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[SCG55-P28] GNSS音響観測と海洋モデルによって得られる海中音速場の定量的な比較
キーワード:GNSS-A測位、海洋モデル
GNSS音響(GNSS-A)測位は海底測地観測の手法の一つであり,沈み込み帯プレート境界での固着・すべりをはじめとした現象による海底地殻変動が計測されてきている.GNSS-A 測位は,海上局(海上プラットフォーム)でのGNSS測位と海上局・海底局(海底に設置した音響トランスポンダ)間の海中音響測距を組み合わせることで海底局アレイの変位を検出する.音響測距では,仮定する海中音速構造が測位に大きな影響を与える.近年のGNSS-A測位手法では,海中音速場を水平成層構造と多層勾配構造の重ね合わせで表現し,海底局アレイ変位とそれぞれの音速場を規定するパラメータを同時推定する(例えば,Tomita and Kido, 2024).しかし,多層勾配構造のパラメータ推定には海上局の測線に沿って綿密に航走させる必要があり,近年用いられているWave Gliderなどの航行能力の低い海上局では音速勾配の推定が難しい場合がある.そのため,GNSS-A観測データとは独立した外部情報によって音速勾配を拘束する必要が出てきた.近年発展を遂げている種々の海洋モデルは海中音速場の計算に必要な温度・塩分場を提供しており,音速勾配を拘束できる可能性がある.本研究では,GNSS-A 測位における海洋モデルの適用可能性を検討した. 本研究では,海洋モデルとして海洋研究開発機構と気象研究所によってそれぞれ提供されているJCOPE2M(Miyazawa et al., 2017; 2019)とMRI.COM (辻野・他,2015; 坂本・他,2018)を用いる.Tomita and Kido(2024)のGNSS-A測位手法では,多層音速勾配構造を時間的に不変なスローネス勾配プロファイルで表現している.音響測距では深さ方向の音速変化への感度がないため,スローネス勾配プロファイルの深さ方向の積分値(走時の遅延量に相当)を未知パラメータとして推定している.そのため,海洋モデルからGNSS-A観測点近傍でのスローネス勾配プロファイルを計算すればGNSS-A測位による推定値と定量的な比較が可能である.本研究では,各海洋モデルの水平グリッドにおける水温・塩分プロファイルから音速プロファイルを求め,GNSS-A観測点近傍の隣接する複数のグリッドからスローネス勾配プロファイルを計算した.まず,海洋モデルから計算されるスローネス勾配プロファイルの特徴を把握するため,4つのGNSS-A観測点(茨城県沖のCHOS・G19観測点,岩手県沖のKAMN・G04観測点)における2013– 2019年のランダムな500日のスローネス勾配プロファイルを計算した.その結果,両モデルともどの観測点でも水深1500 m以深では顕著な勾配は存在しないこと,茨城県沖の2観測点では浅部(水深: ~0–800 m)で黒潮続流によると考えられる勾配が常に存在していることを示した.次に,海洋モデルから計算されたスローネス勾配プロファイルを積分し, GNSS-A 測位から推定された勾配パラメータとの比較を行った.ここでは,海上保安庁によって音速勾配の推定に適した観測データが取得されているCHOS・KAMN観測点(Watanabe et al., 2021a)のみ用いた.その結果,CHOS での両海洋モデルによる計算値は,GNSS-A測位による推定値と整合的な勾配方向を示した.これは,茨城沖では海洋モデルの水平分解能(JCOPE2M: ~9 km, MRI.COM: ~3 km)より長波長の空間不均質の影響が卓越し,海洋モデルでよく再現されているためと考えられる.一方で,CHOSでの勾配の強度は,海洋モデルの計算値と GNSS-A 測位の推定値で乖離が見られた.また,KAMNでは勾配方向・強度ともに整合的ではなかった.これらは,海洋モデルでは再現できない短波長の空間不均質(水平分解能 ~2–3 km以下)や海洋モデルの分解能の不十分性による不均質強度低下の影響を示唆している.最後に,勾配パラメータを海洋モデルの計算値で固定した場合の海底局アレイ変位(海洋モデル解)を計算した.GNSS-A測位で勾配を推定した場合の解が真値であると仮定して,GNSS-A測位で水平成層構造のみを仮定して求めた解(勾配ゼロ解)と比較した.その結果,CHOSではどちらの海洋モデルを用いた場合でも,勾配ゼロ解よりも推定確度が有意に向上したが,KAMNでは有意な推定確度の向上は得られなかった.本研究により,長波長の空間不均質が卓越する観測点では海洋モデルによって勾配パラメータを拘束できる可能性を示した.しかし,短波長の空間不均質の影響や海洋モデルの分解能の十分性は今回の検証のみでは議論が難しく,今後より高解像度の海洋モデルや他の観測点のデータを用いた評価が必要である.
