日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG53] 岩石・鉱物・資源

2025年5月28日(水) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:野崎 達生(早稲田大学 理工学術院 創造理工学研究科 地球・環境資源工学専攻)、西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)

17:15 〜 19:15

[SCG53-P09] 含水ザクロ石を含む超苦鉄質岩と蛇紋岩化作用の関連性:関東山地寄居地域の例

*瀬川 知希1田口 知樹2 (1.早稲田大学 理工学術院、2.早稲田大学 教育・総合科学学術院)


キーワード:蛇紋岩化作用、含水ザクロ石、岩石−流体相互作用、関東山地

超苦鉄質岩と流体の反応による蛇紋岩化作用は、流体の化学的性質に特異な変化を誘起し、沈み込み帯の元素挙動を理解する手掛かりとなる。関東山地寄居地域では、緑色岩メランジュ中にヒスイ輝石−石英岩および超苦鉄質岩類(単斜輝石岩や蛇紋岩など)が分布する(Hirajima, 1983)。最近、瀬川・田口(2024)は寄居ヒスイ輝石−石英岩の周縁部において、ヒスイ輝石−オンファス輝石の共生を含む反応縁(曹長岩化帯や藍閃石岩)を初めて見出し、その形成に交代作用が関与することを示した。寄居地域の岩石学的研究を進める過程において、含水ザクロ石(ハイドロアンドラダイト)を含む特異な超苦鉄質岩を新たに確認した。本研究ではこの超苦鉄質岩の岩石鉱物学的特徴を報告するとともに、その形成プロセスについて考察する。
 含ハイドロアンドラダイト超苦鉄質岩は、ヒスイ輝石−石英岩本体から南東方向約10 m離れた地点で小岩体として産する。鉱物組み合わせは、蛇紋石(アンチゴライト、リザーダイト、クリソタイル)、透輝石、ハイドロアンドラダイト、クリノクロア、磁鉄鉱、磁硫鉄鉱である。基質は粗粒な透輝石(>500 µm; Wo46–50En46–50Fs4–5)、分解組織を呈す細粒な透輝石(<100 µm)、プール状のアンチゴライトで主に構成される。粗粒と細粒どちらの透輝石も磁鉄鉱と共存しており、これら透輝石の一部を切るようにハイドロアンドラダイトが形成する。リザーダイトは透輝石-アンチゴライトや透輝石-ハイドロアンドラダイトの粒間を充填するほか、細粒な透輝石周囲を少量のクリノクロアとともに覆っているものもある。なお、クリソタイルは上記の基質鉱物組織(透輝石やハイドロアンドラダイト)を切って脈状に認められる。ハイドロアンドラダイトでは完全に消光しない複雑なドメイン構造が偏光顕微鏡観察により確認され、これは含水による光学異常と考えられる。ラマン分光分析によって、含水ザクロ石中のOH基伸縮振動に由来するラマンバンド(約3570 cm−1)も認められた。ハイドロアンドラダイトを対象にEPMA分析を行った結果、ほぼ純粋なアンドラダイト成分(And87–94Grs0–6Uv0–7)を示したが、粒子の最外縁部のみウバロバイト成分が僅かに増加することが分かった。蛇紋石多形の化学組成はXMg (= Mg/(Mg + Fe2+))の値がやや異なる。XMg値はそれぞれ、アンチゴライト:XMg = 0.89–0.95、リザーダイト:XMg = 0.92–0.97、クリソタイル:XMg = 0.97–0.99を示した。
 基質のアンチゴライトは、原岩(例えば単斜輝石岩)に含まれていたカンラン石の加水反応(比較的高温下の蛇紋岩化作用)によって形成された可能性がある。また、ハイドロアンドラダイトと透輝石の産状から、少なくともハイドロアンドラダイト形成以前には透輝石が存在していたと判断される。基質アンチゴライトの形成後、流体存在下における透輝石と磁鉄鉱間の反応(比較的低温下の蛇紋岩化作用)が進行することで、リザーダイトとハイドロアンドラダイトが生成したと解釈できる(Frost and Beard, 2007)。基質鉱物を切る脈状クリソタイルは高いXMg値で特徴づけられ、これは岩石風化に伴う亀裂発達後に浸透したMg2+–HCO3流体から析出したことを暗示する。本試料には多段階の流体流入を示唆する鉱物組織がよく保存されており、沈み込み帯における岩石-流体相互作用の実態解明にも貢献し得ると考えられる。

参考文献:
Hirajima (1983) J. Japan. Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 78, 77–83.
瀬川知希, 田口知樹 (2024) 日本地質学会第131年学術大会, T1-P-4.
Frost and Beard (2007) J. Petrol. 48, 7, 1351–1368.