日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 火星と火星衛星

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

17:15 〜 19:15

[PPS09-P07] 火星の隕石衝突による火震S1034aの地震波形記録に基づく火星内部不均質構造の地震波数値シミュレーション

*平井 隼人1前田 拓人1平野 史朗1 (1.弘前大学大学院理工学研究科)


キーワード:火震、隕石衝突、レゴリス、地震波数値シミュレーション、コーダ波、散乱

NASAの火星探査機InSightは地震計SEISを展開し,多くの火震(火星で起こる地震)を記録した.観測された火震波形はP波やS波のオンセットを不明瞭になるほど,強く長いコーダ波が含まれていることが特徴である.このコーダ波は火星表層の破砕堆積物であるレゴリスやその下に広がる破砕岩盤層のメガレゴリスといった不均質構造による地震波の散乱によって発生したものと考えられる.また,火震のコーダ波は地球より長く,月より短いことがわかっている.火星の内部構造については様々な火震の波形記録から多くの研究が行われてきたが,その多くは水平成層構造を前提に推定されている.また,地殻内の散乱についても研究が行われているが,レゴリス層やその不均質性を考慮した波形再現は十分には行われていない.
波形モデリングに基づく火星内部構造の推定には,正確な震源位置を知る必要がある.しかし,火星には観測点が一つしかないため多くの火震の震源位置が不明瞭である.そこで,我々はクレーターを正確な震源位置のマーカーとして利用できる隕石衝突による火震イベントS1034aを検討対象とし,その波形の数値的な再現を試みた.
S1034aの波形には,P波やS波のオンセットが不明瞭であること,P波コーダが緩やかに増幅していく様子が見られること,高周波での散乱波が多いことなどの特徴があった.これらの特徴は,レゴリス層における短波長の不均質構造の影響が考えられる.また,震源が地表面であるにもかかわらず,表面波の振幅が小さいという特徴も見られた.このことから,浅部に表面波を減衰させる構造が存在すると考えられる.これらの観測記録の特徴を踏まえ,地震波伝播コードOpenSWPCによる数値シミュレーションを行い,S1034aの波形再現を試みた.既往研究の成層構造モデルにレゴリス層を模した短波長不均質を重畳した低速度層を深さ0-2 kmに加えた2次元P-SV波動場数値シミュレーションを行ったが,観測波形よりもコーダ波の減衰が早くなり,強いパルス的な表面波が生じた.
これらの相違を改善する新たなパラメタとして,より不均質なランダム媒質や強いQ値を導入した.ランダム媒質は表層の砂礫を再現するため不均質の特徴的スケールを10-650 mとした.またP波コーダの緩やかな振幅増幅を想定し,速度ゆらぎを0.06-0.1と強くした.メガレゴリス層のランダム媒質は既往研究の月でのパラメタを参考にした.Q値は地球上では地表に近づくにつれ極めて小さくなるが,地表付近での地震波の減衰を減らすため1-2桁大きいオーダーの値とした.またレゴリスやメガレゴリスの構造をより再現するためにグラジュアルな速度構造を導入した.これは表面波の振幅や,分散性の再現にも重要である.この一連の改善により,表面波を分散させ,パルス的な振幅を一定程度減衰させることができた.一方でコーダ波の振幅の持続時間は以前のモデルから長くなったが,依然として観測波形よりも短く,不明瞭なP波オンセット形状や,緩やかに増幅するP波コーダといった特徴もいまだ再現には至っていない.これは,レゴリス層の散乱が現状のモデルより強い,もしくはQ値がより高い可能性が示唆される.また,メガレゴリス層の散乱についても検討の余地がある.今後、より適切な散乱モデルの構築や3次元波動場シミュレーションを行い、より詳細な火震波形の再現を行うことで,火星の地殻構造や散乱特性の解明が進むことが期待される。