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[SCG54-P07] 愛媛県芸予諸島伯方島おけるエピ閃長岩形成年代

キーワード:エピ閃長岩、花崗岩、エピ閃長岩化作用、Rb-Sr全岩アイソクロン年代、石英溶脱、伯方島
1.はじめに
エピ閃長岩は,サブソリダス条件下で,花崗岩類とアルカリ成分に富む流体との相互作用によって形成される,石英に乏しく,アルカリ長石に富む岩石である (Suikkanen and Ramo, 2019).その形成時には,原岩の花崗岩類に含まれる石英の溶脱とそれに伴う空隙の形成, 長石類のアルカリ長石化が主たる反応として進行する.このようなエピ閃長岩を形成するプロセスは,特に石英の溶脱に着目して「エピ閃長岩化作用」と呼ばれる (Suikkanen and Ramo, 2019).エピ閃長岩は,大陸地殻の主要構成岩石である花崗岩類と流体との相互作用の産物であることから,その形成過程を明らかにすることは,大陸地殻での岩石―水相互作用による物質循環や反応過程を解明する上で重要である.愛媛県伯方島最北端のトウビョウ鼻では,花崗岩類に伴って,2種類のエピ閃長岩が露出している.本研究では,これらのエピ閃長岩について野外産状・岩石記載,全岩化学組成分析,希土類元素(以下, REE)組成分析をおこない,その特徴を明らかにする.また,Rb-Sr全岩アイソクロン年代を算出し,エピ閃長岩化作用が起きたタイミングを議論する.
2.野外産状・岩石記載
当地域のエピ閃長岩は,色調の違いにより真珠色エピ閃長岩と牡蠣色エピ閃長岩に区分される.これら2種類のエピ閃長岩は,花崗岩類に伴って局所的に産出し,いずれも花崗岩類から岩相が数cmスケールで漸移的に変化する. 真珠色エピ閃長岩は露頭中に空隙が顕著に認められることで特徴づけられる.主な構成鉱物はアルカリ長石および柘榴石であり,そのほか少量の単斜輝石・チタン石および二次的な石英が認められる.有色鉱物が少なく,色指数が0.8–6.0の優白質な岩石であり,有色鉱物は空隙を埋めるように晶出している. アルカリ長石はパーサイトおよびメソパーサイト組織を呈している.また,柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有する組織が一部に認められる.一方,牡蠣色エピ閃長岩は露頭では顕著な空隙が認められないが,薄片観察からは粒状集合組織を示す有色鉱物の集合体中に微細な空隙が認められる.主な構成鉱物はアルカリ長石および単斜輝石であり,そのほか少量の柘榴石,チタン石,ジルコン,燐灰石,褐簾石,磁鉄鉱および二次的な石英が認められる.色指数は8.0–16.3と真珠色エピ閃長岩より高い.アルカリ長石はパーサイトおよびメソパーサイト組織を呈している.単斜輝石と柘榴石は粒状集合組織を呈している.また一部では,単斜輝石,磁鉄鉱およびチタン石に伴う,角閃石および黒雲母の残存結晶が認められる.
3.全岩化学組成分析・REE組成分析
エピ閃長岩は,ハーカー図において花崗岩類とは異なる組成範囲を示し,特にSiO2含有量が花崗岩類より低く,Al2O3含有量が高い.また,2種類のエピ閃長岩を比較すると,Al2O3含有量は牡蠣色エピ閃長岩より真珠色エピ閃長岩の方が高いのに対して,FeO(total), MgO, CaO, Sr, Zr, Ba含有量は真珠色エピ閃長岩よりも牡蠣色エピ閃長岩の方が高い.また,REE含有量は母岩の花崗岩よりも真珠色エピ閃長岩は低く,牡蠣色エピ閃長岩は高い.
4.Rb-Sr全岩アイソクロン年代
真珠色エピ閃長岩4試料と牡蠣色エピ閃長岩5試料の全岩化学組成分析およびSr同位体組成分析の結果を用いて,Rb-Sr全岩アイソクロン年代を算出した.その結果,82.7 ± 3.2 Maの年代値が得られた.なお,算出はIsoplot Rによっておこなった.
5.議論
当地域のエピ閃長岩はアルカリ長石を主体とした岩石であり,他の構成鉱物は単斜輝石や柘榴石といったNa,Kをほとんど含まない鉱物であることから,エピ閃長岩中のNa,Kの多くはアルカリ長石に含まれると考えられる.また,RbはNa,Kと同じアルカリ金属元素であり,類似した元素挙動を示すことから,エピ閃長岩形成時にRbのホストとなった鉱物もアルカリ長石である可能性が高い.よって,エピ閃長岩から得られたRb-Sr全岩アイソクロン年代 (82.7 ± 3.2 Ma) は,エピ閃長岩化作用に伴う長石類のアルカリ長石化のタイミングを反映していると考えられる.また,Imaoka et al. (2024) では,伯方島に隣接する岩城島に産する花崗岩について93.5 ± 1.7 ~ 91.5 ± 1.9 MaのジルコンU-Pb年代が報告されている.伯方島の花崗岩類についても同様の形成年代を仮定すると,本研究地域では花崗岩類の形成(約94〜92 Ma)からエピ閃長岩化作用(約83 Ma)までにはおよそ10 m.y.程度の時間間隙があったと考えられる.一方,岩城島に産するエピ閃長岩からは,エピ閃長岩化作用により生じた空隙を充填しながら晶出した片山石について91.5 ± 0.26 MaのAr-Ar年代が報告されており(Imaoka et al., 2024),両者の年代値に差異が認められる.従って,伯方島のエピ閃長岩形成は岩城島のエピ閃長岩形成とは独立したタイミングで起きたものと考えられる.
