日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 海洋底地球科学

2025年5月27日(火) 13:45 〜 15:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、藤井 昌和(国立極地研究所 / 総合研究大学院大学)、尾張 聡子(東京海洋大学)、山本 揚二朗(海洋研究開発機構)、座長:安川 和孝(東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター)、見邨 和英(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)


13:45 〜 14:00

[SCG55-01] 北西太平洋シャツキー海台における遠洋性堆積物から海洋への間隙水を介したレアアース流出フラックスの推定

*伊藤 陽生1安川 和孝1田中 えりか2飯島 耕一3黒田 潤一郎4桑原 佑典1,5中村 謙太郎1,5加藤 泰浩1,5 (1.東京大学大学院工学系研究科、2.高知大学海洋コア国際研究所、3.海洋研究開発機構、4.東京大学大気海洋研究所、5.千葉工業大学次世代海洋資源研究センター)


キーワード:遠洋性堆積物、間隙水、レアアース、シャツキー海台

カーボンニュートラルの実現に向けた動きが世界的に強まる中,低炭素技術に不可欠なレアアース (rare-earth elements, REE) に富む深海堆積物「レアアース泥」が注目されている (Kato et al., 2011).深海底に広く分布するレアアース泥について,有望な開発対象海域を絞り込むためには,レアアース泥の成因を解明することが重要である.そのために,これまでに様々なアプローチがなされてきた.
Yasukawa et al. (2016) は,レアアース泥中のREEが海水由来であることを示し,海水から海底に沈積するREEのフラックス計算から,レアアース泥の生成にはバルク堆積速度が十分に小さいことが必要であることを示した.Matsunami et al. (2024) は,海洋-堆積物間のNd質量収支モデルを構築してこの検討を発展させ,レアアース泥の品位に関係しうる環境因子の感度分析を行った.その結果,堆積速度に加えて,大陸縁辺域の海底堆積物から海洋へのNd流出フラックスがレアアース泥の品位に大きく影響することを示した.
しかしながら,遠洋域における堆積物から海洋へのREE流出フラックスの実態は,先行研究が少なく未だ十分に明らかとなっていない.そこで本研究では,KH-24-1航海 (2024年4月2日〜19日,首席研究者:田中えりか) によって北西太平洋シャツキー海台タム山塊の南西斜面で採取された3本のマルチプルコア試料 (MC01〜03) を用いて,堆積物および間隙水の化学組成分析を実施した.各コアの主要な岩相は,MC01 (水深3,890 m) が石灰質軟泥,MC02 (水深4,352 m) およびMC03 (水深5,673 m) が遠洋性粘土であった.間隙水は,ライゾンサンプラーを用いて船上で採取された.堆積物は,間隙水採取後に船上で1-2 cm ごとに採取された.堆積物の全岩化学組成分析にはXRFおよびICP-MS,間隙水の主要・微量元素組成にはICP-MSをそれぞれ用いた.
分析の結果,平均的な頁岩 (PAAS) で規格化した各コアの間隙水のREE組成にはLaとYの正異常,Ceの負異常がみられ,LREEに比べHREEに富んでおり,全体として酸化的な海水に近い特徴を示した.また,海底面からの深度が大きくなるにつれて間隙水のCe負異常は小さくなる傾向がみられた.水深の最も大きいMC03では,他の2本のコアと比べて,コア深部ほど間隙水のREE濃度が高くなる傾向が顕著であった.
本研究で得られた間隙水中のREE濃度を用いて,堆積物から海洋へのREE流出フラックスを,物質の拡散に関するフィックの第1法則に基づき推定した.その結果,シャツキー海台堆積物からのREE溶出フラックスは,Abbott et al. (2015) により報告された北米太平洋岸の大陸縁辺域からのREE溶出フラックスに比べて2-3桁小さい値となった.本研究でのフラックス推定値はMC01 < MC02 < MC03となったことから,石灰質軟泥よりも遠洋性粘土の方が,堆積物から海洋へ流出するREEのフラックスは大きくなる傾向が示唆される.また,本研究の結果は,レアアース泥の生成を含む海洋-堆積物間のREE収支には大陸縁辺域の堆積物からのREE流出フラックスの寄与が大きいという先行研究の議論 (Matsunami et al., 2024) を支持する.今後,レアアース泥の成因を海洋-堆積物間の相互作用を含めてより詳細に検討するために,さらなる観測データの蓄積が必要である.

References:
Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.
Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.
Matsunami et al. (2024) Ore Geology Reviews 175, 106338.
Abbott et al. (2015) Geochimica et Cosmochimica Acta 154, 186-200.