日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 海洋底地球科学

2025年5月28日(水) 13:45 〜 15:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、藤井 昌和(国立極地研究所 / 総合研究大学院大学)、尾張 聡子(東京海洋大学)、山本 揚二朗(海洋研究開発機構)、座長:日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)、熊 衎昕(国立研究開発法人海洋研究開発機構)


14:30 〜 14:45

[SCG55-27] 巨大地震の裏側~巨大化させないメカニズム

*日野 亮太1内田 直希1,2篠原 雅尚2伊藤 喜宏3飯沼 卓史4中村 恭之4金松 敏也4池原 研5中田 令子6 (1.東北大学大学院理学研究科、2.東京大学地震研究所、3.京都大学防災研究所、4.海洋研究開発機構、5.産業技術総合研究所、6.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震、日本海溝、海底観測・探査、深海古地震学、地震サイクルシミュレーション

2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)(以下「東北沖地震」)は,その規模の大きさだけでなく,それまで地震時に高速で大変位のすべりを起こさないと信じられてきたプレート境界最浅部にまで地震の破壊が及んだ,という点で注目された.我々は,プレート境界浅部のすべり(Slip to the trench: STT)がこの地震が巨大化する上で重要な役割を果たしたと考え,地震発生直後からプレート境界浅部すべりの現場となった日本海溝沿いの深海での調査観測を実施してきた.その結果,2011年と同規模のSTTは日本海溝中部だけで繰り返し発生していたことが明らかとなった.東北沖地震後に顕著な余効すべりがみられた南部では,そうしたすべり特性により大規模STTの発生が抑制されていると考えられるが,STTによる津波地震と考えられる1896 年明治三陸地震が発生した北部で,中部に匹敵する規模のすべりの痕跡が見つからなかったのはなぜか?我々はこの疑問に答えることを目的として,日本海溝北部を対象とした重点的な調査観測を基にした研究を2019~2023年の間に実施してきた.ここでは,その成果を報告する.
この海域では,東北沖地震発生以前に数年程度の周期でスロースリップイベント(SSE)が繰り返し発生してきたことが,小繰り返し地震の活動の時間変化にもとづいて示されている.本研究開始直前の2015年に大規模なSSEがあったことが知られていたが, 2019年に小規模なものが発生したことが検知された.一方で,このSSEの発生期間中に行っていた稠密海底地震観測からはテクトニック微動活動が海溝軸に近い範囲にまで拡大しなかったこと,海溝軸をまたぐ海底間音響測距観測から有意な基線長短縮が観測されなかったことから,SSEによるすべりは明治三陸地震の際にSSTが発生したと考えられる海溝軸近傍にまでは到達せず,すべりの範囲が深部側にとどまっている可能性が示された.海溝軸に近いプレート境界浅部では,プレート間相対運動は繰り返し発生するSSEでは賄うことができないために,すべり欠損が蓄積し,やがて明治三陸地震のような地震で解消されるのであろう.
これと並行して,明治三陸地震タイプの地震の発生履歴を解明するための海底堆積物調査を実施し,日本海溝北部では2011年東北沖地震より小規模なイベントがより高い頻度で起こっていたことが,海溝下部陸側斜面の平坦面で得られた堆積物コアの分析から明らかとなった.表層のコアからは明治三陸沖地震に対応するイベント堆積物が見出され,より深部から回収された試料には同程度の規模の地震の痕跡が複数発見された.それらの堆積年代を古地磁気に基づく測定により推定した結果,100年に1回程度の頻度で大地震が繰り返し発生してきたことが明らかになった.解析対象となったイベント堆積層の成因は強震動による表層堆積物の移動・再堆積と考えられるが,強震動の起源は明治三陸地震タイプのSTTを伴う地震以外にも,アウターライズを震源とするものも含めた他の近地大地震が混在しうることから,実際のSTTの発生頻度はこれよりは少し低いかもしれない.
日本海溝中部では,深部側での強い固着により支えられたプレート境界浅部でのすべり欠損がまれに解消されることでSTTが大規模化したと考えられる.北部でもSTTですべり欠損の蓄積が期待されることから,その解消のきっかけとなる深部側での破壊の頻度が高いことがSTTの規模を制約していると考えられる.STTを発動させる深部側破壊の頻度が中部に比べて高いことは,北部でSSEが繰り返し発生することと関係があると思われ,このことを地震発生サイクルシミュレーションを通して検証していきたい.