引用文献:Imaoka et al., 2024, Minerals, 14, 929; Suikkanen and Ramo, 2019, Min. Metall. Explor., 36, 861–878.
エピ閃長岩は,サブソリダス条件下で,花崗岩類とアルカリ成分に富む流体との相互作用によって形成される,石英に乏しく,アルカリ長石に富む岩石である (Suikkanen and Ramo, 2019).その形成時には,原岩の花崗岩類に含まれる石英の溶脱とそれに伴う空隙の形成, 長石類のアルカリ長石化が主たる反応として進行する.このようなエピ閃長岩を形成するプロセスは,特に石英の溶脱に着目して「エピ閃長岩化作用」と呼ばれる (Suikkanen and Ramo, 2019).エピ閃長岩は,大陸地殻の主要構成岩石である花崗岩類と流体との相互作用の産物であることから,その形成過程を明らかにすることは,大陸地殻での岩石―水相互作用による物質循環や反応過程を解明する上で重要である.愛媛県伯方島最北端のトウビョウ鼻では,花崗岩類に伴って,2種類のエピ閃長岩が露出している.本研究では,これらのエピ閃長岩について野外産状・岩石記載,全岩化学組成分析,希土類元素(以下, REE)組成分析をおこない,その特徴を明らかにする.また,Rb-Sr全岩アイソクロン年代を算出し,エピ閃長岩化作用が起きたタイミングを議論する.
2.野外産状・岩石記載
当地域のエピ閃長岩は,色調の違いにより真珠色エピ閃長岩と牡蠣色エピ閃長岩に区分される.これら2種類のエピ閃長岩は,花崗岩類に伴って局所的に産出し,いずれも花崗岩類から岩相が数cmスケールで漸移的に変化する. 真珠色エピ閃長岩は露頭中に空隙が顕著に認められることで特徴づけられる.主な構成鉱物はアルカリ長石および柘榴石であり,そのほか少量の単斜輝石・チタン石および二次的な石英が認められる.有色鉱物が少なく,色指数が0.8–6.0の優白質な岩石であり,有色鉱物は空隙を埋めるように晶出している. アルカリ長石はパーサイトおよびメソパーサイト組織を呈している.また,柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有する組織が一部に認められる.一方,牡蠣色エピ閃長岩は露頭では顕著な空隙が認められないが,薄片観察からは粒状集合組織を示す有色鉱物の集合体中に微細な空隙が認められる.主な構成鉱物はアルカリ長石および単斜輝石であり,そのほか少量の柘榴石,チタン石,ジルコン,燐灰石,褐簾石,磁鉄鉱および二次的な石英が認められる.色指数は8.0–16.3と真珠色エピ閃長岩より高い.アルカリ長石はパーサイトおよびメソパーサイト組織を呈している.単斜輝石と柘榴石は粒状集合組織を呈している.また一部では,単斜輝石,磁鉄鉱およびチタン石に伴う,角閃石および黒雲母の残存結晶が認められる.
3.全岩化学組成分析・REE組成分析
エピ閃長岩は,ハーカー図において花崗岩類とは異なる組成範囲を示し,特にSiO2含有量が花崗岩類より低く,Al2O3含有量が高い.また,2種類のエピ閃長岩を比較すると,Al2O3含有量は牡蠣色エピ閃長岩より真珠色エピ閃長岩の方が高いのに対して,FeO(total), MgO, CaO, Sr, Zr, Ba含有量は真珠色エピ閃長岩よりも牡蠣色エピ閃長岩の方が高い.また,REE含有量は母岩の花崗岩よりも真珠色エピ閃長岩は低く,牡蠣色エピ閃長岩は高い.
4.Rb-Sr全岩アイソクロン年代
真珠色エピ閃長岩4試料と牡蠣色エピ閃長岩5試料の全岩化学組成分析およびSr同位体組成分析の結果を用いて,Rb-Sr全岩アイソクロン年代を算出した.その結果,82.7 ± 3.2 Maの年代値が得られた.なお,算出はIsoplot Rによっておこなった.
5.議論
当地域のエピ閃長岩はアルカリ長石を主体とした岩石であり,他の構成鉱物は単斜輝石や柘榴石といったNa,Kをほとんど含まない鉱物であることから,エピ閃長岩中のNa,Kの多くはアルカリ長石に含まれると考えられる.また,RbはNa,Kと同じアルカリ金属元素であり,類似した元素挙動を示すことから,エピ閃長岩形成時にRbのホストとなった鉱物もアルカリ長石である可能性が高い.よって,エピ閃長岩から得られたRb-Sr全岩アイソクロン年代 (82.7 ± 3.2 Ma) は,エピ閃長岩化作用に伴う長石類のアルカリ長石化のタイミングを反映していると考えられる.また,Imaoka et al. (2024) では,伯方島に隣接する岩城島に産する花崗岩について93.5 ± 1.7 ~ 91.5 ± 1.9 MaのジルコンU-Pb年代が報告されている.伯方島の花崗岩類についても同様の形成年代を仮定すると,本研究地域では花崗岩類の形成(約94〜92 Ma)からエピ閃長岩化作用(約83 Ma)までにはおよそ10 m.y.程度の時間間隙があったと考えられる.一方,岩城島に産するエピ閃長岩からは,エピ閃長岩化作用により生じた空隙を充填しながら晶出した片山石について91.5 ± 0.26 MaのAr-Ar年代が報告されており(Imaoka et al., 2024),両者の年代値に差異が認められる.従って,伯方島のエピ閃長岩形成は岩城島のエピ閃長岩形成とは独立したタイミングで起きたものと考えられる.
引用文献:Imaoka et al., 2024, Minerals, 14, 929; Suikkanen and Ramo, 2019, Min. Metall. Explor., 36, 861–878.