日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 火星と火星衛星

2025年5月27日(火) 10:45 〜 12:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、座長:臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、和田 浩二(千葉工業大学惑星探査研究センター)、倉本 圭(北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)、宮本 英昭(東京大学)

10:45 〜 11:00

[PPS09-07] OMEGA/MExによる2.01μmと2.77μmの2つのCO2バンドの直下視観測から推定される火星のダストの鉛直分布:初期結果

★招待講演

*風間 暁1,2、Yann Leseigneur3青木 翔平2,4、Thomas Gautier5,3、Mathieu Vincendon6笠羽 康正1中川 広務1、Tanguy Bertrand5,7、Franck Montmessin3 (1.東北大学、2.東京大学、3.LATMOS/IPSL、4.Royal Belgian Institute for Space Aeronomy、5.LIRA, Observatoire de Paris, Université PSL、6.Institut d’Astrophysique Spatiale、7.LPGN)


キーワード:火星、ダスト、気象

火星のダストは、大気中での水平および鉛直方向の輸送を通じて火星の気候に大きな影響を与える重要な要素である。これまでの紫外・可視・赤外の直下視観測によって、ダストの水平分布に関する知見は広く得られている(e.g., Smith et al. 2001; Montabone et al., 2015; Battalio and Wang, 2021; Leseigneur and Vincendon, 2023)。一方で、鉛直方向のダスト分布については、太陽掩蔽観測やリム観測により一定の情報が得られているものの、その水平方向の広がりや輸送メカニズムには依然として不明な点が多い。従来のリム観測や太陽掩蔽観測では、ダストの高度情報を直接取得できるが、時間・空間分解能が限られるという課題があった。本研究では、直下視観測におけるスペクトルシナジー法を活用し、ダストの鉛直分布に関する新たな知見を得ることを目的とする。

スペクトルシナジー法とは、異なる波長での吸収特性の違いを利用することで、直下視観測から大気成分の高度情報を推定する手法である(Pan et al., 1995; Pan et al., 1998; Edwards et al., 2009)。この手法は地球観測においてCO2(Christi & Stephens, 2004)やO3(Landgraf & Hasekamp, 2007)、CH4(Razavi et al., 2009)の高度分布推定に活用され、近年では火星大気中の水蒸気分布解析にも適用されている(Knutsen et al., 2022)。しかし、火星のダストに対して適用する試みは未だに行われていない。本研究では、スペクトルシナジー法をダストの鉛直分布推定に適用し、その有効性と課題を評価する。
本研究では、Mars Express に搭載された近赤外分光撮像装置 OMEGA が火星年(MY)27-29 に取得した直下視観測データを用い、2つの異なる波長で導出されたダスト光学的厚さの比較を行った。具体的には、2.77 μm の CO2 吸収飽和帯を用いたダスト光学的厚さデータベース(Kazama et al., in prep.)と、2.01 μm の CO2 吸収帯を用いたダスト光学的厚さのデータベース(Leseigneur and Vincendon, 2023)を利用した。2.77 μm の CO2 吸収帯は、通常の火星環境下(>400 Pa)では完全に飽和を起こし、主に高度 20-30 km のダストに感度を持つ。一方、2.01 μm の CO2 吸収帯は比較的吸収が弱く、高度 10-20 km のダスト情報を反映する。これらの波長を組み合わせることで、直下視観測よりダストの高度分布の推定を試みる。2.01 μm と 2.77 μm のダスト光学的厚さの比率(比率= 2.77 μm / 2.01 μm)はダストの消散係数の比に基づき約 1.12 となるが、温度や大気圧、装置などによるリトリーバル誤差を考慮すると 1-5 の範囲に収まる。比率が 5 を超える場合は、ダストが2.01 μmよりも2.77 μmでより強く検出され、高高度でのダストの濃度が高いことを示している。一方、比率が 1 を下回る場合は、低高度のみにダストが集中していることを意味する。

本研究の手法を MY28 の全球ダストストームを含む MY27-29 の約 4000 観測に適用した。その初期解析の結果、2波長比率の季節変動に関する新たな示唆を得た。具体的には、ダスト量が少ない季節(Ls=0°-180°)では比率が 5 を超える観測が増加し、ダスト量が多い季節(Ls=180°-360°)では比率が 1-5 に収まる観測がほとんどであることが示された。この結果は、ダスト量が少ない季節には、ダストが2.01μmよりも2.77μmで強く検出され、ダストが高高度に集中し、ダスト遊離層が形成されている可能性を示唆している。一方、ダスト量が多い季節では、ほとんどの観測結果が予想される1-5の範囲に収まっており、よく混合された垂直ダスト分布であることを示唆している。
この手法は、リム観測や太陽掩蔽観測と比べて広範囲の時空間カバレッジを確保できるが、一方で高度分布の定量的推定には多くの課題が残されている。本講演では、本研究の手法の詳細とその課題について議論し、得られた結果の解釈および今後の展望について報告する。