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[SCG53-08] タヒチ島産マントル捕獲岩中の多環芳香族化合物を含むメルト包有物:非生物的合成の証拠

キーワード:多環芳香族化合物、カンラン岩、有機物、ラマン分光分析、STXM/XANES、XnCT
地球のマントル内で生物が関与せずに有機物が合成されている可能性が1870年代より提案されてきた[1]。主に高温高圧実験や熱力学計算により、マントルの高温高圧環境下で無機物から有機物が合成可能なことや、低分子の有機物が重合し複雑な有機物を形成することが示されてきた[2]。重合の結果生じる有機物の特徴に関して、メタンを出発物質に用いた高温高圧実験では、比較的低分子の脂肪族炭化水素が報告されている一方で、一部の熱力学計算では、マントルのある領域で芳香族化合物を含むより複雑な有機物が合成される可能性が示されている[3]。マントル内部の温度圧力条件下で合成される有機物の特徴に関して、統一的な見解は確立されていない。
キンバライト中に含まれる一部の捕獲結晶からは、分光学的手法やガスクロマトグラフ質量分析を用いて、多環芳香族化合物(PAH)が報告されており、非生物的に合成されたと解釈される[4]。しかし、そのようなPAHの報告数は少なく、大半はキンバライトパイプ中の鉱物から報告されている。したがって、マントル内にこのようなPAHがどの程度分布しているか、また、それらの詳細な生成メカニズムについてはほとんどわかっていない。
本研究では、ホットスポット火山列に属するタヒチ島から採取されたマントル捕獲岩中からPAHを含有するメルト包有物を発見したため、その分析結果を報告する。まず、ホスト鉱物である単斜輝石の組成をFE-SEM-EDSを用いて定量し、同じ薄片試料中のほかの単斜輝石と比較した。また、集束イオンビーム加工装置(FIB)によりメルト包有物を内部に含むように数十μm大の試料を切り出し、放射光X線ナノCT(XnCT、SPring-8 BL47XU)、ラマン顕微分光法、全視野蛍光顕微鏡観察、走査透過型X線顕微鏡(STXM)によるX線吸収端近傍構造(XANES)解析(Photon Factory, BL-19A)を実施した。
FE-SEM-EDS分析の結果、PAHを含有するメルト包有物を含む単斜輝石粒子が、他の単斜輝石よりもTi、Alに乏しく、高いMg#を示すことがわかった。また、XnCTによる三次元観察により、包有物中に白金族鉱物、Fe-Ni-Cu硫化鉱物、ケイ酸塩ガラス、C-O-H相の4相が確認され、すべての包有物中にC-O-H相がみられた。ラマン分光分析、全視野蛍光顕微鏡観察、STXM-XANESによるC-O-H相の分析では、C-O-H相中にPAHが含まれることが示された。さらに、STXM-XANESでは、PAHに脂肪族鎖や官能基がほとんど含まれておらず、また、C-O-H相中でCOやCO2と共存していることが分かった。
PAHは包有物中からのみ検出されるため、実験室での汚染や生物活動により生成されたものではなく、マントル内で非生物的に合成されたものであると考えられる。ホストの単斜輝石の元素組成の特徴は、他の単斜輝石よりも深部で結晶化した可能性を示唆する[5]。また、マントルは深部ほど還元的であることが報告されており[6]、CO2よりも還元的なPAHやCOを含む今回の包有物は、スピネルカンラン岩の安定領域底部における還元環境でトラップされたと解釈できる。過去の高温高圧実験では、1-3 GPaの範囲で、圧力が炭化水素の芳香族化を促進することが示されており[7]、今回検出したPAHは、マントル内部の高温高圧環境により芳香族化した結果形成されたものであると考えられる。ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧実験では、メタンの重合の結果として主に低分子の脂肪族炭化水素が生成されることが報告されているが、今回の結果は、特定の温度圧力条件下で芳香族化が進行し、PAHが合成される可能性を示唆する。
[1] Wang et al. (2023), Acta Geologica Sinica - English Edition. [2] Kenney et al. (2002), Proceedings of the National Academy of Sciences. [3] Serovaiskii and Kutcherov (2020), Scientific Reports [4] Tomilenko et al. (2016), Doklady Earth Sciences. [5] Adam and Green (1994), Chemical Geology. [6] Frost and McCammon (2008), Annual Review of Earth and Planetary Sciences. [7] Wang et al. (2007), Science in China Series D: Earth Sciences.
