日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレートの進化と不均質

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:鹿児島 渉悟(富山大学)、平野 直人(東北大学東北アジア研究センター)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、赤松 祐哉(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[SCG59-P01] アウターライズ断層に沿った海水の浸透速度に関する実験的検証

*成瀬 雄一朗1片山 郁夫1 (1.広島大学)


キーワード:アウターライズ断層、かんらん岩、浸透率、三軸変形実験、静水圧実験

海溝よりも海側で発生するアウターライズ地震は, 海洋プレートが折れ曲がる際に引張方向の力を受けて正断層が発達するものである. この断層は, 地下約40 kmのマントルにまで到達し, その割れ目に沿って海水が浸透することで,蛇紋岩化が起きていると考えられている. 本研究では, マントルへの水の浸透プロセス, 特にアウターライズ断層での海水の浸透速度を明らかにするため, かんらん岩の試料を用いて三軸変形実験を行い, 変型実験中と破壊後の浸透率の変化を測定した. また, 変形実験後は, 浸透率の圧力効果を調べるために静水圧下での実験を行った. これらの結果に基づき, アウターライズ断層に沿って浸入する海水の速度を議論する.
本研究では, 試料に北海道の日高山脈にあるアポイ岳周辺で採取された幌満かんらん岩を用いた. 作成した薄片とEPMAでの反射電子像観察から, 主要構成鉱物は, かんらん石, 斜方輝石, Cr-スピネルで, 変質をほとんど受けていなかった.実験には, 広島大学に設置されている圧力容器内変形透水試験機を用いた. 実験は, 室温で, 一定の歪速度(1. 8×10-6 s-1), 封圧5-10 MPa, 間隙圧は1.0-1.7 MPaの条件下で行った. 軸歪と周歪は2つの歪ゲージによって測定し, 浸透率は, 粘性の低い窒素ガスを用いて定差圧法に基づき算出した. また, 試料破壊後には, 静水圧下での実験を行い, 封圧を5-200 MPaまで変化させる中で,間隙流体として水を用いて浸透率を算出し, その圧力効果を調べた.
実験の結果, かんらん岩は, 変形初期段階から中盤まで弾性的な挙動が確認され, 破壊直前の高い差応力下では試料が少し体積膨張(ダイラタンシー)することが明らかとなった. この破壊前の応力-歪曲線の非線形関係は脆性変形時の典型的な挙動で, 試料中のマイクロクラックの発達を反映している. 最大差応力は, 封圧5 MPa下では, 312-360 MPa, 封圧10 MPa下では, 452 MPaとなった. また, 体積歪のデータをもとにダイラタンシーの開始応力を決定した. その結果, かんらん岩のダイラタンシー開始応力は封圧5 MPa下では, 最大差応力の61% (196 MPa), 封圧10 MPa下では最大差応力の76% (343 MPa)となり, 封圧の上昇に伴う最大差応力とダイラタンシー開始応力の上昇傾向がみられた. 変形前の浸透率は10-20-10-19 m2で,変形中の浸透率はほぼ一定であり, 最大差応力の96-99%の破壊直前で急激に上昇した.破壊後の浸透率は10-16-10-15 m2となり, 破壊前後で3-5桁の浸透率の変化がみられた. 試料破壊後に行った静水圧下での実験では, 封圧の上昇に伴い, 浸透率が低下する傾向がみられ, 封圧100 MPa付近での浸透率は10-16 -10-17 m2となった. なお, 浸透率の圧力効果は一定ではなく, 封圧~40 MPaまで急激に減少し, その後は緩やかな減少傾向を示した. 破壊した岩石の浸透率は, 有効垂直応力の増加に伴い, 指数関数的に減少し, ある応力で線形関係に変化することが報告されており, 本研究では, 封圧40 MPa付近で線形関係に変化し, 流れの経路が切断され, 切断された流れが生じるようになったと推測される.
これらの破壊されたかんらん岩の浸透率に基づいて, 断層に沿って海水が浸透速度をダルシーの法則によって計算した. 計算では, 断層先端の水圧をゼロとして, 水深4,000 mでの水圧を流体移動の駆動力とした. そして, パーコレーションモデルに基づき, 断層に沿って海水が浸透する深さを求めた. その結果, 海水の浸透は, 100万年で60-90 kmに達することが分かり, アウターライズ断層深部にまで海水は十分に浸透することが明らかとなった. このことから, アウターライズ断層の周りのかんらん岩は海水に浸されて蛇紋岩化が進んでいると推察され, ここで形成された蛇紋岩が地球内部に沈み込み, 脱水反応を起こすことで島弧での火山活動が促進されたり, スラブ内地震を引き起こしたりしていると考えられる. アウターライズ断層に沿って浸透する海水の流量や蛇紋岩化の程度など, さらなる研究が必要であるといえる.