日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] ハイブリッド年代学ー年代値の意味とは?ー

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:仁木 創太(名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部)、伊藤 健吾(東京大学)、坂田 周平(東京大学地震研究所)、岩野 英樹(東京大学附属地殻化学実験施設)

17:15 〜 19:15

[SCG57-P03] LA-ICP-MS/MSを用いたジルコンのU–Th年代および微量元素同時測定

*仁木 創太1坂田 周平2、大野 剛3 (1.名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部、2.東京大学地震研究所、3.学習院大学)

キーワード:ジルコン、第四紀、LA-ICP-MS、U–Th放射非平衡

地球内部におけるマグマの生成、定置、そして噴出に至るまでの複雑なマグマ過程を理解するには、各過程の順序および継続期間を制約する必要がある。火成鉱物の中でもジルコンからは、ウラン系列に基づく放射性同位体年代測定から年代情報を、そして微量元素データからはジルコン結晶化時のマグマの情報を読み取ることができる。各マグマ過程の解明には大規模なジルコンデータに対する統計解析が有効であり、放射性同位体年代と微量元素組成の高速取得が重要である。
マグマ過程の解明に必要な高解像度年代データの取得には、数百から数千年の年代測定精度で第四紀火山に産するジルコンの年代測定を実施する必要がある。そのような若いジルコンの年代測定には、ウラン系列の中間生成物である230Thの測定が求められる(238U-230Th 年代測定法)。近年、レーザーアブレーション法とICP質量分析法を組み合わせたLA-ICP-MSを用いた238U-230Th 年代測定法の開発が進展している。 初期の研究では高感度な磁場型質量分析装置を利用して微量な230Thの測定が行われたが、m/z 230における質量スペクトル干渉が誤差の要因となる。[1,2] 主な質量スペクトル干渉として、ジルコンマトリクスから生じるZr2O3+などの多原子イオンおよび232Th+のピークの裾野が存在する。先行研究では、m/z 230における質量スペクトル干渉の信号強度を見積もり、その補正を行うことで230Th+の信号強度を推定している。したがって、干渉補正に伴う分析誤差が生じる可能性があり、分析誤差の低減には質量スペクトル干渉の寄与を低減する手法が重要である。
近年、干渉除去法としてコリジョン/リアクションセル(CRC)技術の活用が有力な手法となりつつある。最新の研究では、CRCにヘリウムガスを導入し、ヘリウムガスとイオンを衝突させ、エネルギー弁別を実施することで干渉を低減する手法(運動エネルギー弁別; KED)が238U-230Th 年代測定法に応用されている。[3] ヘリウムKED法を用いることで、230Th+よりも衝突断面積の大きいZr2O3+などの多原子イオンを選択的に質量分析装置内から排除することができ、また、イオンビームのエネルギー集束に伴ってアバンダンス感度が改善する。本手法の開発により、m/z 230における干渉の寄与が1%未満に抑えられ、第四紀ジルコンの正確な年代測定が可能となった。しかしながら、現行の干渉除去能では低ウラン濃度かつ完新世のジルコンの場合、干渉の寄与が顕著となる可能性がある。また、ヘリウムKED法はジルコンに含まれる微量元素の同時測定において有効ではない。たとえば、結晶化時の温度指標として用いられるチタン濃度を測定する上で2価イオンのZr2+が質量スペクトル干渉として存在するが、ヘリウムKED法では干渉除去が困難である。[4]
本研究では、質量スペクトル干渉の完全な除去を目指し、タンデム質量分析法(MS/MS)の酸素マスシフト法を238U-230Th年代および微量元素組成の同時測定に応用した。酸素マスシフト法では、一段目の四重極型質量分離部を通じ質量電荷数比に基づきイオンを選別し、二段目のCRCへとイオンビームを導入して酸素と反応させ、生じた酸化物イオンを三段目の四重極型質量分離部で選別し、検出器で計測する。本研究では、イオン光学系の条件最適化を通じてThO+の生成効率が約70%まで向上した。このイオンビームのCRC透過効率は先行研究のヘリウムKED法と同程度であった。本発表では、酸素マスシフト法を使ってウラン・トリウム非含有合成ジルコン、放射平衡時の同位体比を有する参照ジルコン、第四紀ジルコンから取得したデータに基づき、分析の正確性や精度を評価する。そして、本手法の応用可能性について議論する。

[1] M. Guillong, A. K. Schmitt and O. Bachmann, Journal of Volcanology and Geothermal Research, 2015, 296, 101–103.
[2] M. Guillong, J. T. Sliwinski, A. Schmitt, F. Forni and O. Bachmann, Geostandards and Geoanalytical Research, 2016, 40, 377–387.
[3] S. Niki, S. Kosugi, H. Iwano, T. Danhara and T. Hirata, Geostandards and Geoanalytical Research, 2022, 46, 589–602.
[4] T. Yuguchi, K. Ishibashi, S. Sakata, T. Yokoyama, D. Itoh, Y. Ogita, K. Yagi and T. Ohno, Lithos, 2020, 372–373, 105682.