キンバライト中に含まれる一部の捕獲結晶からは、分光学的手法やガスクロマトグラフ質量分析を用いて、多環芳香族化合物(PAH)が報告されており、非生物的に合成されたと解釈される[4]。しかし、そのようなPAHの報告数は少なく、大半はキンバライトパイプ中の鉱物から報告されている。したがって、マントル内にこのようなPAHがどの程度分布しているか、また、それらの詳細な生成メカニズムについてはほとんどわかっていない。
本研究では、ホットスポット火山列に属するタヒチ島から採取されたマントル捕獲岩中からPAHを含有するメルト包有物を発見したため、その分析結果を報告する。まず、ホスト鉱物である単斜輝石の組成をFE-SEM-EDSを用いて定量し、同じ薄片試料中のほかの単斜輝石と比較した。また、集束イオンビーム加工装置(FIB)によりメルト包有物を内部に含むように数十μm大の試料を切り出し、放射光X線ナノCT(XnCT、SPring-8 BL47XU)、ラマン顕微分光法、全視野蛍光顕微鏡観察、走査透過型X線顕微鏡(STXM)によるX線吸収端近傍構造(XANES)解析(Photon Factory, BL-19A)を実施した。
FE-SEM-EDS分析の結果、PAHを含有するメルト包有物を含む単斜輝石粒子が、他の単斜輝石よりもTi、Alに乏しく、高いMg#を示すことがわかった。また、XnCTによる三次元観察により、包有物中に白金族鉱物、Fe-Ni-Cu硫化鉱物、ケイ酸塩ガラス、C-O-H相の4相が確認され、すべての包有物中にC-O-H相がみられた。ラマン分光分析、全視野蛍光顕微鏡観察、STXM-XANESによるC-O-H相の分析では、C-O-H相中にPAHが含まれることが示された。さらに、STXM-XANESでは、PAHに脂肪族鎖や官能基がほとんど含まれておらず、また、C-O-H相中でCOやCO2と共存していることが分かった。
PAHは包有物中からのみ検出されるため、実験室での汚染や生物活動により生成されたものではなく、マントル内で非生物的に合成されたものであると考えられる。ホストの単斜輝石の元素組成の特徴は、他の単斜輝石よりも深部で結晶化した可能性を示唆する[5]。また、マントルは深部ほど還元的であることが報告されており[6]、CO2よりも還元的なPAHやCOを含む今回の包有物は、スピネルカンラン岩の安定領域底部における還元環境でトラップされたと解釈できる。過去の高温高圧実験では、1-3 GPaの範囲で、圧力が炭化水素の芳香族化を促進することが示されており[7]、今回検出したPAHは、マントル内部の高温高圧環境により芳香族化した結果形成されたものであると考えられる。ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧実験では、メタンの重合の結果として主に低分子の脂肪族炭化水素が生成されることが報告されているが、今回の結果は、特定の温度圧力条件下で芳香族化が進行し、PAHが合成される可能性を示唆する。
[1] Wang et al. (2023), Acta Geologica Sinica - English Edition. [2] Kenney et al. (2002), Proceedings of the National Academy of Sciences. [3] Serovaiskii and Kutcherov (2020), Scientific Reports [4] Tomilenko et al. (2016), Doklady Earth Sciences. [5] Adam and Green (1994), Chemical Geology. [6] Frost and McCammon (2008), Annual Review of Earth and Planetary Sciences. [7] Wang et al. (2007), Science in China Series D: Earth Sciences.