日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 月の科学と探査

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:仲内 悠祐(立命館大学)、小野寺 圭祐(岡山大学惑星物質研究所)、石原 吉明(宇宙航空研究開発機構)、池田 あやめ(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

17:15 〜 19:15

[PPS08-P18] 嫦娥4号の地中レーダー観測による月地下の岩石サイズ-頻度分布調査

*神田 恵太朗1熊本 篤志1石山 謙2加藤 雄人1 (1.東北大学、2.東京国際工科専門職大学)


キーワード:月、地中レーダー、岩石サイズ-頻度分布、Lunar Penetrating Radar、月表層進化

月面を覆う岩石のサイズ-頻度分布は月面の形成年代や進化の過程を反映している。これまで月面の岩石のサイズ-頻度分布はカメラ観測により調査されてきた(e.g. Di et al., 2016; Li et al., 2017)が、カメラ観測では現在の月面しか観測できず、過去の月面のサイズ-頻度分布を知ることはできない。そこで、我々は地中レーダー(ground penetrating radar: GPR)による観測に着目した。GPRは電波を用いた非破壊の地下計測手法であり、異なる年代に形成された複数の地下層を観測できる利点がある。これまで嫦娥3, 4, 5号により月面でGPR観測が実施されており、古レゴリス層やレゴリスに埋没した古い溶岩層の存在などが明らかにされている(Liu et al., 2023)。GPR観測で計測されるエコーの極性は地下媒質の誘電率により決定され、誘電率が高い(低い)媒質から低い(高い)媒質へ電波が入射する際には、送信波と同じ(逆)の極性のエコーが生成される。月レゴリス中に含まれる岩石のGPR観測を考えると、レゴリスの誘電率は典型的に3程度(Feng et al., 2022)、岩石の誘電率は6-15程度(Chung et al., 1970)であることから、岩石の上端からは送信波と逆、下端からは送信波と同じ極性のエコーが得られると考えられる。また、岩石が分解能に比べて小さく、上端と下端を区別できない場合には上端と下端からのエコーが混ざったエコーが得られると考えられる。我々はエコーの極性を調べることで地中に埋没した岩石のサイズを推定することができると考えた。本研究の目的は、嫦娥4号の地中レーダー観測データから、レゴリス中に含まれる岩石のサイズを調査することである。
まず初めに、GPR観測で得られる極性と岩石サイズの関係を調べるため、FDTD法を用いてGPR観測のシミュレーションを実施した。計算にはgprMax(Warren et al., 2016)を用いた。嫦娥4号の地中レーダーと同じ、中心周波数500 MHzの地中レーダーを地表から0.3 mの高さに設置した。誘電率9の円形岩石を誘電率3のレゴリス中、深さ2 mに設置した。岩石の直径を1 cmから15 cmまで変化させたところ、得られた極性に基づいて岩石サイズを3種類に大別できることを発見した。直径5 cm以下では送信波と同じ極性のエコーが1つだけ得られた(カテゴリー1)。これは岩石下端からのエコーがより支配的になっているためと考えられる。直径6-8 cmでは上端と下端のエコーを完全には区別できなかったものの、送信波と同じ極性で2つのピークを持つエコーが観測され、岩石サイズが大きくなるにつれて上端と下端のエコーが分離しかけている様子が観察された(カテゴリー2)。このようにGPRの分解能以下の岩石であってもサイズを分類できると示されたことは、本研究を通して得られた重要な成果である。直径9 cm以上の岩石では予想通り送信波と同じ極性(岩石上端からのエコー)と逆の極性(岩石下端からのエコー)のエコーがペアとなって観測され、予想と一致する極性の組み合わせが得られた(カテゴリー3)。
次に、FDTDシミュレーションで得られた岩石サイズの分類方法を嫦娥4号のLunar Penetrating Radar (LPR)の観測データに適用した。基礎的なデータ処理(Feng et al., 2023) により、1500 mのローバー経路に沿った観測データ(B-scan)が得られた。B-scan中にみられる複数の地層(Giannakis et al., 2024; Zhang et al., 2024)のうち最上層のレゴリス層中に含まれる双曲線エコーを目視で検出したところ、88個の双曲線エコーを確認した。前述の3つの分類にしたがってこれらのエコーの極性を調べたところ、カテゴリー1:46個、カテゴリー2:12個、カテゴリー3:4個という結果になった。(3)については岩石の誘電率を9と仮定してサイズを推定したところ、52.5 cmから15.0 cmの推定値が得られた。他の26個についてはシミュレーションで得られた3種類の極性には当てはまらなかった。これらのエコーについてはレゴリス中の空洞によるエコー(Ding et al., 2021)の可能性を考えている。
本研究の結果は月地下の岩石サイズ-頻度分布の変遷を解き明かす上で重要な初期成果である。一方でより深い地層ではエコーの数が多くなり目視では双曲線エコーを識別できなかったので、双曲線エコーの検出とその極性を定量的に評価する手法を開発することが今後の課題である。