日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG45] Science of slow-to-fast earthquakes

2025年5月28日(水) 09:00 〜 10:30 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、中田 令子(東京大学大学院理学系研究科)、大久保 蔵馬(防災科学技術研究所)、座長:田中 愛幸(東京大学理学系研究科)、Manuel J. Aguilar-Velazquez(Department of Earth and Planetary Science - The University of Tokyo)

09:15 〜 09:30

[SCG45-38] 巨大地震震源域海溝沈み込み先端部のゆっくり滑りプロセスの理解に向けた観測の取り組み

*荒木 英一郎1氏家 恒太郎2杉岡 裕子4篠原 雅尚3塩原 肇3悪原 岳3有吉 慶介1利根川 貴志1伊藤 亜妃1、西田 周平1、横引 貴史1 (1.海洋研究開発機構、2.筑波大学、3.東京大学地震研究所、4.神戸大学)

キーワード:ゆっくり滑り、海底孔内観測、光ファイバセンシング、海溝軸近傍

南海トラフを始めとする沈み込む海洋プレートは、一定の深度帯においてプレート境界でseismogenic な挙動(プレート境界の固着)を示す。そこでの巨大地震滑りや、それに伴う津波の発生を考えると、プレート境界面での断層滑りメカニズムを理解することは社会的にも重要な課題である。より沈み込み浅部では、海洋プレートとともに導入される海底堆積物が南海トラフの広い地域で付加し、plastic な変形の中でthrustを形成するとともに、深部まで接続したプレート境界断層構造も形成している。そのような沈み込み先端部のプレート境界域はまた、巨大地震に伴って境界滑りを起こし、巨大津波の原因を生じているが、一方で、南海トラフ熊野灘で知られているように、ゆっくり滑りも繰り返し発生している。
このように浅部のプレート境界域の振る舞いは複雑にみえ、現在、十分に理解されているとは言えない。実際には巨大地震時の先端部のどこが断層滑りを起こしているのか?ゆっくり滑りは、実際には先端部プレート境界域のどこを滑らせているのか?そのような、ゆっくり滑りなどを生じさせている境界のレオロジーを支配しているものは何か?低周波微動や超低周波地震として知られているスロー地震とゆっくり滑りの関係は?これらの疑問点にこたえるためには、実際のところ現在よりももっと近接して、超広帯域のダイナミクスの観測が必要である。
 私たちは、そのような疑問に観測からアプローチが可能な場所として、DONETやIODP海底掘削孔内の観測が世界で最も稠密になされていることにより、他の沈みこみ海底と比べ最も現状把握が進んでいる熊野灘沈み込み先端部での観測実験を行いつつある。
 2016年4月には、陸よりのプレート境界で発生した三重県南東沖地震M6.1をきっかけとして熊野灘で比較的規模の大きいゆっくり滑りが生じ、それに伴って沈み込み先端部まで活発な低周波微動活動が発生し、先端部までのゆっくり滑りの伝播を示唆された。また、2020年12月から2021年1月にかけては、同地域でゆっくり滑りが観測され、沈み込み先端部で2018年から観測を開始したC0006孔内観測点などでの観測結果からは、ゆっくり滑りが沈み込み先端部まで到達したことが強く示唆された。このように、ここではゆっくり滑りとそれに伴うスロー地震活動が5年に一度程度の間隔で観測されている。
そこで、我々は、プレート境界先端部でのゆっくり滑りやスロー地震の実態を把握するために、次に数年以内に発生するであろうゆっくり滑り・スロー地震イベントの際に現場近傍に十分に稠密な観測網を展開・待ち受け観測を行うことによって、ゆっくり滑り・スロー地震が発生したプレート境界構造とその深さを同定し、さらに次のゆっくり滑りイベントの際には、ゆっくり滑りが発生すると判明した断層をあらかじめ地球深部探査船「ちきゅう」によって掘り抜き、光ファイバなどからなる稠密な観測装置を敷設・断層を縦断した観測網を構築することによって、スロースリップを生じる断層およびその周辺での滑り・変形とそこへの流体の関与を実観測することを構想している。
現時点では、これらの沈み込み先端部でスロー地震・ゆっくり滑りが発生している断層の深さが明らかでないことから、2024年9月には、C0006孔内観測点の直上とその周囲に約1.4~2km メッシュの海底広帯域地震計5台からなるアレイを展開した。これら海底広帯域地震計アレイ、DONET広帯域地震計アレイによる2年以上に渡る長期海底広帯域地震観測と孔内間隙水圧・傾斜、DONET等海底水圧観測による地殻変動観測を組み合わせることによって、次のイベントにおいて断層掘削可否を判断できる精度でのスロー地震の震源分布を明らかにする計画である。
また、並行して、掘削後敷設を行う掘削孔内観測システム開発の取り組みも行っている。光ファイバセンシングを用いて、歪・温度・水圧を分離して高空間解像度で観測できる海底光ファイバケーブルを開発し、相模湾で実証試験を行った(荒木他, JpGU, 2024)。2024年10月には、紀伊水道沖海底掘削孔内(C9038B)に固定した光ファイバで光ファイバセンシングが行えることを実証している。深部孔内での断層縦断観測のためには、今後、高温への対応、断層をまたぐ光ファイバの敷設固定、DONETなど海底ケーブル観測網に組み込み、光ファイバセンシングを長期間行うための技術開発などが必要となると考えている。
また、これらの取り組みを踏まえ、国際科学掘削計画IODP3への科学掘削提案を進めていく予定である。