あり、中程度のTh異常が見られる領域ではSerenitatis放出物が200 m以上堆積していることが確認された。したがって、表側のTh異常が見られる領域の盆地放出物が裏側のTh異常領域に堆積していることが示唆された。しかし、Imbrium放出物にThが含まれず、Serenitatis放出物にのみThが含まれる可能性は低いため、現在の裏側のTh異常は放出物起源ではなく、SPA盆地地下のTh層の掘削で露出した可能性が高い。この結果から、マグマオーシャン残留液は裏側にも存在し、その固化過程は単純に裏から表へと進行したわけではないことが示された。