日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 月の科学と探査

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:仲内 悠祐(立命館大学)、小野寺 圭祐(岡山大学惑星物質研究所)、石原 吉明(宇宙航空研究開発機構)、池田 あやめ(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

17:15 〜 19:15

[PPS08-P20] 分子動力学シミュレーションによる月環境下での灰長石および石英の弾性波速度の温度依存性解析

*矢田 鈴人1池田 達紀1小林 和弥2北村 圭吾1 (1.九州大学、2.京都大学)

キーワード:分子動力学シミュレーション、灰長石、石英、弾性波速度、月面探査

月の高地地殻は主に灰長石(CaAl₂Si₂O₈)から構成されており、弾性特性を評価することは、月面探査をする上で不可欠である。アポロ17号の微動データ解析から、月の弾性波速度は温度変化に負の相関を持つように変化することが明らかになっているが(Sens-Schönfelder & Larose , 2008)、その温度依存性の原因は十分に解明されていない。そこで本研究では、鉱物スケールでの原因を明らかにするため、分子動力学を用いたシミュレーションにより、灰長石と比較として石英の温度依存性を解析することで、月面での温度変化が弾性波速度に与える影響を推定した。
具体的には、GROMACSを用いた分子動力学シミュレーションを実施し、灰長石および石英の弾性定数を100Kから350Kの温度範囲で計算した。力場にはClayFFを適用し、NPTおよびNVTアンサンブル下で平衡化を行った。次に、応力‐ひずみシミュレーションを通じて弾性定数を算出し、弾性波速度を求めた。また、得られた結果を300Kを基準とした相対速度として評価し、シミュレーション結果と既存の実験データとの比較を行うことでシミュレーション結果の信頼性と妥当性を評価した。
灰長石と石英におけるP波速度およびS波速度の温度依存性を解析した結果、いずれの鉱物も300Kを基準とした速度比において、温度が上昇するほど速度が低下する傾向が確認された。灰長石のP波速度およびS波速度の300Kに対する変化率を解析した結果、灰長石の弾性波速度は温度上昇に伴う減少傾向が顕著であり、特にP波速度の減少率がS波速度を上回ることが示された。温度上昇に伴うP波速度の減少は、灰長石の結晶構造における熱膨張の影響が反映されるためと考えられる。一方、石英のP波速度およびS波速度の300Kに対する変化率を解析した結果、石英は灰長石に比べてP波速度の温度依存性が大きいことが確認された。一方で、S波速度の温度依存性は比較的小さい。また、灰長石と石英の比較から、灰長石は石英に比べて全体的に弾性波速度が低く、この傾向は灰長石が構造的に変形しやすい鉱物であることを反映していると考えられる。
さらに、使用した力場であるClayFFの特性に起因して、いずれの鉱物も弾性波速度が過大評価される傾向が見られた。このため、より精度の高い解析を行うためには、より適した異なる力場の適用を検討する必要がある。本研究では、温度変化が鉱物の弾性波速度に与える影響を定量的に評価した。この結果を利用すれば、月面の弾性波速度構造のモデル化の際に温度依存性を考慮することが可能となり、月極域における水資源探査に関連する弾性波速度のモデリングに利用できる可能性がある。