13:45 〜 14:00
[SCG53-01] 海底熱水噴出孔における発電現象への熱電効果の寄与:天然サンプルの解析と水熱実験からの示唆

キーワード:海底熱水噴出孔、硫化物チムニー、鉱物置換反応、熱電変換性能
海底熱水サイトは中央海嶺や島弧・背弧域、リフト帯に分布し、マグマや海洋地殻に由来する硫黄や金属元素を含む熱水と海水との混合によりチムニー状やマウンド状の硫化鉱物構造体を形成する。熱水噴出孔では熱水-海水間の酸化還元電位差と硫化鉱物の導電性により深海底への電子供給が起きることが報告されており、硫化物チムニーを介した海水への電子供給プロセスの解明は海底生態系の成り立ちや生命の起源についての理解に重要である (Yamamoto et al., 2018)。一方でチムニーの鉱物組織を電子伝達のパスとして捉えた研究は存在せず、チムニー壁内での電子輸送過程については未知となっている。また、硫化鉱物は半導体特性を有し熱電効果を示すため、熱水系に恒常的に存在する熱エネルギーを酸化還元電位差に匹敵する電気ポテンシャルへと変換している可能性が示唆されている。しかし、チムニー構成鉱物の熱電変換性能を調査した研究は未だ存在しない。そこで本研究では、チムニーの発達過程とそれに伴う電気特性変化を実験的に調査し、海底熱水系における発電現象のメカニズムについて検討することを目指した。研究のアプローチとしてまず、研究航海KS-22-12、KS-24-3およびKS-24-14で採取されたチムニー試料の鉱物組織の観察とゼーベック係数S [mV K-1]、導電性σ [S cm-1]の測定を行った。さらに、硫化鉱物である閃亜鉛鉱 (ZnS)・黄鉄鉱 (FeS2)・方鉛鉱 (PbS) の単体に加えて、これらを含む複数の鉱物から構成されるチムニー試料を出発物として模擬熱水と反応させる水熱実験を実施し、チムニーの累帯構造発達過程に係る鉱物置換反応の再現を試みた。水熱実験の生成物表面についても、電気特性の測定を行うことで鉱物置換反応による発電性能変化を評価し、チムニーの累帯構造発達過程と発電現象との関係性の解明を目指した。
天然試料の解析の結果、硫化物チムニーは (i) 多孔質な重晶石および閃亜鉛鉱で構成される試料、(ii) 閃亜鉛鉱と球状の黄鉄鉱からなる試料、(iii) 閃亜鉛鉱・黄鉄鉱からなり熱水の通り道であった空隙周辺の組織が方鉛鉱・黄銅鉱で充填されている試料の三種に大別されることが分かった。それぞれがチムニー形成の初期・中期・後期段階に相当すると考えられる。導電性σ [S cm-1] は (i) および (ii) がそれぞれ10-12 [S cm-1] オーダーであるのに対して、(iii) の方鉛鉱部分は100 [S cm-1]であった。各試料のゼーベック係数S [mV K-1] を測定し、σおよびSをもとに熱起電力による発電性能の指標であるパワーファクターS2σ [mV2 K-1 S cm-1] を算出すると、(i) および (ii) に比べて、(iii) はパワーファクターが106オーダー程度大きく、累帯構造の発達および主要鉱石鉱物の変遷と熱起電力による発電現象の開始がリンクしている可能性が見出された。
水熱実験の実験条件は200℃および300℃で飽和蒸気圧であり、適宜NaCl (1 M) および還元剤としてNa2SO3 (1.1 M) を添加して、反応時間は12日間とした。閃亜鉛鉱・方鉛鉱を出発物として還元剤を添加しない条件では、Cu2+との反応により出発鉱物表面にCu2SとCuSの間で銅の価数が変化するCu-S系の被膜が形成された。一方で還元剤を添加した条件では、Cu-S系生成物とCuFeS2が形成された。黄鉄鉱を出発物に用いると結晶に亀裂が形成されて、生成鉱物の表面にはCu-S系、亀裂内部には黄銅鉱が形成されて系統的に変化した。黄鉄鉱内部への生成物の変化は、FeとCuの化学ポテンシャル勾配および酸素フガシティ勾配を反映していると考えられる。水熱実験の生成物についてS2 σ [mV2 K-1 S cm-1] を算出すると、チムニーの主要構成鉱物である閃亜鉛鉱がCu-S系硫化物およびCuFeS2で置換されることにより、S2 σは最大106オーダー増加するという結果が得られた。
