日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 月の科学と探査

2025年5月30日(金) 15:30 〜 17:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:仲内 悠祐(立命館大学)、小野寺 圭祐(岡山大学惑星物質研究所)、石原 吉明(宇宙航空研究開発機構)、池田 あやめ(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、座長:小野寺 圭祐(岡山大学惑星物質研究所)、石原 吉明(宇宙航空研究開発機構)

16:00 〜 16:15

[PPS08-21] 可視-近赤外顕微分光カメラによるアポロ月レゴリス試料の計測

*林 悟1杉田 精司1長 勇一郎1諸田 智克1森 晶輝1湯本 航生2坂谷 尚哉2田中 智2荒川 創太3小林 泰三4土山 明4仲内 悠祐4、近藤 明彦6、遠藤 理恵5、西 剛史7、松村 聡6 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.宇宙科学研究所、3.海洋研究開発機構、4.立命館大学、5.芝浦工業大学、6.海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所、7.茨城大学)

キーワード:月、レゴリス、分光分析

惑星探査により、これまで様々な天体において反射分光スペクトルの計測が行われてきた。特に可視光および近赤外線による分光スペクトルは鉱物によるスペクトルの吸収を顕著に表すため、天体の鉱物の分布を知る上で有力な手法とされている。例えば、カンラン石は1μm付近に吸収バンドを持ち、輝石は1μmと2μm付近に吸収バンドを持つことが知られている(e.g., Adams, 1974; Pieters, 1983)。
これまでの惑星探査のスペクトル計測では、連続分光装置が広く用いられてきた。これは波長分解能が高いというメリットはあるが、空間分解能は低く、広範囲が平均化されたスペクトルしか得られない。また、月探査機「かぐや」Multiband Imager (MI)では比較的高い空間分解能(可視光20m・近赤外線62m)によるマルチバンド分光が実現された(Ohtake et al., 2008)。MIは月面高度100kmから広範囲を効率的に探査できる点で非常に有効な観測手法である。しかし、レゴリスのような微小粒子の鉱物を識別できるわけではない。
したがって、今後の探査においては惑星表面をより高い空間分解能(cm~mm以下)で計測することが重要であると考える。本研究では高空間分解能を持つ近赤外線カメラを用いたマルチバンド分光装置を開発し、データの取得、およびデータ解析の手法についての検討を行った。
本研究で用いた分光装置の基本的な構造は、試料を設置するステージ(鉛直方向に可変)に対して30°に光が入射するように光源を設置し、試料ステージの直上(0°)にカメラを設置したものである。光源にはハロゲンランプを用い、バンドパスフィルターにより550~1500 nmの波長範囲で13バンド(550, 750, 850, 900, 950, 990, 1000, 1050, 1100, 1150, 1200, 1250, 1550 nm)の光線が照射可能である。カメラには可視光〜近赤外線の波長範囲を検出可能なものを用い、その検出部には0.77~9.31倍ズームが可能な高倍率レンズを取り付けた。本装置を用いて、月帰還試料(Apollo 17, 70161)・Anorthosite試料・Lherzolite試料の計測を行った。
計測の結果、Anorthosite試料・Lherzolite試料のそれぞれにおいて、1250 nmの吸収スペクトル・1050 nmの吸収スペクトルが得られた。また、Apollo 17試料(70161)の計測では、無水ケイ酸塩鉱物に由来する1μm帯の吸収スペクトルが見られた。さらに、試料中に肉眼で白色に見える鉱物粒子については、1250 nm付近の吸収スペクトルが見られ、Anorthosite試料に見られる吸収スペクトルに類似する結果となった。
次に、750 nm反射率(R750)と950 nm反射率(R950)の比を用いて、鉱物中のFe含有量の推定を行った。推定に用いた式は、Lucey et al.(1995)により以下のように与えられる。
θFe = arctan{[(R950/R750)-1.25]/(R750-0.037)}
wt% FeO = 20.527 × θFe – 12.266
この結果、月のmare basalt由来のレゴリスでは15 wt%程度と推定された。これはNASAデータベースに公開されているApollo 70161サンプルの元素組成に概ね一致した値である。また、肉眼で白色に見える鉱物粒子については、Feをほとんど含まない(~0 wt%)と推定された。
本研究の結果は、月のmare basalt由来のレゴリス中にAnorthositeと思われる粒子の存在が確認できるものとなっている。この結果は、月面の地質的な考察を与えることが可能である。Apollo17号のサンプリング地点はSerenitatis盆地(晴れの海)南東部のリム付近に存在するTaurus-Littrow渓谷である(Schmitt 1973)。この渓谷の中に、付近の山地由来のAnorthositeが何らかの方法で降り注いだことが考えられる。このように月面の詳細な地質的考察が可能となるのは、本研究で用いた分光装置の高い空間分解能によるものである。したがって本研究では、可視-近赤外顕微分光カメラの高空間分解能という特長により、その有意義な可能性が示された。本装置は、今後の惑星探査において有効な観測手法として期待されると言える。