日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 岩石―流体相互作用の新展開:表層から沈み込み帯深部まで

2025年5月30日(金) 10:45 〜 12:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京科学大学理学院地球惑星科学系)、座長:古川 美穂(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、平内 健一(静岡大学理学部地球科学科)

11:15 〜 11:30

[SCG54-09] 下部地殻斑れい岩とマントルかんらん岩の蛇紋岩化における対照的な水素発生の時間発展

*吉田 一貴1岡本 敦2大柳 良介3,4藤井 昌和5,6吉田 健太4、丹羽 尉博1,6、武市 泰男7、木村 正雄1,6 (1.高エネルギー加速器研究機構、2.東北大学、3.国士舘大学、4.海洋研究開発機構、5.国立極地研究所、6.総合研究大学院大学、7.大阪大学)

キーワード:蛇紋岩化反応、水素、オマーンオフィオライト、X線吸微細構造

蛇紋岩化反応における鉄含有鉱物中の二価鉄(Fe2+)の酸化と水の還元により発生する水素は、海底の微生物群のエネルギー源として重要な役割を果たしている(Kelley et al., 2005)。さらに、蛇紋岩化反応を含む地質学的プロセスによって生成された水素は、炭素を排出しない社会のための次世代のエネルギー資源として注目されている(Zgonnik et al., 2020)。マントルかんらん岩の蛇紋岩化による水素発生については数多くの研究が行われている一方で、かんらん石斑れい岩の蛇紋岩化についての研究は少なく、岩相の違いが蛇紋岩化による水素発生量に与える影響については、十分に理解されていない。本研究では、オマーンオフィオライトの下部地殻から上部マントルの試料を対象として、X線吸収微細構造解析(XAFS)によるFe3+/ΣFeを含む全岩化学組成分析、熱重量分析、磁気分析、二次元(2D)イメージングXAFSを行い、岩相の違いが水素発生量に与える影響を調査した。

本研究では、オマーン掘削プロジェクトのCM1AおよびCM2B地点から採取した下部地殻から上部マントルまでの連続掘削試料を使用した(Kelemen et al., 2020)。下部地殻を構成する斑れい岩のかんらん石は蛇紋石+マグネタイトまたは緑泥石に変化している。斜長石の変質が少ない試料ではマグネタイトの含有量が多く、斜長石の変質が進んでいる試料ではマグネタイトの含有量が少ない。ダナイトは完全に蛇紋岩化しており、岩石組織は後期のアンチゴライト+クリソタイル脈およびマグネタイト脈によって切断されている。ハルツバージャイトは60~90%のさまざまな程度で蛇紋岩化している。蛇紋岩化の進んだ試料には顕著なマグネタイト脈が観察された。全岩Fe3+/ΣFeは、深度による系統的な変化は見られず、主に岩相の違いによって異なる。ダナイトとハルツバージャイトのFe3+/ΣFeは0.5±0.1であるのに対し、斑れい岩ではFe3+/ΣFeは0.2±0.1と比較的低い値を示した。2DイメージングXAFSにより、各岩石組織における鉄の酸化還元状態の分布と反応中の岩石―水比(W/R)の変化が明らかになった。メッシュ組織のFe3+/ΣFeは岩相に関係なく0.3~0.5であった。ダナイトおよびハルツバージャイトにみられたメッシュ組織を切断するマグネタイト脈周辺の蛇紋石は、Fe3+/ΣFe=0.5~0.6と比較的高い値を示した。これらの観察結果は、メッシュ組織を伴う初期ステージの蛇紋岩化がW/Rが低く還元的な条件で進行し、その後、W/Rが高く酸化的な条件で後期のマグネタイト脈が形成したことを示唆している。

マスバランス計算に基づいて、(i) メッシュ組織を伴う初期の蛇紋岩化、(ii) 後期のマグネタイト脈の形成、(iii) ブルーサイトの酸化、それぞれのステージで生成される水素の量を推定した。初期の蛇紋岩化の段階では、生成される水素の最大量は、斑れい岩では岩石1kgあたり9~314 mM H2/kgrock、ダナイトでは159~268 mM H2/kgrock、ハルツバージャイトでは132~244 mM H2/kgrockと推定された。ダナイトおよびハルツバージャイトの後期マグネタイト脈は、36-220 mM H2/kgrockの水素を追加で生成した可能性がある。さらに、破砕に伴うW/Rの増加によって、ブルーサイトの鉄を使ってマグネタイトが生成する可能性がある(Ellison et al., 2021)。ブルーサイトに含まれる二価の鉄がすべてマグネタイトに変化すると仮定すると、ブルーサイトを含むダナイトおよびハルツバージャイトにおいて、最大12-73 mM H2/kgrockの水素を生成する可能性がある。斑れい岩は、反応初期のかんらん石を消費する蛇紋岩化が優勢の段階ではかなりの量の水素発生の可能性があるが、反応後期では斜長石の分解によるシリカの供給によりマグネタイトの生成が抑制され、水素発生量は減少する。その一方で、ダナイトおよびハルツバージャイトでは、反応後期におけるW/Rの上昇とマグネタイトの形成によってさらに水素を発生させる。これらの結果は、下部地殻斑れい岩とマントルかんらん岩における対照的な水素生成量の時間発展を示唆している。