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[SCG54-15] 前弧域の温泉水のLi同位体比が示す東北日本と西南日本のスラブ脱水様式の違い
海溝を通じて沈み込む海洋プレートは, 沈み込みが深くなるにつれて温度や圧力が上昇し, 脱水が進行する。東北日本で沈み込む太平洋プレートは1.3億年前に海嶺で形成されたのに対し,西南日本下に沈み込むフィリピン海プレートは2千年前に形成されたため若く熱い。そのため海溝から火山前線の間の前弧域下で,東北日本に比べて西南日本では脱水が進行していることが予測される(片山, 2010)1。西尾(2020)2では同じ前弧域でも東北日本に比べて, 西南日本(九州を除く)の温泉数が多いことは,西南日本下に沈み込む若くて熱いフィリピン海プレートの方が古く冷たい太平洋プレートに比べて脱水が進行した結果である可能性を述べた。しかし,実際に東北日本の前弧域に比べ, 西南日本の前弧域にスラブ起源流体が多く含まれる地球化学的証拠についてはこれまで報告されていなかった。
最も軽いアルカリ金属元素であるリチウム(Li)の同位体比は,謎が多い深部流体の強力な調査研究ツールとして注目されている。Liは水と堆積物が共存する系において,温度上昇と共に水に分配されるLi量が急速に増加する。その後冷却しても水のLi量はほぼ変化しない(You et al.,1996)3。その結果,低温しか経験していない地表水に比べて,かつて高温を経験した深部流体はLiに富むため,高Li濃度の深部流体が上昇する際に低Li濃度の地表水が混入しても他の元素指標に比べてLi指標は影響が少ない(西尾,2020)2。加えて,Liの安定同位体比である7Li/6Li比は流体が経験した地球化学温度計となる。このように深部流体の強力な深部流体の指標であるが,比較的簡便に7Li/6Li比を測定できるマルチコレクターICP質量分析装置の普及が2000年以降であったため,温泉水のデータなどの報告は限られていた。特に,東北日本の前弧域の温泉水の7Li/6Li比のデータはこれまで報告されていなかった。
そこで,本研究では青森県と岩手県や北海道を中心に東北日本の前弧域の温泉水を含む湧水を採水分析し,既に報告されている三重県や岡山県といった西南日本前弧域の温泉水と比較した。その結果, 同じ前弧域でも東北日本の湧水は西南日本の湧水に比べ, より高いCl/Li比と高い7Li/6Li比を示すことが明らかとなった。この結果は,プレート年代から予測されていたように,西南日本に比べて東北日本は前弧域で上昇するスラブ起源流体が乏しいことと整合的である。
1) 片山郁夫, 平内健一, 中島淳一, 2010. 日本列島下での沈み込みプロセスの多様性. 地学雑誌 119, 205-223.
2) 西尾嘉朗 非伝統的地熱流体科学,4次元統合黒潮圏資源学(佐野有司・徳山英一監修)中島出版 (2022)p40-51.
3) You, C.-F., Castillo, P.R., Gieskes, J.M., Chan, L.H., Spivack, A.J., Trace element behavior in hydrothermal experiments: Implications for fluid processes at shallow depths in subduction zones. Earth Planet. Sci. Lett. 140 (1996) 41-52.
最も軽いアルカリ金属元素であるリチウム(Li)の同位体比は,謎が多い深部流体の強力な調査研究ツールとして注目されている。Liは水と堆積物が共存する系において,温度上昇と共に水に分配されるLi量が急速に増加する。その後冷却しても水のLi量はほぼ変化しない(You et al.,1996)3。その結果,低温しか経験していない地表水に比べて,かつて高温を経験した深部流体はLiに富むため,高Li濃度の深部流体が上昇する際に低Li濃度の地表水が混入しても他の元素指標に比べてLi指標は影響が少ない(西尾,2020)2。加えて,Liの安定同位体比である7Li/6Li比は流体が経験した地球化学温度計となる。このように深部流体の強力な深部流体の指標であるが,比較的簡便に7Li/6Li比を測定できるマルチコレクターICP質量分析装置の普及が2000年以降であったため,温泉水のデータなどの報告は限られていた。特に,東北日本の前弧域の温泉水の7Li/6Li比のデータはこれまで報告されていなかった。
そこで,本研究では青森県と岩手県や北海道を中心に東北日本の前弧域の温泉水を含む湧水を採水分析し,既に報告されている三重県や岡山県といった西南日本前弧域の温泉水と比較した。その結果, 同じ前弧域でも東北日本の湧水は西南日本の湧水に比べ, より高いCl/Li比と高い7Li/6Li比を示すことが明らかとなった。この結果は,プレート年代から予測されていたように,西南日本に比べて東北日本は前弧域で上昇するスラブ起源流体が乏しいことと整合的である。
1) 片山郁夫, 平内健一, 中島淳一, 2010. 日本列島下での沈み込みプロセスの多様性. 地学雑誌 119, 205-223.
2) 西尾嘉朗 非伝統的地熱流体科学,4次元統合黒潮圏資源学(佐野有司・徳山英一監修)中島出版 (2022)p40-51.
3) You, C.-F., Castillo, P.R., Gieskes, J.M., Chan, L.H., Spivack, A.J., Trace element behavior in hydrothermal experiments: Implications for fluid processes at shallow depths in subduction zones. Earth Planet. Sci. Lett. 140 (1996) 41-52.