日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 火星と火星衛星

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

17:15 〜 19:15

[PPS09-P04] 巨大衝突起源説に基づくガス浮遊法によるフォボス構成物質の再現実験

*川田 理栄仁1中村 智樹1渡邉 華奈1森田 朋代1玄田 英典2 (1.東北大学 、2.東京科学大学)


キーワード:火星衛星、巨大衝突説、反射スペクトル、ガス浮遊法

小型でいびつな形状をした天体である火星衛星フォボス・ダイモスの起源については,捕獲説と巨大衝突説の二つの仮説が提唱されている.両衛星は可視・近赤外領域において暗く特徴の少ない反射スペクトルをもち,D型およびT型小惑星の反射スペクトルと類似する (Rivkin et al., 2002).その類似性は捕獲説を支持する根拠とされているが,両衛星の軌道特性を説明することは困難である (Higuchi & Ida, 2017).一方,Rosenblatt et al. (2016) による数値シミュレーションにより,両衛星が火星の赤道面上を真円軌道で周回しているという観測事実を巨大衝突説が説明しうることが分かっている.しかし,衝突の詳細なプロセスや,衝突によって生成された物質の反射スペクトルや化学組成の特徴については未解明である.
本研究では,巨大衝突説の妥当性を検証するために,ガスジェット浮遊法を用いた実験を行い,火星衛星の形成時に生成された可能性のある物質の反射スペクトルや化学組成を分析している.なお,本研究の成果は,将来の火星衛星探査,特に火星衛星探査計画 (MMX) において得られる反射スペクトルやリターンサンプルと比較する際の基礎データとして活用されることが期待される.
本実験の出発物質は火星物質と衝突天体物質の混合物であり,衝突天体の化学組成および火星物質との混合比を変化させて実験を実施している.Hyodo et al. (2017) による数値シミュレーションでは,巨大衝突では約2000 Kという高温状態で溶融した物質が火星を中心として円盤を形成し,それらが冷却・集積することで衛星を形成したと予測された.そのような衝突過程を実験で再現するために,高温かつ接触点をもたずに物質が溶融・冷却する環境を模擬できるガスジェット浮遊装置を用いた.なお,出発物質の加熱後,Hyodo et al. (2017) で予測される冷却速度の範囲を含む3種類の冷却速度(200-300 ℃/s,10 ℃/s,1 ℃/s)で冷却させた実験を行っている.また,Pignatale et al. (2018) によって,衝突天体の種類に応じてダストや固体の化学組成が大きく変化することが予測されているため,実験雰囲気が物質に及ぼす影響を検証することを目的として酸素分圧の異なる3種類の実験雰囲気(大気,Arガス,Ar–H2ガス)を採用した.実験合成物の分析には,FT-IRを用いた反射スペクトル測定,FE-SEM/ EDSによる組織観察および化学組成分析,STXMによるFe-XANES分析を実施し,得られたデータを火星衛星の観測データと比較した.
本報告では,1.同一条件での実験を繰り返し,実験の再現性の確認し,また実験手法を確立すること,2.サンプルは火星マントル組成と衝突天体としてコンドライト組成の物質を混合することを想定しているが,今回はその端成分の火星マントル組成での実験を行った.本実験から得られたサンプルの分析では,冷却速度は結晶性に,実験雰囲気の酸素分圧は可視・近赤外領域における反射率に大きく影響を及ぼすことが確認された.急冷サンプルは非晶質,徐冷サンプルは結晶質(olivine, pyroxene)であるものが多い傾向にあり,酸化的な雰囲気での実験サンプルほど反射率が暗く,火星衛星と同等の暗さであった.しかし,0.8 μm付近には観測データに見られないピークが見られるという乖離が認められた.
現在は,衝突天体の化学組成や混合比を変化させた実験を通して,火星衛星の反射スペクトルに見られる特徴を反映する物質科学的な条件の解明のために,実験を継続的に行っている.