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[SCG56-P03] 琵琶湖深部湖底からの湧水・ガスの生成機構と湖底環境への影響
キーワード:琵琶湖、湖底湧水、環境、メタン
1 はじめに
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて,2019年~2020年と2020年~2021年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は,水中音波探査,AUVによる湖底探索,湖底堆積物の温度勾配測定などによって,琵琶湖北西部(高島市沖)の琵琶湖最深部付近でメタン99%以上のガスを伴う深部湖底湧水を2009年に発見した.Kumagai et al.(2021)の調査によれば,湧水孔や深部湖底湧水からのガスによると思われる鉛直方向の水中音響異常(以降,ガス音響異常)は,南北約10㎞の長さで概ね線上に並ぶ.ただし,ガス音響異常は湧水孔の分布よりもばらつく.Kumagai et al.(2021)は,この深部湖底湧水による湖底環境への影響を危惧しているが,2013年以降は,同湧水については十分な調査は行われていない.
以上を考慮して,我々は,この深部湖底湧水の実態と湖底環境への影響を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」(2020~22年度)および「23K03494: 琵琶湖深部湖底における湧水・メタンの形成機構と同湧水が環境に与える影響の評価」(2023-25年度)によって研究を行った.
2 方法
広範囲で網羅的な水中音波探査を2022-2024年に,CTD測定,3深度(5m, 50m, 湖底)での湖水の水質と水素・酸素同位体比測定をY1(北緯35度20.22-20.25分, 136度6.09-6.13分,水深約90-100m)とT1(北緯35度22.19分, 136度05.83分,水深約90m)付近で2021-2024年に行った.ガス音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である. 我々は,Y1での湖底堆積物中の温度分布連続測定も2022年10月~2023年3月と2023年10月~2024年7月に行った.また,Y1において湖水表面で水上置換によってガスを2022年~2023年に3度採取し,その中のメタンの炭素・水素の同位体比の分析も行った.
3 結果と考察
ガス音響異常は広範囲に分布していて,Kumagai et al.(2021)の報告するような線上の配列にはならないが,ほとんどが60m以深の湖底で見つかっている.CTD調査の結果や水質は,Y1とT1で概ね一致していたが,一部の時期で,湖底においてY1とT1で若干の違いがみられた.2021~24年においては,深部湖底湧水の湖底環境への影響は軽微と思われる.採集したガスのメタン濃度は10〜60%程度であり,大気中のメタン濃度よりはるかに高い.検出したメタンは,そのメタン中の炭素及び水素の同位体比から,湖底堆積物に由来する有機起源のものであると判明している.2022年10月~2023年3月と2023年10月~2024年7月の期間中,Y1での温度勾配は150mK/m程度と見積もられた(通常の琵琶湖底で予想される温度勾配:50-70mK/m).この高い温度勾配は,湖底から湧水として出ている地下水が湖底下に熱を供給していると考えると説明できる.その熱が湖底の堆積物(有機物)を温め,メタン生成菌を活性化させてメタンを生じていると考えられる.
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や湧出孔・ガス音響異常の位置について貴重なデータを頂いた.滋賀県立大学環境科学部4年生の大谷秀音さん・高野美優さんには調査と分析を手伝っていただいた。これらの方々に感謝の意を表します.
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて,2019年~2020年と2020年~2021年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は,水中音波探査,AUVによる湖底探索,湖底堆積物の温度勾配測定などによって,琵琶湖北西部(高島市沖)の琵琶湖最深部付近でメタン99%以上のガスを伴う深部湖底湧水を2009年に発見した.Kumagai et al.(2021)の調査によれば,湧水孔や深部湖底湧水からのガスによると思われる鉛直方向の水中音響異常(以降,ガス音響異常)は,南北約10㎞の長さで概ね線上に並ぶ.ただし,ガス音響異常は湧水孔の分布よりもばらつく.Kumagai et al.(2021)は,この深部湖底湧水による湖底環境への影響を危惧しているが,2013年以降は,同湧水については十分な調査は行われていない.
以上を考慮して,我々は,この深部湖底湧水の実態と湖底環境への影響を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」(2020~22年度)および「23K03494: 琵琶湖深部湖底における湧水・メタンの形成機構と同湧水が環境に与える影響の評価」(2023-25年度)によって研究を行った.
2 方法
広範囲で網羅的な水中音波探査を2022-2024年に,CTD測定,3深度(5m, 50m, 湖底)での湖水の水質と水素・酸素同位体比測定をY1(北緯35度20.22-20.25分, 136度6.09-6.13分,水深約90-100m)とT1(北緯35度22.19分, 136度05.83分,水深約90m)付近で2021-2024年に行った.ガス音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である. 我々は,Y1での湖底堆積物中の温度分布連続測定も2022年10月~2023年3月と2023年10月~2024年7月に行った.また,Y1において湖水表面で水上置換によってガスを2022年~2023年に3度採取し,その中のメタンの炭素・水素の同位体比の分析も行った.
3 結果と考察
ガス音響異常は広範囲に分布していて,Kumagai et al.(2021)の報告するような線上の配列にはならないが,ほとんどが60m以深の湖底で見つかっている.CTD調査の結果や水質は,Y1とT1で概ね一致していたが,一部の時期で,湖底においてY1とT1で若干の違いがみられた.2021~24年においては,深部湖底湧水の湖底環境への影響は軽微と思われる.採集したガスのメタン濃度は10〜60%程度であり,大気中のメタン濃度よりはるかに高い.検出したメタンは,そのメタン中の炭素及び水素の同位体比から,湖底堆積物に由来する有機起源のものであると判明している.2022年10月~2023年3月と2023年10月~2024年7月の期間中,Y1での温度勾配は150mK/m程度と見積もられた(通常の琵琶湖底で予想される温度勾配:50-70mK/m).この高い温度勾配は,湖底から湧水として出ている地下水が湖底下に熱を供給していると考えると説明できる.その熱が湖底の堆積物(有機物)を温め,メタン生成菌を活性化させてメタンを生じていると考えられる.
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や湧出孔・ガス音響異常の位置について貴重なデータを頂いた.滋賀県立大学環境科学部4年生の大谷秀音さん・高野美優さんには調査と分析を手伝っていただいた。これらの方々に感謝の意を表します.