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[SCG57-10] 高速多点LA-CRC-ICP-MSを用いた全岩粉末試料に対する238U–230Th同位体比測定法の開発
キーワード:LA-ICP-MS、U–Th放射非平衡、第四紀
ウラン系列に属する放射性核種の存在度比を計測することで、マグマの生成から噴出に至るまでの過程を解読することが可能である。マグマ過程に制約を与える上で、ウラン系列の中間生成物の中でもトリウム-230(半減期:約75000年)が重要である。マグマの230Th/238Uは、マグマの生成や分別結晶を経てTh/Uの分別が生じることや、ウランに富む流体の付加により、変動する。[1, 2] その変動した230Th/238Uは数10万年のスケールで放射平衡時の同位体比へと近づいていくが、放射平衡時の同位体比からの残存する偏差はTh/Uを変動させる地質イベントの時間情報を反映し得る。以上の特徴を活用し、火山岩の238U–230Th同位体比データはマグマ過程の解明に向けてこれまで用いられてきた。
従来の方法では、238U–230Th同位体比の測定は溶液手法に基づき実施されてきた。[e.g., 3] 溶液分析法は高精度データが得られる反面、岩石試料の溶解や元素分離に伴い分析スループットに問題がある。そこで高速分析法が必要とされており、本研究では高速多点方式のレーザーアブレーション法とコリジョン/リアクションセルICP質量分析法を組み合わせ(msLA-CRC-ICP-MS)、岩石試料に対する238U–230Th同位体比の高速測定を試みた。高速多点方式のレーザーシステムは二枚の高速スキャンミラーと高周波数フェムト秒レーザー(>1 kHz)から構成されており、10 µm径のレーザービームを試料表面上で高速走査することで大面積のアブレーション(>1 mm2)を数秒以内に実施することができる(固体噴霧法)。[4] 本手法による単位時間当たりの試料導入量は従来のLA法や溶液噴霧法と比較して2桁以上高く、岩石に含まれる僅かな230Thの信号強度を高めることができる。
固体試料をイオン源へ直接導入することによる致命的な問題は、元素分離を実施しないことによる試料マトリクス由来の質量スペクトル干渉である。本研究では干渉除去のため、コリジョン/リアクションセル(CRC)技術の一つであるヘリウム運動エネルギー弁別法(He KED法)を応用した。本手法はこれまでジルコンの238U–230Th年代測定に用いられている。[5] イオンビームがCRCに導入されると、CRC内部でヘリウムガスとイオンが衝突し、衝突断面積の大きい多原子イオンは230Th+よりも多くの運動エネルギーを喪失する。そこで、質量分離部の前段で運動エネルギー弁別を実施することで、多原子イオンによる干渉の寄与を低減して230Th+を計測することができる。加えてヘリウムガスとの衝突によりイオンビームのエネルギー集束が改善し、アバンダンス感度が向上する。この改善に伴い、230Th+の信号強度に対する232Th+のピークの裾野の寄与を1%未満に抑えることができる。
本研究ではmsLA-CRC-ICP-MSを用いてペレット化した岩石粉末参照物質(JR-1, JA-1, JB-1a, JB-2, JB-3)の238U–230Th同位体比測定を実施した。得られた230Th/232Thは不確かさの範囲内で先行研究の溶液手法で得られた同位体比[6]と合致し、本手法の正確性が確かめられた。さらに本発表では高速高感度分析可能なmsLA-CRC-ICP-MSの応用可能性について議論する。
[1] H. Iwamori, Earth and Planetary Science Letters, 1994, 125, 1–16.
[2] S. Turner, C. Hawkesworth, P. van Calsteren, E. Heath, R. Macdonald and S. Black, Earth and Planetary Science Letters, 1996, 142, 191–207.
[3] T. Yokoyama, A. Makishima and E. Nakamura, Anal. Chem., 1999, 71, 135–141.
[4] Y. Makino, Y. Kuroki and T. Hirata, J. Anal. At. Spectrom., 2019, 34, 1794–1799.
[5] S. Niki, S. Kosugi, H. Iwano, T. Danhara and T. Hirata, Geostandards and Geoanalytical Research, 2022, 46, 589–602.
[6] S. Fukuda and S. Nakai, Geochem. J., 2002, 36, 465–473.
従来の方法では、238U–230Th同位体比の測定は溶液手法に基づき実施されてきた。[e.g., 3] 溶液分析法は高精度データが得られる反面、岩石試料の溶解や元素分離に伴い分析スループットに問題がある。そこで高速分析法が必要とされており、本研究では高速多点方式のレーザーアブレーション法とコリジョン/リアクションセルICP質量分析法を組み合わせ(msLA-CRC-ICP-MS)、岩石試料に対する238U–230Th同位体比の高速測定を試みた。高速多点方式のレーザーシステムは二枚の高速スキャンミラーと高周波数フェムト秒レーザー(>1 kHz)から構成されており、10 µm径のレーザービームを試料表面上で高速走査することで大面積のアブレーション(>1 mm2)を数秒以内に実施することができる(固体噴霧法)。[4] 本手法による単位時間当たりの試料導入量は従来のLA法や溶液噴霧法と比較して2桁以上高く、岩石に含まれる僅かな230Thの信号強度を高めることができる。
固体試料をイオン源へ直接導入することによる致命的な問題は、元素分離を実施しないことによる試料マトリクス由来の質量スペクトル干渉である。本研究では干渉除去のため、コリジョン/リアクションセル(CRC)技術の一つであるヘリウム運動エネルギー弁別法(He KED法)を応用した。本手法はこれまでジルコンの238U–230Th年代測定に用いられている。[5] イオンビームがCRCに導入されると、CRC内部でヘリウムガスとイオンが衝突し、衝突断面積の大きい多原子イオンは230Th+よりも多くの運動エネルギーを喪失する。そこで、質量分離部の前段で運動エネルギー弁別を実施することで、多原子イオンによる干渉の寄与を低減して230Th+を計測することができる。加えてヘリウムガスとの衝突によりイオンビームのエネルギー集束が改善し、アバンダンス感度が向上する。この改善に伴い、230Th+の信号強度に対する232Th+のピークの裾野の寄与を1%未満に抑えることができる。
本研究ではmsLA-CRC-ICP-MSを用いてペレット化した岩石粉末参照物質(JR-1, JA-1, JB-1a, JB-2, JB-3)の238U–230Th同位体比測定を実施した。得られた230Th/232Thは不確かさの範囲内で先行研究の溶液手法で得られた同位体比[6]と合致し、本手法の正確性が確かめられた。さらに本発表では高速高感度分析可能なmsLA-CRC-ICP-MSの応用可能性について議論する。
[1] H. Iwamori, Earth and Planetary Science Letters, 1994, 125, 1–16.
[2] S. Turner, C. Hawkesworth, P. van Calsteren, E. Heath, R. Macdonald and S. Black, Earth and Planetary Science Letters, 1996, 142, 191–207.
[3] T. Yokoyama, A. Makishima and E. Nakamura, Anal. Chem., 1999, 71, 135–141.
[4] Y. Makino, Y. Kuroki and T. Hirata, J. Anal. At. Spectrom., 2019, 34, 1794–1799.
[5] S. Niki, S. Kosugi, H. Iwano, T. Danhara and T. Hirata, Geostandards and Geoanalytical Research, 2022, 46, 589–602.
[6] S. Fukuda and S. Nakai, Geochem. J., 2002, 36, 465–473.