天然試料の観察と水熱実験の結果を総合すると、以下の示唆が得られる。チムニーは、形成初期段階では重晶石と閃亜鉛鉱からなる導電性の低い組織から構成され、電子の移動が大きく制限されるために生じる熱起電力が小さい。一方で、鉱化作用・硫化鉱物の沈殿が進むと導電性の高いCu-S系硫化物や黄銅鉱、方鉛鉱などの緻密な層が低導電性の硫化鉱物上に形成される。その結果、熱水噴出孔の周縁部および内部から外部にかけて、パワーファクターS2 σの高い組織が網目状に形成され、電子輸送の橋渡しとして機能する。さらに、チムニー壁内に存在する温度勾配を熱起電力へと変換することで、電子の輸送を促している可能性が考えられる。
天然試料の解析の結果、硫化物チムニーは (i) 多孔質な重晶石および閃亜鉛鉱で構成される試料、(ii) 閃亜鉛鉱と球状の黄鉄鉱からなる試料、(iii) 閃亜鉛鉱・黄鉄鉱からなり熱水の通り道であった空隙周辺の組織が方鉛鉱・黄銅鉱で充填されている試料の三種に大別されることが分かった。それぞれがチムニー形成の初期・中期・後期段階に相当すると考えられる。導電性σ [S cm-1] は (i) および (ii) がそれぞれ10-12 [S cm-1] オーダーであるのに対して、(iii) の方鉛鉱部分は100 [S cm-1]であった。各試料のゼーベック係数S [mV K-1] を測定し、σおよびSをもとに熱起電力による発電性能の指標であるパワーファクターS2σ [mV2 K-1 S cm-1] を算出すると、(i) および (ii) に比べて、(iii) はパワーファクターが106オーダー程度大きく、累帯構造の発達および主要鉱石鉱物の変遷と熱起電力による発電現象の開始がリンクしている可能性が見出された。
水熱実験の実験条件は200℃および300℃で飽和蒸気圧であり、適宜NaCl (1 M) および還元剤としてNa2SO3 (1.1 M) を添加して、反応時間は12日間とした。閃亜鉛鉱・方鉛鉱を出発物として還元剤を添加しない条件では、Cu2+との反応により出発鉱物表面にCu2SとCuSの間で銅の価数が変化するCu-S系の被膜が形成された。一方で還元剤を添加した条件では、Cu-S系生成物とCuFeS2が形成された。黄鉄鉱を出発物に用いると結晶に亀裂が形成されて、生成鉱物の表面にはCu-S系、亀裂内部には黄銅鉱が形成されて系統的に変化した。黄鉄鉱内部への生成物の変化は、FeとCuの化学ポテンシャル勾配および酸素フガシティ勾配を反映していると考えられる。水熱実験の生成物についてS2 σ [mV2 K-1 S cm-1] を算出すると、チムニーの主要構成鉱物である閃亜鉛鉱がCu-S系硫化物およびCuFeS2で置換されることにより、S2 σは最大106オーダー増加するという結果が得られた。
天然試料の観察と水熱実験の結果を総合すると、以下の示唆が得られる。チムニーは、形成初期段階では重晶石と閃亜鉛鉱からなる導電性の低い組織から構成され、電子の移動が大きく制限されるために生じる熱起電力が小さい。一方で、鉱化作用・硫化鉱物の沈殿が進むと導電性の高いCu-S系硫化物や黄銅鉱、方鉛鉱などの緻密な層が低導電性の硫化鉱物上に形成される。その結果、熱水噴出孔の周縁部および内部から外部にかけて、パワーファクターS2 σの高い組織が網目状に形成され、電子輸送の橋渡しとして機能する。さらに、チムニー壁内に存在する温度勾配を熱起電力へと変換することで、電子の輸送を促している可能性が考えられる。